島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

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小説「光の道」 第49回 情報通信ビジョン・・光を使った教育改革

  一二月二二日、冬至。一年のうちで最も夜が長い日である。
日読新聞の小宮は、総務省八階にある記者会見室に早めに入ってきた。中原総務大臣が、記者会見をするという。五〇ほどならんだ椅子席には、場所取りのための各社の記者のメモ帳がおいてあるだけだった。
毎朝新聞のメモがあった。ちょうど、その横の席が開いていたので座った。

「あら、小宮さん。早いですね。本日は何か重要な発表があるのですか」
 毎朝新聞の内海が小宮の横に座り、ミニスカートからすらりと伸びた脚を組んだ。
「それは、内海さんの方が詳しいでしょ。斎藤副大臣か都築次官から何か聞いているでしょう」

 内海が、小首をかしげるように小宮を見た。
「それが、斎藤さんも都築さんもよく知らないの。中原大臣が、事務方にも何も相談せず、政務の秘書官を通じて、記者会見をしたいと言ってきたというのよ。それから、ユーストリームとかいう、インターネット配信を記者会見で使いたいとか言ったとか。『そんなことをすると、記者クラブから総スカン食いますよ』と、何とか、なだめたとか」

 「ああ、それで記者がまだ来ないのか」
「あいかわらずね。まあ、都築さんの顔をたてるということで、各社一名ぐらいは記者を出すでしょうけど、ベテランは来ないわよ。抗議よね」
 何人かの記者が、入ってきたが、大臣会見なら多数並ぶテレビ局のカメラも今回はない。冬至にふさわしい寂しい記者会見場であった。

「大臣、入られます」

 中原が記者会見場に入ってきた。ガラ空きの記者会見席をチラリとみて、マイクの前にたった。
「年末も押し迫り、まもなくクリスマスです。お忙しい中、本日お集まりいただいた皆様には、私からクリスマスプレゼントを差し上げたいと思います」
 記者たちが何だろうと中原を注目した。

 「先日の情報通信タスクフォースでお約束した私のビジョン。『光の道構想・・中原ビジョン』です。皆様に資料をお配りして」
 政務秘書官が、十名にも足りない記者たちに資料を配布した。

「今の日本経済は焦土のような状態です。今後、一〇年かけてICTを徹底的に活用し、国民の生産性を三倍にする。これが戦略目標です。そのために情報通信投資を倍増します。私の所管である総務省の施策として展開するとともに、国家戦略室がとりまとめている今後の成長戦略にも盛り込みたいと思います。」
 インターネット放送に会見を解放するという記者クラブをないがしろにする方針に抗議するために、サボタージュ半分だった記者たちがあわててメモを取り始めた。

「経済成長戦略の戦略目標として、『光の道』を整備します。光回線の世帯カバー率は80%といわれます。だが、カバー率は、引こうと思えば引けるというところまで光ファイバーがきているというだけです。実際の世帯までつながっている世帯カバー率は、二八%にすぎません。二〇二〇年までに全世帯に光回線によるブロード版網、光の道を構築する。光、一〇〇パーセントを目指します。光の道をベースにICTを使った教育を行います。目指すのは光を使った教育改革です」

 小中学校へのデジタル教科書の配備や三六五日二四時間利用できるオンラインサービス行政の実現。具体的な中原ビジョンの説明が十分ほどつづき終わった。

 内海が手を挙げ、中原がパーカーの万年筆を持って指名した。
「毎朝新聞の内海です。中原大臣、カバー率一〇〇パーセント、全世帯四九〇〇万戸に光ファイバー敷設というのは膨大な資金がかかると思います。それだけのものをJTに負担させる訳にはいかないでしょう。オーストラリアのように国費の投入もお考えですか。膨大な財政赤字がある中で、新たな公共事業のようなことが出来るのですか」

「国税の投入は考えていません。政府保証債や、複数の共同出資などファイナンスの方法はいくつあると思います」

「いったい、どれぐらいの資金が必要だとお考えですか」
「全世帯への光敷設は、シンガポールのように計画的に、一挙にやることができれば相当コスト削減できると聞いています。三兆円もあれば出来るのではないですか。イメージとしては、シンガポールのように光の敷設会社を設立し、家庭までのラストワンマイルを整備するという手法もある」

 明らかにアクセス分離をも視野に入れていると思われる中原大臣の言葉に、記者席に緊張が走った。

「日読新聞の小宮です。先日行われた、タスクフォースではJTグループの市場支配力を懸念する声。アクセス会社を分離すべきだという声が相次ぎました。この中原ビジョンは、アクセス分離を前提としていると考えていいのですか」

「JTの分離が前提ではありません。あくまで、情報通信で生産性を三倍にする。そのために光一〇〇パーセント、『光の道』を構築するにはどんな手法がいいかをタスクフォースにて検討いただきます。あくまで、タスクを持ったフォースですからね。ただ、敷設したインフラをドミナントのJTが占有し、競争事業者が上手く使えないというのでは生産性三倍は達成できないというなら、アクセス分離が必要ということになります。
 むしろJTが光の敷設や管理を行う別会社を作り、他事業者と協力してやっていくという方がウィンーウィンの関係になるのではないかと思います。イギリス、シンガポール、オーストラリア、世界の趨勢はそのようですよ」

「それでは、大臣も次の予定がございますので、これで記者会見を終了させていただきます」
これ以上、話させてはまずいと思ったのか、司会者が急いで会見を打ち切った。

 翌、二三日。小さく、中原ビジョンの記事が掲載された。 
「情報通信で『三%』経済成長。中原総務相、『ビジョン』を発表
 中原総務相は二二日、ICTの活用で二〇二〇年以降、年率で三%の持続的な成長をめざす『中原ビジョン』を発表した。二〇年に国内の全四九〇〇万世帯でブロードバンド(高速大容量通信サービスを使えるようにする。 (毎朝新聞)

「中原総務相、『中原ビジョン』を発表。
 中原総務省は会見で、成長戦略『中原ビジョン』を発表した。情報通信技術(ICT)の活用を柱に、経済の活性化を図る。
 一四年までに二四時間三六五日稼働のオンライン行政サービスを開始し、一五年までにすべての小中学校の児童生徒にデジタル教科書を配布するなど、ICTの活用の幅を広げる。ブロードバンド(大容量高速通信)サービスの利用を促進し、二〇年には全国の全世帯が利用しているようにする」 (日読新聞)

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