島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

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小説「光の道」 第39回 二〇一〇年問題・・JT分割

 不利な状況の中でも、競合事業者がまちわびていたのが、二〇一〇年に始まるとされた「JT組織問題の議論」である。「二〇一〇年問題」は、強大なJTグループを崩す一穴であった。竹村前総務大臣の「通信の未来を考える懇談会」でJT組織問題を考える議論がもりあがった。二〇〇六年のことである。
 
懇談会は、実質的独占で日本の通信業界をゆがめている張本人はJTだとして、即座に機能分離、さらにはJTグループのJT東西、JTケータイなどを完全に資本分離して自由にさせることすら視野に入れて、報告書をまとめた。
「二〇一〇年には通信法制を抜本的に見直して、JT持ち株会社の廃止などを含む検討を速やかに始めるべき」

 これに対し、JT経営企画部の働きかけにより民自党片岡元総務大臣、松田情報通信調査部会長などが反発を強め、調整が行われた。
 報告書提出後、三週間の調整が行われ、当時の浅香官房長官と側近であった須賀総務副大臣の尽力でなんとか合意にとりつけた。
 巨大な実質的独占企業体であるJTグループの命運を握る「政府・与党合意」は以下のようにまとめられている。
「JTの組織問題については、ブロードバンドの普及状況やJTの中期経営戦略の動向を見極めたうえで二〇一〇年の時点で検討を行い、その後速やかに結論を得る」

 新浦が社長に就任したばかりの、二〇〇七年夏に開かれたJTグループ社長会。依田前社長を前にして、主要グループ各社の首脳陣に新浦が二〇一〇年問題に対して決意表明をした。

 「政府与党合意の『二〇一〇年問題』は絶対にJTグループの組織見直しありきの議論にはさせない。政府与党合意をきちんとよんでもらえばわかるが、『世界の動向やブロードバンドの進展状況を見ながら、情報通信全体のあり方を考える』というのが政府与党合意の趣旨であることをここで再確認しておきたい。JTの組織をどうするかなどという議論は、世界の動向を見ると『一週遅れ』の議論である」
 
 有馬は経営企画部部長として、新浦の原稿を作った。
有馬が、企画立案し、持ち株会社社長である新浦がJTグループに指示すると二五万人がその方向に動く。JT経営企画部はまさに、JTグループの参謀本部なのである。有馬は参謀としての実権を手に入れそれを行使することを楽しんでいた。

 JTグループの総帥となった新浦は、組織防衛の決意表明を行った後、矢継ぎ早にJT持ち株経営企画部の強化策を打ち出した。
 
 まずは、元総務事務次官の金井薫氏を、JT持ち株会社の副社長に招へいした。
事務次官は役所のトップである。しかも金井氏は自治省、総務庁、郵政省の寄り合い所帯である総務省の中では肩身が狭い郵政省出身の事務次官。四年間ほど、総務省関係の財団理事長をつとめロンダリングが終わっているので、法的には「天下り」とは言えないが、実質的「天下り」である。
 
 これほど「天下り」に対して、厳しい評価のある昨今だが、JT持ち株会社のような強者は世間の評判など気にする必要はない。少々、マスコミは騒ぐだろうが「人のうわさも七五日」。いずれ忘れる。
 それよりも、いざ二〇一〇年問題の時に、後輩の局長以下に圧力をかけられる元事務次官をうちに囲んでしまった方がいいというのがJT持ち株の考え方である。
 要は、力なのである。

 さらに、現職の局長以下に、JTへ恩を売っていけば、「退職後はJTの副社長になれる」という印象をつけられるのが大きい。
 そして、同じ二〇〇七年六月の人事で、有間は経営企画部部長に抜擢された。片岡元総務大臣との勉強会にずっと出ており、政界とのパイプが強いことが評価されたのだ。
 
 有馬は新浦から囁かれた言葉をしっかりと頭に刻みつけている。
「二〇一〇年問題は、圧倒的に重要だ。JTは大きく、強くなくてはならない。二〇一〇年問題を乗り越えた時、君の将来も見えてくる」

 だが、すぐに有馬にとっての誤算が生じた。頼りの片岡元総務大臣が、〇七年七月の参議院選挙で落選してしまったのだ。
 思いもかけない民自党の大敗北。参議院で民自党過半数を失い、国会は衆議院では民自党が、参議院では野党民生党が多数を占めるという「ねじれ国会」になった。
 
 新浦は記者会見で「何も影響がない」と表面的には平静を装った。しかし、何も影響がない訳ではない。大打撃だというのが本当のところであった。
 片岡落選を有馬が告げた時、新浦は激怒して言った。
「片岡さんの選挙区は岡山だったな。JT西日本は何をやっていたのだ。岡山支店長は、すぐに更迭しろ。民自党にJTが反省していることがわかるようにな。これから政界工作員の再編成だ。有馬君なにか腹案はあるか」

 「はい。まずは、JT広報にいたこともある瀬古議員を中心に再編成します。ただ、注目しなくてはいけないのは、次の総選挙で民自党から民主党への政権交代があるかもしれないということです。新浦社長、そこで一つお願いがあるのですが」
「何かね。言ってみなさい」
「はい。JT労組と接触することをお許しいただきたいのです。今回の参議院選挙でも情報産業労働組合連合会出身の議員が新人で一人当選しました。同じく全国区で出ている斎藤雅彦参議院議員は当選二回でもありますし、民生党次の内閣総務副大臣もしています」
 新浦は何だ、そんな事かという顔をした。

「そうか、君はまだ労組と持ち株との本当の関係を知らないのだな。わかった。これから毎月開いている労組委員長との情報交換会にも私の随行として参加しなさい。斎藤か。一度あったことがあるが、どうも頼りなかったな。政治家というより、うちの研究所にいるようなタイプだった」
「ありがとうございます」
 
 有馬は頭を丁寧に下げた。有馬は持ち株会社とJT労組が、俗に言う「ズブズブ」の関係であることを知らないほど初心(うぶ)ではない。これを機会に、労組との情報交換会に出席することが目標だったのだ。斎藤のように票も金もJT労組に丸抱えされている議員を操り人形のように動かすには労組との関係が強いことが必要だったのだ。

 それから二年近い時が流れた。衆議院議員の任期は、二〇〇九年九月まで。浅香総理が参議院議員選挙敗北の責任をとって辞任して以来、民自党は「ねじれ国会」でふらふらとなっていた。

 民自党と民正党との支持率は民自党二〇%、民正党三五%となっており、日本で初めての選挙による政権交代の可能性が高まっていた。有馬は、民生党に布石を打っておいたことに満足していた。

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