|
孫社長は「有言実行」の人である。
「日本では、侍の心得として『不言実行』というのがあるわけですね。侍は組織論で言えば兵隊なのです。・・侍の心とは死ぬことと見つけたり。黙って死を恐れず、身を投じて行く。『葉隠れ』の精神です。
『葉隠』、これは使うほうの側の王の立場から見ると、実に便利な思想ですね。でも、今、日本国全体がそれになっちゃっている気がするんですよ。リーダーがビジョンを語らない。ましてや、間違ったビジョンで逆噴射するということでは、国が方向を誤る。・・
だから、帝王学というものと、兵隊を育てるための侍に対する教育の決定的ちがいは、片方は語るな。片方は語れと」
「事を成す」 井上篤夫 実業之日本社のインタビューより
「光の道」「デジタル教育革命」「東日本ソーラーベルト構想」「再生エネルギー法」「アジア・巣^パーグリッド」と孫社長はビジョンを語りに語った。
それによって、大いなる反発、批判が起きたことも事実である。
松下塾長も、「無税国家」「新国土創生論」など数多くの提言をした。松下政経塾までつくり、政治家養成に乗り出した。孫社長と違うところは、あまり大いなる反発や批判が起きなかったことである。
もちろん、松下塾長の提言は「そのほとんどは、時代によって受け入れられなかった」(「松下幸之助の知恵 矢沢永一)のに対し、孫社長の提言は、時の政府に影響を及ぼし、実現したのもいくつかあるという違いがある。
そもそも、私の仕事が、孫社長の大風呂敷を政策レベルにし、実現を図ることだったのだ。
だが、私の頭にいつもあったのが「松下塾長は『政商』などと言われたことがないのに、なぜ、孫社長は・・」というものだった。「有言実行」もいいが、これをこえなければ・・というのが、社長室長在任中から今も考え続けていることである。
答えはまだ出ていない。あくまで、ヒントとして考えているのは、ジェームズ・C・コリンズの「ビジョナリー・カンパニー」(日経BP社)にあった、第5水準の経営者と第4水準の経営者というものである。
コリンズによると、人間には第一水準の「有能な個人」から第4水準の「有能な経営者」、そして最終到達目標の「第5水準の経営者」まであるという。
第4水準の「有能な経営者」とは、「明確で説得力のあるビジョンへの支持と、ビジョンの実現にむけた努力を生み出だし、これまでより高い水準の業績を達成するよう組織に刺激を与える」とある。私の知っている限り、孫社長そのものである。
これに対し、第5水準の経営者は「個人としての謙虚と職業人としての意思の強さという矛盾した性格の組み合わせによって、偉大さを持続できる企業を作り上げる」となっている。
「謙虚さ」+「不屈の精神」=第5水準の経営者
私が接した松下塾長はまさに第5水準の経営者だったように思う。
繰り返すが、まだ答えは出ていない。以前より、時間があるのでじっくりと考えてみたいと思う。
|