島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

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小説「光の道」 第21回 光ファイバー料金の価格破壊

 「カンパイ」
小宮がのどをならして一気に飲んだ。よく冷えたビールが心地よかった。
「うまい。一杯、三〇〇円とは本当に安いな」
「うちは、二四時間とは言わないまでも、『成功したいなら、一四時間働くべし』というベンチャースピリットが生きています。外で飲むより、ここで飲んだ方が、時間の節約になります。一杯飲んでリフレッシュし、また仕事に向かうのもいます。大きな声では言えませんが、少しアルコールが入った方が頭も回るようです」
松沢に小宮が弾んだ声で答えた。
「それについては、トータリー・アグリーです」
横に座った武田が軽く声をあげて笑った。

「一杯三〇〇円で安いと言われましたが、ビールは自動販売機で買えば、五〇〇ミリリットルで二七〇円ですよね。総務部長が言うには、家賃は、昼だけ使おうと夜も使おうと同じ。光熱費も同じです。人件費も、夜食用のスタッフは出てきていますから変わりません。一番高いのは家賃ですから、稼働率を上げた方がよいのだそうです。そんなに高級なのはありませんけど、ウィスキーもありますよ」
「それじゃあ、二杯目は水割りで。あまり飲みすぎて原稿が書けないのも困る」
「早瀬座長は、シングル・モルトが好きで、マッカランがお好きなようだけど、ここはそんな高級なのはありませんから。バランタインでいいですか」
「もちろん。でも、武田さん、詳しいね」
「ええ、ちょっと聞いたことがあって。私、とってきますから、質問を続けてください」

水割りを注文しに行く武田の後ろ姿を見ながら、小宮が聞いた。
「ところで、宋社長が、光を六九〇円で貸し出せると言ったことにJTは反発していますよね。そんなことできるわけがないと。六九〇円というと、このビール二杯ぶんです。JTが皆さん貸し出す、接続料と言いましたっけ、光ファイバーの賃貸し料は五〇〇〇円ですよね。これを試算したのは渉外の皆さんですか」

 JTが新電電や、ライブテレコムなどの事業社に光ファイバーを貸し出す料金は一本あたり約五〇〇〇円。これに、独自サービス料金を乗せるから、光ファイバーの料金は七〇〇〇円近くになる。(2006年当時)
 宋が提案した六九〇円というのは、五〇〇〇円の七分の一。そこに独自サービス料金をのせても、今の半分にすることも可能だ。革命的な安さであり、光ファイバーの価格破壊が起きるといえる。

 他の人が提案したなら、一笑に付されるだろうが、ADSLで価格破壊をなしたことがある宋の言葉だけに、説得力があった。
 
 JTのように、独占から出発した企業は商品価格を、投資した金額と経費を足してそれが回収できる値段を設定する。独占だから、いかに高くても消費者はそれを買うしかなく、かかったコストが全部回収できるという時代の名残である。価格が供給者の論理、独占企業の論理で決められるのである。

 それに対し、ライブテレコムの宋社長はマーケット、消費者の視点から考える。これからの情報化時代には、どんな形であれ、人々はブロードバンドにつながらざるを得ない。生活がなりたたないような時代が来るからだ。したがって、電話と同じように全国六〇〇〇万回線がひかれるべきというのが、宋の持つ将来のビジョンである。

 光ファイバーが貸出料五〇〇〇円、他社のサービス料二〇〇〇円で合計七〇〇〇円は庶民には高い。アーリー・アダプター、高くても早めに買う人しか光ファイバーを使わない。ADSL並み三〇〇〇円以下にすれば一挙に普及する。三〇〇〇円から他社サービス料二〇〇〇円をひくと一〇〇〇円。、だから、コスト削減策で一〇〇〇円程度の接続料にできないかという逆算方式であった。
 宋の発想は、人々が「いくらなら利用するか」という、消費者からの視点から来ていた。

 「光ファイバーを、二〇一〇年までに三〇〇〇万といわず、電話と同じ全世帯六〇〇〇万回線を敷設する総投資を試算したところ、約六兆円となりました。JTが三〇〇〇万回線、三兆円のコストと言っていますからまあ、妥当な線かと思います。小宮さん、財務はお詳しいですか」
「大学は、経済学部でしたから、会計学は必修でした。ぎりぎりの可でしたが」

 「光ファイバーの減価償却期間を二〇年とおきます。JTは、これをもっと短くしています。でも、光ファイバーはもっと持つと思いますよ。宋などは『光ファイバーはガラスです。エジプトのピラミッドからガラスのアクセサリーが出るでしょう。金属なら、何千年も持たない。ガラスの方が持つ。だから銅線を使う電話線より光ファイバーの方が絶対に安くなる』と言っています」
 光ファイバーを説明するのにエジプトのピラミッドを使う宋の論理展開に、小宮は思わず噴き出しそうになった。

「資金調達はユニバーサル回線会社による債権とします。一種の独占企業ですから、法律によって何らかの縛りが必要でしょう。でもそれゆえに、政府保証のような安心感を与えるでしょうから、年利二%と計算します。政策的に一挙に光ファイバーを敷設すれば、コストも削減できる。詳細な試算資料は未来懇談会に提出しましたが御希望なら、後でお届けします」
 プラスチックのトレーに水割り二杯をのせて、武田が帰ってきた。
「お待たせしました。水割りです。これも三〇〇円、二杯で六〇〇円です。私もいただきます」

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