島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

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小説「光の道」 第27回 男の嫉妬

 政界を動かすのは嫉妬である。そして、男の嫉妬ほど怖いものはない。
テレビで名が売れた経済学者から、民間人枠で小森内閣の経済財政担当大臣に就任して以来五年間。ずっと閣僚に居座り続ける竹村総務大臣への嫉妬は与党民自党のなかに渦巻いていた。

 閣僚の数は内閣法で一四人と決められている。ただし、特別な場合をのぞいては三人増やすことができ一七人までである。そのうち、参議院枠は二名程度。一五人が衆議院議員から選ばれる。与党民自党は三〇〇名以上の衆議院がいるのだから、枠はあまりに少ない。民間人にポストをあたえるなどというのはけしからんということになる。

 それでも経済財政担当大臣などという、実際に各省庁を統括する大臣でない間はまだよかった。経済財政担当大臣は、「横割り大臣」とよばれ、省庁横断的な課題に対応するためにおかれている。したがって、スタッフも少なく、せいぜい二百人から三百人、それも各省庁からの寄せ集めである。
これに対し「縦割り大臣」は、各省の設置法にもとづいて「長」としておかれた大臣である。スタッフの数は総務省五千人、国土交通省五千人などで、大きな深い権限を持っている。

 初代総務大臣であり、民自党参議院幹事長の片岡虎太郎は竹村の動きを苦々しく思っていた。財務省と並んで、国家公務員試験の上位合格者が入省する旧自治省出身。もちろん東大出身で、学者とはいえ、一橋大学出身の竹村を低く見ていた。

 旧金田派の流れを汲む橋中派に所属、情報通信族のドンになろうとしていた矢先に小森内閣となり、しかも自らの金城湯池にしようとしていたJTを分割しようとしているのである。

 「選挙の洗礼もくぐっておらず、学者としても二流の竹中が何を言っているんだ。えらそうに」
 片岡があちこちで不満をもらしているのを、政界に通じている依田JT社長が見逃すはずがなかった。

 依田は、情報通信政策について意見交換をするという名目で三カ月に一度開催している吉兆での勉強会で片岡に、未来懇談会の対抗軸として、民自党電気通信調査会の中に「通信高度化小委員会」を立ち上げてくれることを依頼した。
 
 調査会のたち上げとなると、民自党政策調査会の承認がいる。政策調査会長は小森派でありなかなか難しいが小委員会なら、簡単に設置できる。それでいて、小委員会で意見をまとめれば、片岡個人の意見でなく、与党民自党の意見とすることができる。

 初代総務大臣であり、参議院民自党幹事長である片岡が委員長をつとめるということで、小委員会であるにかかわらずその存在感は大きかった。通信業界関係者の間では「片岡委員会」と呼ばれた。

  依田の手元には、片岡が委員長として発言したメモが届けられていた。
「JTが引けば引くだけ赤字になる光ファイバーを、自らの責任感で全国に必死にひこうとしている。さすがにJTだ。だいたい、私はライブテレコムの宋などというのは気に入らない。まるで山師だ。あいつの言っていることは、JTの光ファイバーにただ乗りしようとしているに過ぎない。竹村にいたってはアメリカ外資の手先だ。JTを分割して、アメリカに売り払おうとしている。(拍手)皆さん、私たちは国会議員として、情報通信主権、国益を考えなくてはいけません。日本の発展のためにはJTの組織に、今手をつけるべきではありません(拍手)」

 依田が、自分が決裁した政治資金にふさわしい働きをしていてくれるなと満足げにメモを見ながら、秘書に命じ、永井経営企画本部長と、このところお気に入りの有田課長を呼んだ。

 永井がいつものように直立不動で依田の前に立った。
「まあ、座りなさい」
 社長室のいすを薦めると有田の方が永井より先に腰をおろした。
「未来懇談会の様子はどうだ」
「はい、先日二九日の第一一回懇談会の後の記者会見で、座長である早瀬が『JTがこのままでいいという構成員は皆無。最低でもアクセス分離で合意した』と発表しました。JT組織問題に本気で手をつけるようで、ゆゆしき事態ですが、せいぜいアクセス分離で構造分離、資本分離には踏み込めないと思っております」
「それは、楽観的にすぎる。竹村とその後ろにいる小森総理がそんな中途半端なことをするはずがない」

「社長、よろしいですか。私は少し気になることを耳にはさんだのですが」
「言ってみろ」
「どうも、竹村と早瀬は二段階作戦をとるようなのです。まず、第一ステップとして法律改正をともなわないアクセス分離を行う。そして、JT組織問題を次期首相の下で、郵政民営化のように政治的課題にする。次期首相に擬せられているのは、現幹事長です。JTと片岡先生、さらにはJT労組と結んだ民政党を抵抗勢力として次期総選挙を戦う。総選挙に勝利した後は、JT分離を政権のテーマとして求心力を維持し、長期政権を築くというシナリオがあるようです」

 依田は、有間が政治的にかなり高度なことを話すので一瞬沈黙し、口を開いた。
「君は、どこでそんなことを」
「申し訳ありませんが、情報の出所について今は申し上げられません。ただ、確かな筋で、竹村の口から直接聞いたという一次情報に近いとだけ申し上げます」

 有間がちらりと永井の方を見た。永井がいては話せない。社長と二人だけのときにという合図のように見えた。
「わかった。君の分析は片岡先生に伝える。それから、今後、片岡先生との勉強会は永井に代わって君が同席しろ。秘書にそのように言っておく。永井、次回の未来懇談会はいつだ」
「第一二回は、六月五日と聞いております」
「早いな。今週末にでも片岡先生に会わなければ。秘書を呼んでくれ」
 有田が勢いよく立ちあがった。
「社長、片岡先生との緊急勉強会でございますね。秘書さんと連携をとって、至急セッティングいたします」

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