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小説「光の道」 第43回 天地鳴動の政権交代
まさに、天地鳴動であった。八月三〇日。日本で初めての有権者の選択による、「政権交代」が現実のものになった。民政党は三〇八議席という地滑り的勝利。そして、九月一五日、「政治主導」をスローガンにした民政党鷹山内閣が発足した。
通信業界関係者注目の総務大臣は、おおかたの予想通り中原が就任した。
正式な内閣発足の前日、早瀬が執務室でインターネットニュースを眺めていると「総務大臣に中原氏内定」と流れた。お祝いの電話をと携帯電話を手にした。
当時の鷹山代表とともにライブテレコムを訪問した中原に「光ニューディール政策」を説明して以来、早瀬と中原は携帯電話で連絡を取り合う仲になっていた。
プロジェクトの三要件の一つ「象徴」に対し、早瀬は当初、宋社長でいこうと思っていた。しかし徐々に、それだけでは足らないことがわかってきた。ベンチャーの雄である宋には、ファンも多いが敵も多い。ここにはプラスアルファが必要だと考えていたときに、中原が現れた。
当選五期。テレビの政治番組の常連だけに全国的に知名度も高く「改革派」である。早瀬もよく政治討論番組で一緒だったので、気心も知れていた。宋と同じ長崎県出身というのもいい。宋社長プラス中原を、JT分離という大いなる企ての「象徴」にしたい。そのためには、中原が総務大臣になってほしいと考えていた。それが、実現したのだ。
夜十時を過ぎていたので、ちょっと遅いかなと一瞬躊躇したが、留守電にお祝いを残せばいいだろうと思いなおし発信ボタンを押した。
思いがけず、一回のコールで中原が出た。
「中原総務大臣内定だそうで、おめでとうございます」
「ありがとうございます・・と言ってはいけないのですよ。官邸からは正式発表がされるまでに漏れたらポストを取り消すと言われています」
中原が明るい声で言う。
「そうですか。それでは、正式発表を楽しみにしています」
他からも電話がかかってくるだろうからと短く電話をきろうとしたら、中原が続けた。
「いただいた電話で恐縮ですが、宋社長にもお伝えいただきたいことがあります。第一は、明日の大臣就任の記者会見は気にしないでくださいということです。とくに、情報通信関係は」
中原新大臣がJT組織問題をどう話すかは情報通信業界すべての注目の的であった。それを気にしないでくれと言う。
「それからもう一つ。総務副大臣は、JT労組出身の斎藤さんになりそうです。なんでも、官邸が考えている総務大臣候補は改革派だそうなので、斎藤さんをいれないと納得しないとJT労組から言ってきていると、報道による副官房長官候補が言っていました」
鷹山内閣の副官房長官には、松沼参議院議員がなると報道されていた。松沼は、京都府選出。同じく京都出身、新電電社長の小寺に可愛がられJT独占問題については、厳しい問題意識を持っている。
「しかし、斎藤さんでは、ゼネコンの幹部を国土交通省の副大臣にするようなものだと批判が出るのではないのですか」
早瀬が懸念を感じて言うと。
「報道による官房副長官によると・・面倒くさいですね。松沼さんによると、政治の世界ではまとめようとするとき、一番の反対派をそのプロジェクトの責任者にするといいのだそうです。『とりこむ』というのですが、直接の担当者にすると、かえって堂々と反対しにくいからいいだろうとのことでした。鷹山総理も『光ニューディール』を四年の任期中に行われるおつもりのようですから・・ええと、総務大臣候補もそのつもりだと思いますよ」
早瀬は思わず噴き出しそうになるのを押さえながら言った。
「それでは、まだ何も決まっていないとのことですから、中原さんの『次の内閣』総務大臣の、『次の内閣』がとれるのを祈っています」
「そうなのですよね。私が『次の内閣』総務大臣になったのは浅香内閣の時でした。それから二人も民自党の総理が変わりました。次の、次の、次になってやっと政権交代です。しっかりやりますよ・・と総務大臣候補も思っているのではないですか」
九月半ば、暑さはまだ残るが、吹く風には秋の気配が感じられた。早瀬は劉邦が頂羽に勝利した後の「大風の歌」を気持ちよく思い起こしていた。
「大風起こりて、雲飛揚す。
威、海内に加わりて、故郷に帰る。
いずくにか猛士をえて四方を守らしめん」
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