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小説「光の道」 第16回 巨大通信会社分割の四パターン
「お待たせいたしました。大臣は所用のため、今日も私が記者会見をいたします」
当初、未来懇談会の後の記者会見は竹村総務相と座長の早瀬が並んで一緒に行った。ところが、最近は早瀬一人のことが多くなった。
政治的には、大臣が一緒かどうかが大きな意味を持つ。記者たちが、「未来懇談会」が失速したと判断した原因の一つが記者会見でもあった。
一〇回目の区切りということで、今日は大臣も一緒だろうと期待していた小宮も内心がっかりした。
早瀬は、窓の外を見た。まだ明るく、南風が青葉を揺らしているのが見えた。
この時期の南風を「薫風」と呼ぶ。早瀬は太古の帝王、舜が歌った「南風の歌」を思い出していた。
「南風の薫れる。もって我が民のいかりを解くべし」
「未来の通信のあり方について、率直に議論いたしました。このところの通信はIP化が進んでいる。あるいはFMCつまり携帯電話、固定電話の融合も進んでいる」
IPとは、インターネットで使われている通信規約の一つである、インターネットプロトコルのことを言う。そして通信手法にこのIPを使った電話のことをIP電話と呼ぶ。
IP電話では、従来の電話網を用いた電話交換機を使わない。サーバーとルーターがその代わりになる。重要なポイントはインターネットを使うので、同じIP電話なら時間に関係なく無料。一般加入電話にかけても全国一律料金になり、地域を超える。
JT東日本、IP西日本などというように、地域わけしていることがおかしくなってくるというのが、早瀬の論理である。
「こういうような大きな流れが出ている中で、JTのアクセス部門、ボトルネック独占の状況は全く変わっていない。さらにドミナンス性もある。これらをセットでしっかり議論しなくてはいけないということになりました」
ボトルネック独占、ドミナンス性を座長が明確に述べたという事で、記者たちは一挙に緊張してきた。
「JTのありかたについては四つの可能性があるだろうという議論になりました。一番目は、持ち株会社形式の下に事業会社がぶら下がる現状のまま、現状維持と言うものです。JTさんは、今のままで、持ち株会社の力を強めることで一体性を強めたいとおっしゃっているわけで、これが一番目のパターン」
JTに対して、いい印象を持っていないことが明らかにわかる言い回しであった。
「第二のパターンは、とりわけ強い独占性を持っているアクセス部門に関してしっかり機能分離を進めるというものです。イギリスのブリティッシュ・テレコムがオープンリーチでやっている形式です。ただし、事業者ヒアリングでもありましたが、それだけでは足らないと思いますので、人事交流の禁止とか、ブランド、つまりJTの名前を使わせないとかあると思います」
新電電の主張をとりいれるというのが第二のパターンの意味であった。
「それから三番目のパターンですが、ライブテレコムが主張いたしましたアクセス部門を別会社にする。完全に構造分離にといいましょうか、組織分離していくというものです」
記者たちは、唖然とした。早瀬は、早々にライブテレコムの「ユニバーサル回線会社」を否定していたからだ。
「兵は詭道なり」と孫子にいう。戦いの基本は敵に手の内を見せないことだと早瀬は考えていた。
「それから、四番目はアクセス部門を切り離したうえで、持ち株会社制度も廃止する。要するにJTグループ全体を資本分離するのが四番目のパターンであります。当然、四番目のパターンの延長上には、資本分離をした後にJT東・西、JTケータイなどがもう一度再統合することを認めることもその先のオプションとしてはあります」
早瀬は事務方に命じて、資料を配布させた。
「JTのありかたに関する四つのパターン
一、 現状維持
二、 アクセス部門の機能分離
三、 アクセス部門の構造分離
四、 グループの事業会社を資本分離」
記者たちがどよめいた。
「この四つのパターンの良い点・悪い点、メリット・デメリットなどを未来懇談会の構成員の中で議論いたしました。もちろん、今日の段階では結論は出ませんでしたが、現状のままではいけないという議論が多く出ました。改革の方向性については、どこが落としどころかということについては、今日の段階では意見集約に至っていないというところであります。私からは以上です。
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