島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

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小説「光の道」 第34回 アナリストの厳しい見解

 なかなか太陽が沈まない夏至の日。JT持ち株会社の定例記者会見が開かれた。
 
JT依田社長は、総務省の私的懇談会である「通信の未来を考える懇談会」でJTの組織問題が検討されたことについて、新浦副社長をともなって苦情を堂々と述べていた。

「JTグループの資本分離や、JT東西のアクセス部門を構造分離するという議論は、JTグループの企業価値に大きく影響してくるということは、実際のビジネスにタッチしたことのない学者先生には理解できないようだ。株主の皆さんにとってみれば、完全に財産権の侵害だという気持ちになります。これまでもこれからもJTは株主の皆様のためにあるという株主重視ということを重く受け止めて対応させていただく」
 学者にはわからないという指摘は、未来懇談会の委員だけでなく、学者出身の民間大臣である竹村総務大臣へのあてこすりでもある。

 「ユーザーの要望に応じて提供できるサービスをJTが提供できないということになれば、我々も事業者として存在できない。ユーザーは、JT東西の固定と、JTケータイの移動の融合サービスも求めており、ワンストップでサービスを提供してほしいと望んでいる。JTグループは会社がバラバラだから提供できないと言っていたら、ユーザーの役に立てないし、事業者としてのレーゾンデートルがなくなります。総務大臣の私的な、よろしいですかあくまで私的な懇談会で法律を変えるなどとの報告書がでたようですが、実際に法律を変えうるかどうかは定かではありません。これでは、早い変化に対応できません。私どもは、現行の会社法の枠組みの下で許されることをぎりぎりまでお願いし、ユーザーのお役に立ち、株主の皆様の期待に応えていきたいと思っております。私からは以上です」

通信業界の定例記者会見には、三つ葉クラブ以来の情報通信記者会所属記者と証券アナリストが参加する。JT広報に飼いならされている情報通信記者会の記者たちはともかく、証券アナリストたちのJTを見る目は厳しい。

 政治部から、情報通信記者会に来た日読新聞の小宮は、本日のJT定例記者会見の前に証券アナリストに「JTは株主のことを本気で考えているのか」という疑問をぶつけてみた。
 
国内最大の証券会社のアナリストが言った。
 「JTがいう、株主って誰のこと?株主のことなんて全く考えていないよ。JTが『株主のために』というのは組織問題のためのいいわけだよ。これだけ売り上げ規模が大きいのに利益率が低すぎる。あまり利益を上げすぎると、規制をかけられるかもしれないので、無駄なコストをかけて利益を出しすぎないようにしている。宣伝広告費など最たるもので、利益が出すぎそうになるとテレビCMや新聞広告が増える。情報通信記者会の記者など、その情報を新聞社本社の営業や、放送局営業にその情報を流すだけで、でかい顔ができるという話だ。君ももうすぐわかるよ」

 JTの前身は、元国営の電電公社である。民営化の後も、政府が三分の一以上の株を持つ特殊会社であり、アクセス網など電電公社時代に作った設備を引き継いでいる。独占的支配を阻止し、競争を促すために、数々の規制がかけられてはいるが、いずれもJT持ち株の経営企画部の活躍で骨抜きにされている。
 
あまり利益が出すぎると、「JTはもうけすぎ」という批判が出て、新たな規制がかけられかねない。だから、JTは規制をかわすために、ほどほどの利益しか確保しようとせず、積極的に大きな利益を出して株主に還元しようなどという思いは全くないというのが、何人かのアナリストの最大公約数の意見であった。

 また、米国資本の証券会社のアナリストはこう言った。
「組織分離問題を避けるいいわけのために株主を使っている。形としては民間会社だが、利益を出し、成長をつづけ株主へ還元するなどという普通の会社の発想は全くない。世界の独占的事業者、ドミナント企業は情報交換をしている。『株主のため』と言い続けて規制を逃れようとするのは、米国の通信事業者が昔からよく使っている常套手段。それを真似しているのだ」

小宮は、アナリストの解説を聞いて、JTがたいへんな利益を出しているのに、いつも「将来は暗い」という記者会見をする理由がわかった。そして、情報通信記者会所属の記者たちがJTに厳しい質問をしないことにも納得した。

 いつものように、ベテラン記者たちがJT御用記者的質問をしている。それを聞き流して、発言のタイミングを待った。
 手を挙げた。
「はい、それでは前から二列目の方どうぞ」
 司会をしているJT経営企画部の有田が小宮を指名した。

「日読新聞の小宮と申します。実は私どもの関連会社である、日読コミュニケーションが未来懇談会のJT組織問題に関連して、アンケートをとりました。その中に、『JTの現状についてどう思いますか』という記述式の回答があるのですが、そこには『対応がすべてにおいて遅く柔軟性がない』『殿様商売の体質が根強く残っている』など厳しい声が多く集まりました。『JTは現状維持でなく、改革すべきか』という設問には58%の人が『改革すべき』と答えました。これについてどう思われますか」

 依田が明らかに不機嫌そうに答えた。
「御社のアンケートについては詳細を拝見しておりませんので、すぐにはお答えいたしかねます。後ほど、よく勉強させていただいて、広報を通じてお答えいたします」
 
小宮は追加質問をしようとしたが、有田がすぐに内海を指名した。
「毎朝新聞の内海です。民自党、情報通信調査会の幹部が『竹村大臣がすり合わせをしたいといっているが、二つの案で合わないところは合わないままでいい。政策を決めるのは、政府と与党であって最終的に法律を変えるには国会の承認が必要。JTの組織問題は軽々に扱うべきではない。大臣の私的な懇談会にすぎない未来懇談会と中身を同じにする必要がない』と発言されておられることをどう思いますか」
 
今度は、破顔一笑した依田が答えた。
「御見識だと思いますね。さすがに政権与党として長く責任を負っておられる方々のご発言と思います。我々は、基本は事業をやっている会社であり、持続的に発展しなくては株主に御迷惑がかかる。さらに、激しいグローバル競争の中で勝ち抜かなくては国益を損する。国際社会で戦うためには、ある程度の規模が必要ということを御理解いただいているのだと思います。さすがに国益というものは何かをよく理解しておられます」
 株主や、国益まで言及してJTグループの組織問題をとりあげた未来懇談会報告書をけん制した定例記者会見が終わった。

 依田を送り出した有田が、小宮に近づいてきた。
「すいませんでした。まだ御質問があったようですが、時間の関係できってしまいました。後ほど、広報を通じましてお答えを差し上げます」
「いや、そんなに急がなくても結構です。それより、ずいぶん焼けていますね」
「ええ、先週、新浦副社長のおともで沖縄に行きまして、一日出張を伸ばして潜ってきました。沖縄はすっかり夏ですよ。マンゴーも熟れきって美味しいし、スナックパインもそろそろ時節だし、沖縄特産のライチーもとっても甘かった。少しですが、お答えと同時にお届けします」
「いや、結構です」

 手を振ってこたえると、有田が表情も変えずに言った。
「そうですか、お嫌いなら仕方ありませんね。ところで、小宮さんは元々花形の政治部でいらっしゃったとか。情報通信記者会などでは御退屈でしょう。なんでしたら、私どもから政治部に戻れるようにお口添えしましょうか」

 夏至である。太陽はまだ沈んでいない。いつまでも沈まず、不快な暑さをもたらす太陽の存在感が小宮にはJTグループそのものに見えた。

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