島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

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小説「光の道」 第51回 コンクリートの道から「光の道」へ

 立春を過ぎ、厳しい寒さが緩みつつある。季節の巡りで二四節気の「雨水」にふさわしく外は時雨が降っていた。
 
 総務省大臣室の横にある待合室。約束の面会時間である四時をすでに一〇分以上過ぎていた。新浦社長が、何度も足を組み替えたり、首を回したりしていた。
随行としてついてきた、JT経営企画部長、有田は、帝王として君臨する本社では見ることができない落ち着かない新浦の動きを横目で見ていた。

 無理もない。中原大臣に面会を申し入れたのが一月中旬。かつての民自党政権の総務大臣なら、JT社長が面会を申し入れようものなら最優先で会った。それが、中原は予算委員会で多忙を理由に、伸ばしに伸ばしたのだ。

 その間に、鷹山首相の施政方針演説があり「『コンクリートの道』から『光の道』への発想の転換を図ります」と述べた。これで、「光の道」は政権公約となった。六月にまとめられ、閣議決定される予定の成長戦略にむけて盛り込まれるための検討が国家戦略室で始まった。

 有田が入手した斎藤副大臣からの情報では、情報通信タスクフォースの座長と政務三役で構成される「政策決定プラットフォーム」では、座長試案として、A四判四〇ページの文書が提出されたという。
表紙には「税金を使わずに日本を元気にする方法」。主題は、JTを、「NJT」と「RJT」二つに分割する案であった。

 「N」はニューカンパニーを意味し、JTから光回線インフラ部門を分離し、ユニバーサル回線会社とする。新会社は、あくまで民間の株式会社として通信会社、テレビ局、警備会社、新聞社など様々の企業の出資を募る。
 分離のモデルとしたシンガポールでは、テレビ局や新聞社が出資をしているというが、マスメディアをステークホルダーとする高度な政治的思惑も透けて見えた。

 インフラの施設は政府保証債で調達し、元本やり払いを保証。そうすれば、今の電話基本料金と同じ一二〇〇円程度をもらえば、建設費は十分回収できるというものであった。

 同時にJTに対する「アメ」もあった。「RJT」の「R」は再生を意味する。通話や配信のサービスも再生JTには、一切の規制を解き、経営の自由を与えるというものである。

 JT分割阻止が至上命題である新浦社長にとって、飲めるはずがない案である。JTにとって、光回線によるブロードバンドの一〇〇パーセント普及、つまり「光の道」を容認することは、この分割案を認めることになる。

「お待たせしました」 
 秘書官が大臣室入室を促した。
「いやあ、お待たせしました。ちょっと事務所に確認の電話をしていたものですから」
 中原が新浦に椅子を進めながら言った。
「大臣、ご多忙のところをお時間頂きまして。私どもとしては、大臣が発表された、『中原ビジョン』実現のためにできるだけ協力させていただきたいと思っています。ただ、いつでしたか、御党の選挙スローガンではありませんが『もっと、大事なことがある』と思っております」
 
 二〇〇五年、小森首相の下での郵政解散総選挙で民生党は惨敗した。その時の選挙スローガンが、郵政民営化より「もっと大事なことがある」だった。
中原も苦戦し、小選挙区では当選を果たせず、比例での復活当選だった。その選挙で、JTは中原を物心両面で支援した。それを忘れていないだろうなと釘をさしたのである。

「JTの新浦社長に応援していただけるとはありがたい。しかし、鷹山首相が施政方針演説でもとりあげ、今や、国策となっている『光の道』よりもっと重要な事とはなんですか」

 「光ファイバーの整備率を九〇%から百%にするのは今まで通り、公設民営方式でいいのではと思っております」
 「そうなると、税金で光ファイバーを引き、JTさんがそれをお使いになることになる。私は総務大臣ですが、国務大臣でもあります。むやみに借金を増やすような政策は変えるべきだと思っています。 
ある研究では、税金投入なしでできると言っていますよ。JTさんのアクセス分離回線を分離し、『光アクセス会社』をつくる。政策的に、一挙にやればコスト削減も出来る。競争会社のすべてに同じ条件で回線を貸し出せば、市場も活性化し、光アクセス会社の収入も安定するので民間から資金を集めることが出来るそうです」

 新浦は思わず顔を歪めそうになった。政策決定プラットフォームで出された「座長試案」のことだろう。

「光の道構想では、一〇〇%普及を目標としていますが、光ファイバーという特定の技術で普及を目指すのは問題も多く、現実的ではありません。それよりもまず、光サービスの利活用などを研究し、利用者へのインセンティブ創りが重要かと思います」

「利活用が重要ということは、斎藤副大臣からよく聞いています」
中原が突き放すように言い、続けた。
「現在の電話回線、つまりメタル回線を一挙に光回線に切り替えることはできないのですか」

「電話線は企業も個人も入っています。政策的に無理やり切り替えることはできません。経済合理性もありません」

「シンガポールは、生き残りのため、国際競争力強化のために、政策的に一挙に切り替えるそうですよ。シンガポールは小さな国だからと言われるかも知れませんが、日本も世界地図から見れば島国です。JTはかつて日本の国策会社でした。国策である『光の道』実現の為にJTとして何ができるかを持ってきてください。本日はありがとうございました」
 中原が立ち上がり、退室を促した。

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