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手をかける

家の東南の角に寒椿が一本植えてある。
家を建てたとき,イチイやドウダンツツジなど何本か植栽をいただき,
無計画にあちこちに植えてしまった一本だ。
キッチンの出窓から何となく見えるのだが,大した手入れもされないのに
毎年花を咲かせているのだけは,わかっていた。
東南の角は,隣家との境になっていて陽当たりも悪い。
気がつけばお日様が当たる隙間に向けて,けなげに枝を伸ばしている。

夏の初めに出窓からのぞくと,何やら枝に白い塊がみえる。
何だろうと外に出てみると,!!! カイガラムシの塊ではないか!
枝のあちこち,葉っぱのあちこちに白い点々がたくさんついている。
小さくてたくさんいるのが大嫌いな私は,身の毛がよだつような気がした。

けれどもそのとき,毎年,人知れず花を咲かせている寒椿を助けてやりたいと思ってしまった。

歯ブラシと剪定ばさみを用意して, 念入りに,枝の一本一本,葉っぱの表も裏も,
目視する限り,もういないと思えるまで手を入れてみた。


今,11月も終わりに近づき,寒椿はたくさんつぼみをつけている。
何だか,葉っぱもつやつやして,枝ぶりも元気がいいような気がする。
寒椿は,自分だけでも枝を伸ばし,花を咲かせていた。
でも,ひと手間手をかけたことが,少しは成長の助けになったのではないかと感じた。
普段から庭の手入れをしっかりやっている方には,笑ってしまうようなことかもしれない。
でも,無精だった私は,本当によかったと思った。これからは,ちゃんとやろうと思った。


思わず手を出したくなるときがある。でも,それが相手にとってどうなのか,
的確なことなのか,余計なお世話なのか,古い価値観ではないのかといろいろ悩ましい。
それでも,きちんと手をかけていくことの大切さを,
20年近くも放っておかれた寒椿が,今さらながら教えてくれたような気がする。

一日一日寒さが厳しくなるけれど,花を咲かせてくれるのが待ち遠しい。

毛涯章平先生へ

毛涯章平先生,もうじき先生の3冊の本が完成します。

『ふきのとうの餞別』 『肩車にのって』 『ただひたすらに』

多くの方々に望まれて,初版発行から約30年たっての復刊になります。
3冊の本については,何度か信教出版にお問い合わせをいただいたこともあり,
私にとっても“幻の名著”でありました。

先生にお会いしたのは,復刊のお願いに豊丘のご自宅に伺った時,ただ一度だけでした。
その後,3冊の本の復刊をご了承いただき編集作業が始まったのですが,
文章を読み返すうちに,何度も何度も胸が熱くなりました。
新1年生を迎えて,いい子に育てるぞ,かわいがるぞと心に決めて子どもたちに向き合い,
子どもたちを導くに足る人間になろうとする先生。
子どもたちの喜びに悲しみにいつも寄り添っている先生。
いつの間にか,私も先生のクラスの一人になったような,そんな気持ちになりました。
頭上に迫った先生のげんこつがパーッと開いて,
「いい子になれよ」と,グリグリと頭を撫でられたことがあったような気がしました。

先生。私たち信教出版は,長野県の小中学校の先生方の近くで仕事をさせていただいています。
先生たちは,いつも忙しそうです。
世の中が移り変わり,人の心持ちも変化していく中で,様々な困難があるのだと思います。
でもね,先生。信濃教育会の教育研究所に入所された先生方は,
口をそろえて「子どもの声がしないのがさびしい」と言い,
学校現場に戻られるときは,「早く子どもたちに会いたい」とみなさん喜々としていらっしゃるのです。
そんな時,私は,「先生はやっぱり先生だ」と思うのです。

先生の3冊の本は,時代や状況が変わっても,同じ心根をもった多くの先生方を,
きっと励まし,勇気づけ,目指すべき道を指し示してくださることでしょう。


かく言う私は先生ではありません。でも,先生の文章を読んでいると,
誠実に,一生懸命,前を向いて行こう,明日も頑張ろう,という気持ちになるのです。
“幻の名著”の復刊に関われたことを幸せに思います。

先生の思いが,多くの人々に届きますように。

Tomioka Diary

今日は信教出版発行の『Tomioka Diary』を紹介します。
これは『現代口語訳信濃古典読み物叢書2 富岡日記』の英訳版になります。
御存知のとおり,群馬県の富岡製糸場は2014年に世界遺産登録されましたが,
日本の近代化において大きな役割を果たしたこの富岡製糸場について,より多くの読者の方々に,
できれば世界中の人たちに知ってもらいたいとのことでこの企画が始まりました。
英訳版というと「なんだか難しそう」と思って,少し腰が引けてしまうかもしれませんがご心配なく。
辞書はときどき必要かもしれませんが,
高校生の方でも読めるような平易な英文で書かれていますので,ぜひ手に取ってみてください。
著者の和田英が,故郷松代から遠く離れた富岡で,外国人指導者に製糸の手ほどきを受けながら,
全国各地から集まってきた工女たちとともに懸命に仕事に励む様子や,
のちに松代へ帰って「六工社」で後進の指導に尽力する様子がいきいきと描かれています。
ご注文はしんきょうネット,またはAmazon.co.jpまでどうぞ。

This was originally published as “Tomioka nikki”.
The author Ei Wada was born in Matsushiro in 1857
and entered Tomioka silk mill in Gunma prefecture as a mill hand when she was 16.
This is a precious record of workers who were engaged in silk reeling.
You can also find what the life at Tomioka silk mill was like in those days.
Now “Tomioka Diary” is available on Amazon.co.jp.
Please check it out.

