島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

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小説「光の道」 第19回 政治は嫉妬と怨念で動く

  新橋のライブテレコム本社は、東京を中心にいくつかビルを持つ林ビルの新橋の物件に三〇階までを借りている。ITベンチャーから出発したライブテレコムは自社ビルを持っていない。これからも、どのような形で発展するか未知数だからだというのが、社長である宋の発想である。

 宋は楽市・楽座など経済の新時代を開いたということで織田信長を尊敬している。信長が、美濃を攻略し、斎藤道三が造った岐阜城に入った。そのときの述懐が印象的だったと宋が会議で語ったのを松沢は聞いたことがある。

 岐阜城は山城である。金華山頂上にある天守閣から、美濃の地を見ると一つの事業を完成したという気になる。しかも、守るにはいいが、登るのに不便な山城では保守的になってしまう。だから「蝮の道三」が美濃一国だけしか取れなかったのではというのが信長の感想だった。自らのライブテレコムグループがそうあってはならないと、自社ビルを持たないのだ。

 ライブテレコム渉外本部は、最上階の社長室からかなり離れた九階にある。応接室も持たないので、小宮記者への説明は、会議室で行われた。

 武田が、ペットボトルと、プラスチックのコップを小宮の前に置いた。
「私は政治部が長かったので、総務省に行く時に、先輩記者からあそこは旧金田派の牙城だと聞いてきましたが、今はそうでもないようですね」

 自らの体制を守るためにJTが頼りにしていたのは政治家である。その歴史は長く、ルーツはコンピューター付きブルドーザーと言われた金田元首相。
 総務省の前身である、郵政省。郵政族のドンとして、大きな影響力を持っていたのが金田元首相とその派閥である金田派である。
 一九五七年に、三〇代で郵政大臣となった金田は放送免許を県ごとに割り振った事で放送業界に圧倒的な力を持つようになる。更には、郵政事業をおさえ、全国の郵便局を票の源泉にし、同時に通信業界のドンともなる。

「現在の持ち株会社を中心とするJTの現体制を創ったのは金田派の実力幹事長だったということです。一九九九年に行われたJT再編は、一九九七年の頃からJTを分割するかどうかで当時の郵政省とJTが争っていました」
 ライブテレコム渉外本部長の井桁が昔を懐かしむように話し始めた。

「当時は、郵政省の中にJTと対抗しようという機運があったのですね」
「そうです。そもそも逓信省から郵政省と電電公社になったとき、優秀なのが電電公社に行き、劣ったのが郵政省に残ったという意識がJTにはあります。所管官庁なのですが、JTは郵政省をせせら笑っています」
「なるほど、郵政省は権力を持つが権威を持たない。JTはそれに反発し、対立する。対立しているところに金田派が調整役として乗り込むわけか。部族を対立させつつ統治するイギリスの植民地経営みたいなものだ」

「政治部のご出身は視点が違いますね。JT分割かどうかで、当時の逓信委員会で大議論がなされているとき、通産省所管の商工委員会で、戦後は財閥の復興を許すということで禁止されていた持ち株会社が解禁されました」
「そこに、実力幹事長が目をつけた」
「ご明察。本来は銀行に国際競争力をもたらすためになされた持ち株会社解禁適用第一号がJTになったのです」

 持ち株会社体制なら、資本はつながったままとはいえ、物理的に会社が分割できるということで郵政省も得点を得る。JTのほうも分割されるが、持ち株会社のもとでつながれるということで、受け入れることができる。まさに足して二で割る政治的妥協の結果が今のJT体制なのだ。

「まさに、政治ですね。だから、JTは政治工作を重視するし、社長は政治家みたいな脂ぎった顔をしているんだ」
「はい、当時の経営企画本部長が今の新浦副社長ですが、朝、昼、晩と高級料亭吉兆で政治家と食事し、吉兆から会社へ通っていると言われたものです。今でも、体質は変わりません」
 井桁が、少しうらやましそうに話した。

「今の、小森首相が郵政民営化に執着しているのは、特定郵便局長会に恨みがあるかららしいですよ。お父さんが逓信大臣だったので、もともと郵便局は支持基盤だった。ところが、代替わりとともに、当時の金田派候補に支持を変え、結果として初陣で小森首相は落選した。それ以来、郵便局は天敵らしいのです。」

「えっ、郵政改革はそんなところから出ているのですか。私、小森首相のファンなのに」
 机の端に座っていた、武田が心から驚いた声を出した。
「政治を動かすのは、嫉妬と怨念なのですよ。ところで、実力幹事長が引退した後、通信族のボスは誰なのですか。あまり見えてこないのですが」

 小宮が政治部出身らしい質問をした。
「参議院の幹事長である、片岡虎三郎元総務大臣がそのポストをねらっています。ただ、金田派は小森内閣では、反主流ですから、竹村総務大臣のもとでやりにくそうです。でも、今、情報通信業界は景気がいいですから、片岡さんのパーティーは人の集まりがすごいですよ」

