島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

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小説「光の道」 第36回 回転ドア

  竹村総務大臣や片岡民主党参議院幹事長らが七月一四日に合意した「通信のあり方に関する政府与党合意」では、焦点となったJT組織問題について「『二〇一〇年の時点』で検討を行い、その後速やかに結論を得る」と明記された。
 
 この政府党合意の内容は経済財政運営の基本方針「骨太方針」に反映され、七月十八日に閣議決定された。未来懇談会座長である早瀬は、六月二五日にまとめた報告書でJTの組織見直しの議論を「『二〇一〇年には』通信関連法制に抜本的に見直すために検討を速やかに始めるべき」と提言した。

 その一方、片岡や部会長の飯田を中心とする民自党情報通信調査部会はJTの組織問題は「『二〇一〇年ころ』に検討するべきだ」と主張し、意見が決定的にかい離していた。
 
 懇談会終了後、三週間近く続いた調整を経て、七月一四日に合意したことを関係者は「奇跡」と呼んだ。「骨太の方針」は七月半ばまでには決めなくてならないことを考えるとまさに時間切れぎりぎりの決着だったのだ。

 早瀬は、すでに夏休みに入っており学生も教授たちもいない東城大学十階の研究室で、日読新聞、小宮記者のインタビューを受けていた。

「半年間にわたった懇談会が終了しました。最終報告書を自己評価してください」
「国民生活に密着しており、通信インフラに対するしっかりとした将来像、改革の道筋を示すのが私の任務だと思っていましたので、大変な緊張感と責任感の中で十四回の懇談会を進めてきました。委員の先生方もすばらしく、いい議論ができたと思っていますし、ほぼ満足のいく結果が出せたと思います」

 早瀬が、型どおりの答え方をすると、小宮が挑発的に質問した。先輩から「政治記者は相手を怒らせて本音を引き出すものだ」と教え込まれていた。
「しかし、JTにあり方に関しては、民自党の圧力などがあって、迷走。記述にブレが出ているように見えましたが」

「そんなことはありません。最終報告書の中で明確に『まず機能分離』と書いています。議論の中で、どう進めるかというスタンスから、ゴールをどういうイメージで描くかというスタンスで決めたからそう見えただけです。私を含めて学者は本を読むときは初めから終わりへと読む。組織論などの経営はまったく逆です。終わりから始めて、そこへ到達するにはどうするかを考えます。この意識転換がぶれた様に見えたのかもしれません」

 小宮が少し興奮気味に聞いた。
「ということは、JTの資本分離はさけられないということですか」

「もちろんです。だからそう書きました。JTの組織問題については四つのパターンを明示しましたよね。第一が現状維持。第二がアクセス部門の機能分離。第三がアクセス部門の別会社化、構造分離というものです。そして、第四が事業会社の資本分離。今回の報告書は機能分離を即刻やる。第四の資本分離は必要な検討を速やかに始めると明記しています。ただ、第三の構造分離、アクセス部門の別会社化をしてから資本分離に進むのか、機能分離がしっかり行われれば、別会社化せずに資本分離に進むのかというのは詰め切れませんでした。ライブテレコムの宋社長のプレゼンが見事だったので、印象的でしたが私たちにとって、構造分離は資本分離へのプロセスの一つだったのです」

小宮はさらに食いついた。
「でも、民自党との調整の中で後退もあったのではないですか。たとえば、最終報告書では『持ち株会社の廃止・資本分離等を一体として進めることを念頭に所用の措置を講ずる』とあります。この『念頭に』がない、『持ち株会社の廃止・資本分離を一体として進めるために所用の措置を講ずる』というのが原案だったと聞いていますが」
早瀬は、委員の誰かから聞いたのだろう原案をもとに聞いてくる小宮を好もしく思った。他の情報通信記者会メンバーは皆、JT経営企画部からもらった資料で質問してくるぐらいだったからだ。

「そうですね。確かに、あなたのおっしゃる通り、最終報告で『後退』を感じさせる部分があるとするなら『念頭に』というところでしょうね。持ち株会社廃止や資本分離をするためにでなく、それらを考えながらという意味ですから、結論は出ていないことになります。ただ、報告書の中に『検討体制・工程などを具体化し、速やかに公表する』ように示してあります。官僚の世界では『速やかに』というのは数カ月以内を意味します。十月頃には何か動きがあるのではないでしょうか」

