島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

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小説「光の道」 第15回 狙われた旧郵政官僚の悲願

  燕が日本に戻り、京都では葵祭りが御所から下賀茂神社へさらには上賀茂神社に進んでいく5月15日。会合を重ねた未来懇談会は10回になっていた。
 10回目という区切りの時になにかあるのではと、政治部から総務省担当になったばかりの日読新聞の小宮守は期待して、総務省8階の記者会見室に来ていた。

 早実大学を卒業して、日読新聞に入って10年目。新人時代のサツ周りから始まって、希望の政治部に配属され、野党民正党担当になった。
 故郷の岐阜が選挙区ということもあり、中原次の内閣総務大臣と親しくなった。中原が民正党代表と親しいこともあり、自分としては何度もスクープをものにしたと思ったが、いかんせん野党の記事をどれだけ書いても、新聞紙面に取り上げられることは少ない。
 
議院内閣制においては、野党の政策は実現する可能性は極めて少なく、ニュースにはならないのだ。
 与党民自党担当への異動を願い出ていたら、それが裏目に出た。春の人事異動で、花型の政治部から、総務省記者クラブへと配属が決まってしまったのである。
 「随所に主となれ」という道元禅師の言葉を思い出しながら、取材を始めた。小森首相―竹村総務相ラインで未来懇談会の議論が始まっており、少しは面白いかなと思った。

 通信事業者三社の直接対決になるかと思われた4月20日のヒアリングであったが、JTグループは、出張を理由に依田社長を出さず、新浦副社長が出席した。がっぷり四つに組まず、肩すかしの戦法をとったのである。
 その結果、小寺新電電社長、宋ライブテレコム社長のアクセス分離、ユニバーサル回線会社などの大胆な提案は、メディアではほとんど無視された。
 競争事業者がどんな提案を出したとしても、JTが動かなければ実現しない。
(ようは、競争事業者は野党と同じなんだ。どれだけ、通信の未来はこうあるべきだという提言をしたとしても提言は提言。たんなるペーパーにすぎない。三分の一の株を保有している、政府、ひいては総務省が決断してうごかなければ何も動かない)

「何を、深刻な顔しているのよ」
 毎朝新聞の内海が小宮の横にすわり、ミニスカートから伸びた脚を組んだ。酒席で、「総務省の局長クラスから情報をとるのにはミニスカートがいい」と豪語するだけあって、見事な脚線美である。
 都築通信基盤局長の部屋には業者から付け届けされたワインが並んでいる。夜、局長室でワインを一緒に飲みながら、スクープをとってくるのが内海の得意技だった。

 「結局、何も動かないわよ。最初、早瀬座長は『ライブテレコムからは明快な問題提起をもらった。690円という数字は相当魅力的だ』と言っていたけど、その後すぐに『光ファイバー建設を一社で独占するような特殊会社を作るつもりはない。一社が独占でやっていくというのはどうしても効率性などの問題が残る。懇談会でこの形をとることは考えにくい』と言っているわ。総務省幹部の間では、結局失速すると言っているわ」
 
アクセス分離、ユニバーサル回線会社が提言された第七回会合以降、未来懇談会は「議論の整理」だけが記者会見で述べられ、いくら小宮が記事を書いても紙面では全く無視される状態が続いていた。
「しかし、今日はけじめとなる10回目だ。何か起きるとしたら今日だ」
「さすがに政治部出身。独特の政治カンというやつね。だけど、ここは総務省記者クラブ。三つ葉クラブの時代から、JTの思惑を総務省がうまく政策にして、民自党族議員に根回しして全てが決まる世界よ。何も変わらない」

 「だからこそ、変わるのだ。情報通信業界は、郵政票とともに、民自党の最大派閥橋中派の支持基盤だ。小森内閣の本質は、長い間、権力の中枢にいた橋中派つぶしだ。郵政民営化の次は絶対に、JT解体を狙ってくる。竹村総務大臣はその先兵だ」
「はい、はい。いつもの政治部的陰謀史観ね。でも、ここは官僚とJTが支配する世界よ。票と金さえだせば、政治家は何も言わないわ」
「そう言えば、君が懇意の都築局長。次の次の次官をねらっているという話じゃないか」

総務省は、旧自治省、総務庁、郵政省の三省が一緒になりできた官庁である。
二十二省庁から一府一二省庁へ編成する行政改革の時に、残った官庁を全部くっつけた「ぬえ」のような官庁と言われた。
地方自治行政と、行政管理にプラスして情報通信行政を担当するというのだから、どだい無理がある。
自治省は、国家公務員試験を一〇位以内で通った人間でしか入れないという、財務省と並ぶエリート官庁。三流官庁と言われた郵政省とでは差がある。総務省のトップである、次官は自治省出身者に占められている。

郵政省出身の次官をというのは、旧郵政官僚の悲願である。そこにJTが狙いをつけた。局長以上の人事は、政治が影響力を持つ。JTは票とカネで政治に影響力持つ。都築局長を次官にという旧郵政官僚の悲願に対し、JTが政治家に運動する。
 その代替条件として、総務省はJTよりの政策をするという暗黙の了解がいま情報通信行政の流れを作っていた。

「局長の次は、総務省に三人。つまり、自治省、総務庁、郵政省から一人ずつ取るために作られた『総務審議官』になるのは確実ね。そのあと、三人の中かから次官になる人間が選ばれる。旧郵政省としては、何としても『次官』にと政治に働きかけるでしょうから確実よ」
「そして、次官の後はどこかの財団で二年間、ロンダリングして退職金をもらい、JT副社長になるというわけか」
「それは言わぬが花。ほら、早瀬座長のお出ましよ」
 記者クラブに、眠たげに集まっていた記者たちが、顔を上げた。

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