季節の便り

「関東甲信地方が7月28日ごろに梅雨明けしたとみられる」との気象庁の発表で,
いよいよ信州にも本格的な夏がやってきました。
とはいえ,8月7日はもう立秋。暦の上では“秋”になります。
「暑中見舞いは,梅雨明けから立秋までに出す派」の私ですので,この週末は,
不義理をしている人たちに,久々の近況を知らせる便りを出そうと思っています。

6月の信州中野のバラまつりで,20代のころ,それこそ毎日のように会っていた友人と,
それこそ何十年ぶりかで再会しました。
立ち話が尽きず,じゃあ,お茶でもが,せっかくだから夕飯もいいよね,となって,
気づいたら閉店の時間。
それでも名残惜しくて,また連絡してね,といいながら別れました。
近況を報告し合い,かつての思い出話に花が咲き,本当に楽しい時間でした。

会わなかった長い間,友人と私をつなげていたのは,年賀状だったかもしれません。

  「お変わりありませんか。私は元気です。
              今年こそ,会いましょうね。」

こんなことをかれこれ20年も続けていました。
細い糸でしたが,しっかりつながっていたようでうれしかったです。

携帯電話が普及する前は,電話(イエ電)をするとか,手紙を書くとか,いそうな所にいってみるとか,
そんな伝達手段しかありませんでした。
伝達手段が増えた今,人のつながりは,密になったのか希薄になったのか…。


ところで,あなたは,近ごろ誰かに手紙を書きましたか。
手紙を書くということは,なかなか大変なことだと思います。
メールなどの短文と違い,起承転結のあるまとまった文章を書かなければなりません。
書き始めたはいいけれど,相手に思いが伝わる文章はむずかしく,
やっといい文章が思い浮かんだと思ったら,字を間違えたりして…。
それでも,たまには心を落ち着けて,便箋にむかうのもいいものだと思います。
手紙をもらった相手もきっと喜んでくれるでしょう。

いきなり手紙はハードルが高い,そんなときこそ「季節の便り」です。
心を込めて,誰かにはがき(カード),だしてみませんか。
年賀状に,暑中見舞い,クリスマス。誕生日などのイベントもいいですね。

かくいう私も便りは出しても手書きはめっきり減りました。
30年来愛用の万年筆を,これからはもっと活躍させようと思います。

五感体験

ここのところ,デジタル教科書についての報道がにぎやかだ。
教科用図書として児童生徒が実際に使用するには,今までもいろいろ検討はされていたが,
権利面からもハード面からも,経済的な面からも乗り越えなければならない障害が多々あり,
32年教科書改訂では,とても無理だと思っていた。
しかし,文部科学省は,平成32年から「デジタル教科書」を導入する方針を正式に示し,
これからそれに向けた法律の改正も進められるということである。

信教出版でも平成23年から,教授用「デジタル理科教科書」を発行している。
実際の体験を大切にする信州教育であるが,
ICTを活用した教育の効果もしっかり検証しなければならない時代がきているのだとも思う。


さて,話は変わるが,5月に東京都美術館で開催された「生誕300年記念 伊藤若冲展」に行ってきた。
異端,奇想の画家ということで,私が学生のころ日本美術史の講義でその名を聞いた記憶はない。
それが平成12年,京都で開催された没後200年展を期に,にわかに脚光を浴びるようになった。
ここ数年はNHKの番組でも何度か取り上げられ,今やブームといってよい人気だ。

予想通り,チケットの購入に1時間,入館に3時間!,グッズ購入の支払いに30分という混雑で,
すっかりくたびれてしまったが,行ってよかったと心から思える展覧会だった。

ところで今回,私は何を目的にこの展覧会に足を運んだのかということだが,
実際の色を見る,というのが最大の目的だった。
混雑する会場で,なかなかじっくりと作品を鑑賞できないということはよくわかっていた。
人の頭越しで全体を見ることができないこともしょっちゅうあることだ。
そうであるなら,画集やテレビ番組の方がよっぽどきちんと見ることができるはずである。
画集は,ゆっくりと若冲の作品を鑑賞させてくれた。
テレビ番組は,作品を拡大して,画布にのった顔料を詳細に見せてくれた。
表からも裏から顔料をのせる裏彩色の効果もしっかり見せてくれた。
しかし,仕事柄,印刷で実際の色を表すことがどんなに難しいか,
画面の色が,必ずしも現実の色ではないということに悩んでいる身としては,
どうしても本物が見たかった。

満員の館内で見た若冲は,今まで目にしていたものより落ち着いた色合いのように感じたが,
不思議だったのは,有名な群鶏図のトサカの赤だけは,印刷物より,画面より鮮やかに感じたことだ。

人間は,器官としての目と,心の目の両方で物を見るのかもしれない。
であるなら,教材もバーチャル一辺倒ではその本質が見えないのではないかと思う。

前途多難である。


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