「そして、最後まで譲らなかったのはJTの組織形態見直しの実施は二千十年と書きこまれたことですね」
「ええ、それがあったからこそ、『政府・与党合意』で『二千十年時点で検討を行い、その後速やかに結論をえる』となったのです。速やかにというのは数カ月以内ですからね」
「なるほど、この文面だけをみるとJTの組織改革は先送りされたように見えますが、『政府与党合意』という切り札を手に入れ、さらに、政府の経済再生の運営方針、『骨太の方針二千六』に盛り込ませて、二千十年にJT組織問題を検討することを政府の方針とすることにお墨付きを得たのですねところで・・」
 小宮がもったいぶったように一呼吸を置き、先輩政治部記者から聞いたことを話し始めた。
「巷では、竹村総務大臣のあとの総務大臣は早瀬座長で決まりだと噂されていますよ。小森総理の後継で朝香官房長が総理になり、側近の須賀総務副大臣が官房長官に抜擢される。そして、竹村さんのように民間出身の大臣として、早瀬さんが総務大臣になってJT改革をする。見事な二代目の『回転ドア』ですが、JTにとっての悪夢のシナリオだとささやかれています。本当のところどうなのですか」
初耳だった。

「回転ドア」とは、政治任用によって大学、シンクタンク、民間企業から政府高官となり、一定の期間の後、「回転ドア」が回るようにまた大学などにもどることを言う。

 アメリカなどは大統領が代わると、三千人人以上がワシントンを去り、大学、シンクタンクなどで政策研究をしていた人々が大統領の指名により新たに政府に入る。
竹村が慶早大学教授から、大臣になったのは日本では、「民間大臣」と呼ばれ、珍しがられるが、世界では珍しくなく、普通のことなのだ。

「いや、そんなことは考えたこともありません」
「でも、小森総理が次の総裁選にでないということは、すでに織り込み済みです。小森さんの後ろ盾がなければ、竹村さんは何もできません。竹村さんは、慶城大学に再び戻るらしいですよ。まさに、『回転ドア』です」
 (なるほど、そういうこともあるかも知れない。政治家でもない竹村さんは「事を成す」ために政治の世界に入ったにすぎないからな)
 早瀬は、黙って小宮の話を聞いていた。

「次は朝香官房長官が総理になる確率が高いです。そのときには、早瀬さんをまずは経済財政担当大臣にして、骨太の方針に盛り込まれた『JT改革』を推し進める。そして、二千七年の参議院選挙で勝利した後、小森内閣の郵政民営化、古くは中曽根内閣の国鉄民営化のように、表看板にして抵抗勢力と戦いながら〇九年の衆議院選挙を迎えるというシナリオらしいですよ。そのキーマンが早瀬さんだとか」

 冷えてしまったコーヒーを手にとりながら、早瀬に健全な野心が芽生えてきた。
(こんな若い政治記者まで噂が浸透しているのか。政府与党合意のプロセスに私を同席させた時からうすうす感じていた。人間は結局、偉大な先人のまねをしながら生きてゆく。小森首相の後継である浅香は同じ手法をとろうとするだろう。未来懇談会でまとめた報告書を自分の手で立法化し、政策として実現するのも悪くない。回転ドアを回すか)

「小宮さん、さすがに政治部らしい面白い仮説ですね。政治は『ネバー・セイ・ネバー』ということですか。でも、私のところには全くそんな話はありません」
 早瀬が本心を隠して、重々しく言うと、小宮が拍子抜けするほど明るく言った。
「そうですよね。だいたい、この噂を流しているのはJTの経営企画部の有田課長だから、変だと思ったのですよ。人事を潰すには、先に漏らして反発を誘うに限るといいますからね。でも、そのうちこの話はどこかの雑誌記事に出ますよ。JT広報が仕掛けていますから」

 早瀬はコーヒーを一口飲んだ。冷えているせいか、よけいに苦く感じた。

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