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新しい家は、確保した。
都心に近い、賃貸の1LDK。
でも、家は単なる器だ。
それだけでは、生活できない。
家具も必要だ。
家電も必要だ。
自分の生活を築くために、すべて新しく購入しなければならなかった。
僕は、仕事の合間を縫って、いろんな店を巡った。
☆
僕は、けっして浪費家ではない。
むしろ、かなり倹約家の方だと思う。
でも、お金に対する執着はない。
物欲も乏しい方だと思う。
それでも、お金を使うときには使う。
自分にとって、大事なモノやサービスは、あっさり買う。
家を出るにあたって、僕はかつてないほど、集中的に買い物をした。
これから、ひとりで暮らしていくにあたって、必要と思われるものを。
家具や布団や食器は、街道沿いのニトリを使った。
テレビや冷蔵庫、洗濯機、炊飯器は、都心の家電量販店を使った。
決して、高級品と言えるものではない。
でも、色やデザインにはこだわった。
特に家具は、もしかすると、これから一生使うものだし。
もう、生涯で二度と買わないものかも知れない。
10年後、20年後でも、使い飽きせず、愛着をもって使えるものを選んだ。
もはや、誰に遠慮することなく、自分の基準で選べるのだし。
その結果、思わぬ出費が、かさんだ。
貯金は、どんどん目減りしていった。
でも、新しい生活を築くための一時的な出費。
そう割り切って、自分を納得させた。
☆
購入した家具や家電の搬入日が、まちまちになってしまった。
その度に、鍵の引き渡しを受けた新居で、運送屋を待っていなければならなかった。
何もない、がらんとした部屋の中。
ひとりで、呼び鈴が鳴るのを待った。
窓の外の緑が、美しかった。
所在なく、ベランダで煙草を吸った。
家具のない部屋は、広々としていた。
でも、どこか寒々しい空間だった。
僕は、床に座り、窓の外をぼ〜っと見ていた。
遠くで聞こえる車の音以外に、音もなかった。
静かな時間が、ゆっくりと流れた。
僕自身も、ゆっくり、時の流れに落ちていった。
新しい家に、新しい家具が届くのに、心は躍らなかった。
むしろ、どんどん、心は沈んでいった。
空虚だった。
どうしようもない喪失感が、僕を包んだ。
孤独だった。
世界中で、自分だけが取り残された感じだった。
僕は、床の上で、膝を抱えた。
身を固くして、自分を守った。
自分の決断を、守らなければならなかった。
迫りくる喪失感と、戦わなければならなかった。
苦しかった。
悲しかった。
自然と涙があふれてきた。
熱い涙を抑えることができなかった。
僕は、膝を抱えたまま、泣いた。
ただ、ぼろぼろ、静かに、泣いた。
☆
運送業者が、集合玄関に着いた。
僕は、インタフォン越しに解錠して、迎え入れた。
あらかじめ考えていた場所を、運送屋に示した。
業者は実に手際よく、短い時間で家具を配置していった。
最後に、受取確認のハンコを押して、運送業者は帰って行った。
僕は、再び、ひとりになった。
何もすることがなかった。
何をすればいいのか、わからなかった。
僕は、また部屋にぽつんと座っていた。
まだ、カーテンの付いていない窓の外を眺めていた。
だんだん、日が暮れてきた。
まだ照明も付いていない部屋の中が、暗くなってきた。
僕は、そのまま、床に座っていた。
真っ暗になるまで、ただ、無表情で座っていた。
【つづく】
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リュウさん、何と声をかければ良いか…。恐ろしいほどの喪失感なんでしょうね。想像すると震えてしまいそうです。新しい生活に新しい光が差してくることをお祈りします。
薫
2011/8/24(水) 午前 6:20
りゅうさん、沢山語ってくれているけど、語ってない気持ちの方がずっと伝わってきました。自分の曲で恐縮ですが。。。「本気で泣いたら。。。本気で笑える日がくるよ。。」
2011/8/24(水) 午前 11:14
お子様たちをわざと遠ざけてはいませんか??
優しいリュウさんですから、元奥様を恨んだりはしないのでようね〜
わたしならお子様と一緒に生き生きと暮らせる事を望みます
優しすぎるから。。。お子様の生活を乱したくないと思われるのでしょうね〜
ほんとうなら奥様が出て行くべきです!
それをしなかったのですから、もう泣くのはやめて明るい未来を信じて歩いていきませんか?
2011/8/24(水) 午前 11:18
自分で選んだ道とは言え、いろいろな葛藤があったことと思います。
それをひとつひとつ現実として受け止めてくには、辛すぎる。
でも、受け止めていかなければいけない・・・。
その光景が目に浮かぶようです。
でも新しい1歩を進んだのですから
後悔しないように前を向いていけること願っています。。。
2011/8/24(水) 午後 2:30 [ セレン ]