□■□ひとり静かに思うこと□■□

六白金星、今年は最高の運気の年だとか?ほんまかいな?

妻へのラブレター

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相手の男と会って、示談交渉をした。
示談書案を作成し、三者でサインして押印した。
夫婦双方の母親に、離婚を伝え、離婚届にサインしてもらった。

そんな最中にも、いろいろ、妻とのやりとりがあった。



妻の携帯が、リビングにわざとらしく置いてあった。
もう、夫に隠す必要がなくなったということか。

「どうしたの?もう持ち歩かないの?」
「え…、別に…」
「僕は、君の携帯を盗み見ないよ?どうせロックかかってるし」
「……」
「もしかして、消しちゃったの?メールみんな?」
「……」
「見られたらヤバイと?消しちゃったの?」
「……」
「もう見られてもいいから、こうして置いているんだろうけど」
「……」
「見たりしないのに、今更。」
「……」
「もったいなかったね。彼との愛のささやき、とっておきたかっただろうに」
「別に、そんな…」
「でも、後ろめたい内容は、たくさんあったんでしょう?」
「そんな…」
「愛してるとか、大好きとか、おやすみなさいとか、満載だったんじゃない?」
「……」
「消しちゃうんだったら、一度見せてほしかったなぁ〜」
「……」
「僕の携帯は見られたのに、君のは、とうとう見られなかったね」
「あなたがオートロックなんてかけてるから…」
「別に、後ろめたくはなかったよ」
「じゃぁ、なんで…」
「君が僕の携帯を隠したとき、いっそロックを解除してくれればと思ったよ」
「……」
「そしたら、あらゆる濡れ衣が晴れただろうに」
「解除して、見せてくれればよかったのに…」
「それは嫌だって言ったでしょう。君に監視されて管理されて、自由が全くないなんて」
「あの件がなければ、仲よくやれていたかも知れないのに」
「仲良いふりをしていただけだよね。お互いに辻褄合わせてさ」
「そうかしら?」
「だって、あのころから、いかがわしいメモ、たくさん残ってるよ」
「あれは…、恋の妄想…」
「でも、心惹かれてる男はいて、逢ってたりした訳でしょう?Mのことはまだだけどね。」
「……」



「僕の手帳も、盗み見てたよね?」
「ごめんなさい」
「僕の入浴中に見て、書き写していたよね?デートの日程決めるために」
「……」
「どうして盗み見てるか、わかったと思う?」
「わからない…」
「手帳のしおりの位置を細工しておいたんだよ。すぐわかった」
「そんなことしてたの……」
「僕の予定を把握して、それに合わせて出かけていたんでしょう?」
「……でも、誰にも迷惑はかけてない」
「へ??!」僕はわが耳を疑う。
「夜出かける時も、遅いときは、家族の夕食は作っていったし」
「気づかれないように、でしょう?夕食作っていたから、いいの?」
「夕飯づくりの時間があったから、けっして自由ではなかった」
「夕飯づくりがあるから、彼と心行くまで一緒にいられなかったと?」
「……最低限のことは、ちゃんとしていた…」
「その言い訳、だれか友達に言ってごらん?みんな、あきれるよ」
「……家族は大事にしていたつもり」
「よく言うよね?家庭を崩壊させたの、君だぜ?」
「…でも、家族は本当に大事…」
「その家族に、僕は入っていましたか?」
「……」
「入っていたの?僕は?」
「お父さんは、家族として大事…」
「父親としてでなく、あなたの夫である僕は、家族に入っていたんですか?」
「……」
「入ってないよね?」
「……」
「家族は大事。でも恋は、もっと大事だったんでしょう?」
「そんな…、比較できない…」
「じゃぁ、両立すると思ってた?」
「両立できる…、両立してると思ってた…」
「はぁ〜、まぁ、君の意識としては、そうだったんだろうね?」
「……」
「恋は別物って?」
「……」
「ラブホテルから帰ってきて、息子たちとテレビ見て、笑ってたしね」
「……」



「でも、夜や休日に、あれだけ出かけたら、どんな鈍感な夫でも気づくよ」
「わかるはずないと思ってた…」
「へぇ〜?どうせ鈍感な夫だしって?」
「私になんか、あなたは関心ないと思ってたし」
「そう?」
「仮にわかっても、あなたは関心ないと思ってた」
「逆に、夫に関心がなかったのは、君でしょう?」
「……」
「夫が、急激に5キロ痩せても気づいてなかったよね?」
「…知らなかった」
「僕の職場や、周囲の人はみんな、やつれた僕を心配してくれていたよ」
「…気がつかなかった…」
「僕の顔を、まともに見ることなんて、なかったものね?」
「……」
「もう、そのイヤな顔も見なくて済むようになるから、よかったね?」
「……」