「野党、民政党では」
「やはり、次の内閣総務大臣の中原さんでしょう。彼は、競争事業者の話もよく聞いてくれます」
「ありがとうございます。ここまでは、政治部出身の私にはよくわかりました。もう少し、技術的なことをお聞きしたいのですが」
「では、この後は松沢がお答えします。私も、ちょっと会合がありますので失礼します」
 井桁が、立ち上がった。

「あっ、そうそう、もう一つありました。民営化後、JTは五年ごとに組織見直しをするという規定が創られていました。JTは再編後に、この規定を外すように動き、実現させました。これを実現したのも金田派政治家の力だと聞いています」
(郵政民営化も、公共事業の削減も、その実態は小森首相の金田派の票と金をつぶすものだった。今回のJT再編は、竹村総務大臣を使った金田派つぶしの一環だ。これは動くな)
 小宮は、コップの水を飲み干した。武田が出したミネラルウォーターはよく冷えていた。

小説「光の道」 第18回 霞が関の風景

  「うーん、よくわからん」
 総務省から出て、霞が関の官庁街を歩きながら小宮はつぶやいた。
かつては、夕刻になると客待ちのタクシーが列をなしていた霞が関だが今はない。
 財務省なら銀行、国土交通省なら建設業界、そして総務省なら放送・通信業界の渉外部門が争うように、担当の官僚たちにタクシーチケットを渡した。

 公務員倫理規程の徹底で、接待はできにくくなった。会社でも、コンプライアンスが強化され、役人との会食は事前稟議が難しくなった。
タクシーチケットは渡してしまえば大丈夫なので、「最後の接待ツール」と呼ばれていた。だが、タクシーチケットにより、自宅までタクシーで帰り、運転手からビールやつまみまで提供されていた官僚たちの実態が国会で糾弾され、これも消えた。

 夕方の霞が関は静かになった。
「本日はお疲れ様でした」
振り返ると、ライブテレコムの松沢渉外課長が、武田と一緒に立っていた。
「ああ、記者会見、来ていたのですか」
「ええ、広報に頼みましてね、後ろの方で拝見していました。するどいご質問でしたね」
「そうだ、いいところでお会いしました。今度、少し、時間をいただけませんか。本日の早瀬座長記者会見がJT再編を行うかどうという政治的に大きなテーマであることはわかったのですが、私はずっと政治部なので背景がよくわからない。JTからは、何度も説明を受けたので、JTを分割すると株主代表訴訟になるとか、研究開発がおろそかになるとかの意見は刷り込まれているのですがね」

 JT広報の仕事は、国営電々公社の時代から政治家や官僚、記者たちに自分たちの主張をすりこむのが主流である。広報の政治担当から将来の社長候補性が集まる経営企画部にいったり、OBが与党民自党の議員になったりさえしている。

 これに対し、新電電やライブテレコムの広報は自分たちの商品について広報するのが主流である。どうしても、政策に対する説明を担当するのは傍流になってしまい、JTと比較してエネルギーのかけ方がちがう。

 新聞紙面をみると、JTからの情報を基盤にした「JT寄りの記事」が多くなるのはそのせいである。

 内海の毎朝新聞経済部長などは、露骨で松沢が名刺交換した時、言い放った。
「最初にいっておくけど、私は、新電電やお宅など、新規事業社は危ういと思っている。JT寄りと思ってもらって結構」

 そこから思うと、話を聞きたいという小宮などはありがたい記者である。
「今度と言わず、今からでもいかがですか。これから記事を書かれるのでしょうから、1時間ほどで手短に」
「助かります。では、どこに行きましょうか」
「車で十分ほどですから、新橋の私どもの会社にお越し頂けますか」

 これが、予算豊富なJT経営企画部なら、どこかのホテル、レストランになるに違いないし、その後、役員が自由に使える銀座のクラブにでも案内するに違いなかった。

 武田が、タクシーをつかまえた。松沢が、小宮を先に乗るように促した時、空を見上げた。
「どうかしましたか」
「帰雁です」
「きがん?」
「燕と入れ替わりに、北に帰っていく雁のことです。雁は木をくわえて日本にやってくる。長い途上で、疲れるとそれを海に浮かべて休むというのですがね。もちろん、伝説です。帰って行くときに、その木を再びくわえて帰っていく。残った木は、日本でなくなった雁たちの木ということで、供養のためにその木を集めて炊くのが雁風呂です。雁は、手紙の運び手でもあり、故郷へ手紙を届けてくれるという言い伝えもあります」
「松沢課長は、バード・ウォッチングが趣味なのです。三月に、イギリス出張に行ったときに、朝早くから公園に双眼鏡を持って散歩に出かけて、朝食の時、『日本では珍しい、コマドリが普通にいた。こちらではロビンというのだが、スズメみたいに普通にいるのだ』と興奮気味に話すのですよ。急に立ち止まって、どうしたのかと思ったら、鳥を見ていることが多いのです。さあ、乗ってください」

 武田が、タクシー前方座席のドアを開けながら、二人を促した。
「バード・ウォッチングですか。いい趣味ですね」
(帰雁か。俺も、再び、政治部に戻っていけるのだろうか。いや、戻りたいな)
小宮は、遅々として暮れることのない五月の空を見上げながら思った。

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