島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

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小説「光の道」 第17回 巨大通信会社分離は可能か 2006年5月

  五月に帰ってくる燕を「玄鳥」という。玄(くろ)い鳥である。家の中にも入ってくる。杜甫の「絶句漫興」に「泥を含みて点汚す琴書の内、さらに飛虫をとらえて人に打着す」とある。
(燕はまだ可愛いが、記者クラブの記者たちはJTの意を受けて、報告書を汚したり、私にぶつかってくるだけだな)

 記者たちの手が、いくつか上がった。最初にベテランらしい記者を指名した。それが三つ葉クラブからの伝統で、この順番を間違えるとへそを曲げることを知っているからだ。

「JTについては、四つの可能性というか、選択肢と仰いました。まず、時間軸について、四つの選択肢の中でどのように想定されているかということ。もう一つは資本分離、資本関係をいじるという形になった時は行政が強制できるのですか」

 行政が民間会社であるJTに強制できるはずがないというのは、JT経営企画部が記者たちに対し、何度も洗脳してきたことであった。
「まず、時間軸について申し上げます。おそらく、パターン一から二、二から三、三から四という形で進むのか。それとも一気に進むのかという意味でしょうけど。そこまで踏み込んだ議論はいたしておりません」
 ベテラン記者が、JTから頼まれた質問はしたぞという満足そうな顔で、ペンを走らせ始めた。

「資本関係をいじるというのは、JT再々編のことを話されているのだと思います。それは当然、法律マターになりますから、未来懇談会、行政ができることではありません。それについては方向性を示すというだけかと思います」

 総務省記者クラブに「そらみろ、やはり口だけか」という空気が漂った。

「ですが、機能分離というのは違います。機能分離というのは、株主総会で定款を変えればできる部分というのがあります。法律を改正しなくてもJTの組織形態を、情報通信全体の発展の為に改革することはできうると思っています」

 毎朝新聞の内海が、小宮の横で勢いよく手を挙げた。
「しかし、JTの場合は、三分の二が一般投資家ですよね。機能分離して、JTの強みであるアクセス網を分離するようなことは企業価値を下げることになります。そんな改革というか、改悪をすれば、株主代表訴訟を起こされるリスクも存在すると思うのですが」

 早瀬は、「やれやれ」と思った。これもJT経営企画部が、記者たちをたびたび洗脳している理屈である。
「本日の段階では、資本分離まで行った時の株主価値の毀損までが議論しませんでした。個人的には、そこには十分留意しなくてはいけないと思います。ただ、上手な株式分割とかの方法をとれば、株主価値を毀損しなくてもJT組織再編ができる道はあると思います」

「しかし、JTの持つ、基礎研究部門の重要性を無視するわけにはいかないのではないでしょうか。安易にJTを分割するようなことがあれば、日本の技術力の向上を阻み、国際競争力を低下させる。国益を損なうことになると思いますが」

 JTの基礎研究所が、日本の情報通信技術を支えているというのは電電公社時代からよく言われていた。自然独占によって生まれる、豊富な超過利潤が研究費に回された。独占利潤に対しての批判を避けるために、基礎研究をして国益に貢献しているとのポーズをつくっているにすぎないのだが、「三葉クラブ」以来の残滓が記者たちにもしみ込んでいた。

「研究に関しては、JTだけにこだわる必要はないと思います。四番目のパターンである、JTの資本分離まで行きますと、JT法自体を廃止することになります。したがって、JT法の中にある、ユニバーサルサービスの規定と基礎研究をしなければならないという規定ははずれることになります」

 小宮が勢いよく手を挙げた。
「委員の中で、現状のままでいいという方は皆無と以前にお話しされました。ということは、四つの中で第一のパターンは消えて、第二のBTのような機能分離。第三のライブテレコムが主張したユニバーサル回線会社、構造分離ですかね。そして第四の新電電電が主張した資本分離の三つの中から選んでゆくと考えていいのでしょうか」
「現状のままという選択肢が消えたわけではありません。現状のままでは問題が多いというご指摘でしたね」
 早瀬はそう答えて、コップの水をゆっくりと口に運んだ。

「JTの株は政府が三分の一保有しています。これを売却して、完全民営化するという議論はありませんでしたか。」
 政治部にいた、小宮らしい質問である。JT完全民営化となれば、小森内閣の郵政民営化につづく大きな政治テーマとなる。場末の総務省の政策でなく、一挙に官邸主導の政策になるのだ。

「資本分離、第四のパターンですね。資本分離は、JTの持ち株会社の廃止と、JT法の廃止ということですから、政府の株式の売却も視野に入ってきます。財政再建が政治課題となっている今、株式売却による歳入増加は政府としても魅力的なのではないでしょうか。ただ、議論はしましたが、結論はでておりません」

「今後のスケジュールなのですが、五月中には結論をまとめられるということでしょうか」
小宮は「政治とはスケジュールである」と先輩記者から教えられた。何月何日までにこれを決めると、目標日時を設定するとすべての政治アクターがその方向に向かって走っていく。
「本日が五月九日です。五月はいつもより多く、二回程度考えていますので、その中で最終的なものが決まるのか、あるいはもう少し先になるかは議論の進めかた次第だと思っております。ただ、大きな問題ですので、与党にもきちんと御理解をいただかなくてはなりません。とすると、通常国会が閉まる六月中旬くらいまでにはまとめる必要があります。国会が閉まると、先生方は地元に戻られ、総務部会なども開かれなくなりますからね。紫陽花の咲く頃までにはまとめたいと思います」

終わりかと思ったら、最後に二番目のベテラン記者が手を挙げた。これも、三葉クラブ以来の伝統で、まとめの質問は、二番目の古参記者がするのである。
「法律改正が必要かどうかというところがポイントだと思うのですが、JT法を変えるのかどうか、未来懇談会の結論として出していくつもりはありますか」

「そこは未知数です。先ほどの四パターンのうち、機能分離であれば法律改正は必要ないのかもしれません。したがって、かならず法律改正が必要だという最終報告になるかどうかはこれから議論いたします。よろしいでしょうか。お疲れ様でした」
 (三葉クラブの残滓にまみれた記者たちは、やはり泥で報告書を汚すな)
 早瀬は、コップにぬるくなった水を残したまま、記者会見室を後にした。

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