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森の命

先週末,山奥の温泉へ出かけた時のこと。

ずいぶん山の中なので,明るいうちに到着したいと思っていたが,
道草をくっているうちに,暗くなってしまった。
天気が悪く,いつの間にか暗い夜道にやわやわと霧が這いはじめ,
道草を後悔しながら,曲がりくねった山道をのろのろと運転していると,
何かが道を横切ろうとした。
ネコ? いや,もっと大きい。タヌキ? いや,違う。 
キツネだ!
車を止めると,立ち止まった。
とんだ災難に慌てふためいて走り去ると思いきや,
まっすぐにこちらを見つめ,何と近寄ってきたのだ。
えっ,うそ!

…たぶん,餌をあげた人たちがいるのだ。
人間からもらったものはきっと美味だったのだろう。ドアのところで待っている。
あげられるものを持っていなかったし,もし持っていたとしても,
してはいけないことだと思いながら,車を発進させた。
すらりとした,美しい目のキツネだった。

弊社,新信濃写真風土記の中に『本土狐』という巻がある。
ヤマネの写真で有名な西村豊氏の写真集で,とてもきれいな本だ。
信州に生息するホンドギツネ(アカギツネの亜種,北海道のキタキツネより小型)の四季を
淡々と丹念に追った写真と,
宮尾嶽雄氏の「ホンドギツネの博物誌」という文章で構成されている。
身近な野生動物,キツネについて,見て,読むには最適な1冊だと思う。

さて,翌朝,温泉からの帰り道。
今度は大きなネズミのような何かをくわえたキツネが車の前を走り去って行った。
それを見て,この道の周辺にいったいほどの命が存在しているのだろうと思った。
“野に山に,命が満ちていた時代,日本人の心眼は,森羅万象のすべてに神を見ていた。”
「ホンドギツネの博物誌」の中の一節だ。
しばらく走れば,そこはいつもの人間の世界なのだが,
一瞬,人ではない,たくさんの目に見つめられているような気がした。


 新信濃写真風土記『本土狐』
     詳しくは,こちらへ http://www.shinkyo-pub.or.jp/book/8241.html


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