島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

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小説「光の道」 第26回 審議会の実態と改革

  未来懇談会のメンバーは座長である早瀬をいれて八人。それ以上の人数になると議論は集約できないという竹村大臣のアドバイスにしたがったものだ。
 
日本の情報通信政策をリードしてきたシンクタンクである野中総合研究所の松中雄志理事長、日本にインターネットを導入したと言われる山井和則慶應大学教授など、一家言ある人がそろっている。
 「一家言」はもともと、司馬遷の『史記』にある。史記百三十巻最後の「太史公自序」で『史記』を著した動機を述べている。司馬遷は先人の業績を網羅し、「欠」を補って「一家の言を成し」たという。

 早瀬はメンバー選定も竹村のアドバイスにしたがって、JT組織問題を扱うことに真っ向から反対する人を選ばなかった。長いこと、タブーとされたJT組織問題という「欠」を補おうとしたのである。

 さらに、官僚はばっさりとはずされていた。総務省の普通の審議会では官僚は事務局をにぎり、討論資料を作成し、報告書原案をつくることで議論をコントロールする。

だが、未来懇談会では通信行政を担当する都築情報通信基盤局長や総務審議官は議論の席に参加はするものの、懇談会の議事は、会合当日に早瀬が持ち込んだ資料にしたがって進んでいく。懇談会の報告書自身も座長自身が作成すると宣言していた。
未来懇談会では、官僚は真の意味での「事務局」でしかなかった。

五月二九日に開かれた第一一回懇談会も、早瀬の提出した資料が中心に議論された。
「それでは、一ページ目をご覧ください。電気通信市場におけるJTグループのシェアですが、加入者回線はJT東西が九四・七パーセント、約九十五%であり、他の事業者はJT地域網のオープン化措置がなければサービス提供ができない状況です。次のページにある『JT再編の評価』についてです。地域・長距離分離による公正競争確保はできましたが、JT東西は県内通信のみ可能で、IP化が進展する中では意味を失っています。さらにグループ経営はむしろ強化の方向にあるというのがポイントです。なにかご意見はありませんか」

 日本のインターネットの父と言われ、ADSL導入を推進したる山井教授が厚い眼鏡に手を触れながら話し始めた。
「ADSLの成功について触れられた方がいいと思います。IT戦略本部で議論されJTのメタル回線を開放した結果、五〇社もの企業がADSL事業に新規参入しました。日本のブロードバンド料金が、世界一安くなったのはJTメタル回線をオープンにした結果でしょう」
 
IT戦略会議が開かれていた、二千年頃。JTはISDN(総合デジタル通信網)というプロジェクトを推進しており、アメリカで開発されたADSL(非対称加入者線)を敵視していた。
 
だが、世界を見るとADSLが中心でどんどんブロードバンド革命は進んでいた。たとえば、韓国である。ISDNの二十から百二十倍早いADSL方式を採用。日本のJTにあたる韓国テレコムの電話線設備を開放させ、街角の「IT房」などでその楽しさを味わせることで急速に普及した。
 
香港やシンガポールもそれに続く姿が報道され、IT戦略本部はJTの電話設備を解放させる方針を採用。新電電やライブテレコムもADSL事業に参入したのだ。

「私は総務省の他の委員会の座長をしているので、調べさせたら、日本の場合1・5メガビットタイプでJTで二六五〇円、ライブテレコムで二九三八円。ニューヨークがベライゾン・コミュニケーションで四〇五九円、ロンドンのブリティッシュテレコムブロードバンドが五〇二三円でした。本当に世界一安くなりました」
 
IT戦略本部がJTの電話設備を開放させる政策をとったが、実際にADSLを敷設していったライブテレコムや新電電は意図的なJTのサボタージュに悩まされた。工事事業者の選定や部材の調達などで複雑な手続きをつくり、競争事業者の参入障壁としたのである。
明らかにグループ会社であるJT東西とのハンディキャップを感じた新電電やライブテレコムが、今回アクセス分離や持ち株会社廃止を主張するのは、この経験による。

 「林首相も二一世紀の幕開けとともに、IT戦略本部を立ち上げでIT政策を推進したのは先見性がありましたよね。当時はITを『イット』と読んだなどと言われていましたが。あのときは、ライブテレコムの宋社長が当時のJT宮城社長と大論戦をしました。あれから五年ですか。日本のインターネット環境もずいぶん変わりました」
 松中が、当時を懐かしむように言った。

「先日、宋社長と食事をしたら、『林首相は将来、歴史の教科書に載る。なぜなら、IT戦略本部をたちあげて日本のIT革命への道を開いたからだ』と言っていましたよ」
 山井の発言を受けて、委員の何人かが声をあげて笑った。

「それを聞いたら、林元首相は喜んであちこちに言いふらしますよ。あの時のJT宮城社長は技術出身でしたから、議論の中で抗しきれなくなってしまったのでしょう。最後には宮城社長もとうとう、ADSLが技術的に可能なことを認めざるを得なくなった。技術系出身の社長だからよかったのでしょうね。ところが、今の依田社長は労務系だ」

 山井と同様、IT戦略会議でも委員を務めていた松中が話し終えると早瀬が続けた。
「独占で、外部との競争がなかったので、社内で労務系を中心とする事務系と、技術系の激しい権力闘争が続いたのでしょうね。民営化後は技術系と事務系が交互に社長を務めています。ともあれパターン一の現状維持というのは、問題ありで、パターン二から四。機能分離、構想分離、資本分離の三つのパターンについて検討するという方向性でよろしいですか」
JTがクライアントである山中が、理事長としての義務を果たすように発言した。

「組織問題、JTを分離するというのは時間がかかりますよね。それに、なぜJTだけが分離をするのかという反論にどう対抗しますか」

「JTは公社時代から構築したボトルネック設備を保有する特殊会社で、いまでも政府が三分の一の株を持っています。まず、アクセス分離によってドミナント部分を切り離します。ただ、それだけではJTが飲まないでしょうから、JT法を廃止してJTを自由にします。持ち株会社のくびきをはなれ、自由になったJT東西やJTケータイが自由に事業展開したほうがJTグループの社員にとってもいいのではないでしょうか」

「なるほど、二段ロケット方式ですね。JTケータイなどは、持ち株会社に反感を持っているから、うまくやれば動くかもしれませんね」
会議は、早瀬の想定したシナリオどおりに流れていった。

第十一回の会合終了後、早瀬はいつものように記者会見した。
 「JT組織問題について議論しました。現状のままでいいという委員は以前申しましたように皆無。したがって、最低でもアクセス部門を機能分離するということで合意しました」
 この発言は重要だった。事実上の最低防衛線を引き、JTが現状維持されるというパターン一を消えさせたのである。

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