そして、君はいつも、最後に言っていた。
泣きそうな顔で、憐れみを乞うように…。
「私はどうなるの?」と…。

それは、僕が決めることじゃない。
君が、君自身で、決めることだ。
僕が、僕自身で、決めたように。

彼に、相談して、いいんだよ。
君の、携帯を、自由に使って。

たぶん、無駄だろうけど…。
彼は、君を引き受けるつもりは全くない…。

離婚・慰謝料示談書

僕は示談書案を作成した。

こんなの書いたことは、もちろんない。

何を参考してよいかも、わからなかった。

だから、自分流に作成した。

できるだけ、客観的に書こうと努力した。

なんとなく、様式はこんな感じかな、と真似てみた。

何時間も、かかった。

慰謝料の金額は、ネットで調べた。

自分の感情は、すべて押し込めて、作成した。



一度、案文を夜中に、君に見せた。

君は読んで、ため息をついた。

「慰謝料の金額、結構だわね」

「それが、日本全国の平均額だよ」

「300万円くらいかと思ってた」

「条件により変わるよ」

「そうなの?」

「婚姻期間、所得額、不貞行為の回数、そのほか条件がいくつかある」

「そう…いいんじゃない」

「これで、正式なものを作る」

「私は、どうなるの?」

「どうって?最初から家を出るつもりだったんでしょ?」

「住むところ、探さなきゃダメね?」

「彼とは、暮らさないの?」

「それは、なさそうね」

「そうだろうね。ひとり暮らしだね」

「……」



君は、深いため息をつく。

頭を抱えて、テーブルにうつ伏す。

恋の夢から醒め、現実が君を飲み込んでいく。



君には言わなかったけど、そのあと少し文案を変えた。

君は、気付いたろうか?

ほんの少しね、変えたんだよ。

どうでも、いい点ではあるけれど。

でも、僕たち夫婦にとっては、とても大事な点だ。

サインをする前に、君はまた全部読んだ。

彼にも全部読んでもらって、サインした。

でも、気付かなかったね。

君は、気付かなかった。

最初の案文との、ほんのちょっとの違い。



三人は、サインをし、はんこを押した。

それぞれ、各1通を保管することにした。

あとは、離婚届を出せば、僕たちの夫婦関係は消滅する。







示談書

龍(以下、甲)は、妻・H(以下、乙)とその愛人・M(以下、丙)両者の不貞行為(民法第709条ならびに710条に定める不法行為)に関して、以下の示談書を作成し、乙・丙に対して慰謝料を請求する。

乙・丙は、以下の記載内容を認め、慰謝料の請求に応じることとし、以下の署名・押印する。

本示談書に示した請求内容が、乙・丙によって誠意をもって果たされない時には、甲は乙・丙を相手取り管轄する裁判所に提訴することができる。

本示談書を三通作成し、甲・乙・丙それぞれが内容を了解した証に署名・押印し、各自で保管することとする。

2011年(平成23年)4月10日


甲:氏名(自署)                  実印
生年月日
現住所

乙:氏名(自署)                   実印
生年月日
現住所

丙:氏名(自署)                  実印
生年月日
現住所 

1.事実経過

2010年12月末頃より、丙は乙に夫があることを知りながら、親密な好意を抱き個人的接触を求めた。乙もこれに応じ丙に好意を抱き、両者は人目を忍んで密会を重ねるようになった。

2010年12月28日以降、2011年3月16日に至るまで、乙と丙は週に1回から5回、計28回にわたり密会を繰り返している。

この間、2011年1月22日に国分寺のラブホテル「ラフェスタ」において肉体関係を結んで以降、同年3月12日に至るまで新宿、国分寺、狭山湖、所沢インター、箱根ヶ崎周辺等のラブホテルで、計7回の性交渉を繰り返している。

両者の密会の際には、甲の所有する自家用車プリウスを使用して、乙が丙に運転させてラブホテルに入るなどしたことが9回、また、乙と丙が平日の勤務後の夜に示し合わせ、丙の勤務する職場の公用車セレナを使用して密会するなどが8回あり、車中で抱き合いキスすることなどの事実もある。

同様の行為は、国分寺のカラオケ店内においても行われた。

夫・甲は、妻の度重なる休日の単独長時間外出と、深夜23時から未明1時半に至る帰宅に不信を抱き、妻の密会記録を記した手帳を発見したことから興信所に相談・依頼した。

2月10日以降、調査員が乙を追尾することによって、乙・丙の密会と不貞行為の事実が明らかとなった。

これらの真実は、甲に著しい精神的苦痛を及ぼし、不眠と食欲不振、下痢を主症状とする抑鬱状態に陥り、甲の体重は1ヶ月間で5キロ減少した。

3月19日以降、甲は事実関係の告白を乙に求め、当初乙は頑強に事実を否認し続けたものの、裁判で表沙汰になり丙に迷惑が及ぶことを恐れ、3月27日未明に一切の事実を甲に告白した。

同日午後、甲の職場個室を乙・丙が訪れ、三者で面談し、乙・丙はこれまでの事実関係を認めるとともに、丙は口頭で甲に謝罪し、慰謝料請求を含む示談書の取り交わしに合意した。


2.慰謝料

乙・丙の肉体関係を含む不貞行為の事実は、甲に著しい精神的苦痛をもたらし、甲の日常業務に甚大な悪影響を及ぼすとともに、甲・乙の24年間に及ぶ婚姻関係の破綻をもたらし、息子2名を含む家庭の崩壊を招いた。

甲は、乙・丙それぞれに対して、精神的損害賠償として不倫の慰謝料を請求する。

請求の額については、以下の事項を勘案し、本邦における平均的妥当な金額を提示する。

甲が依頼した興信所の調査費用(調査に伴う車両代等の実費を含め1,307,250円也)については、甲が自己負担し、乙・丙に請求しない。

なお、以下の金額提示に乙・丙が合意できない場合には、甲は本件を裁判所に提起し公正な金額を争うこととなる。

(1)甲に対して乙が支払うべき離婚慰謝料

甲・乙の婚姻年数(24年間)と夫婦関係(直近の約半年間、ほぼ家庭内別居状態にあった事実)、有責配偶者である乙の年収(約500万円)、乙と丙の不倫交際の期間(3ヶ月未満)と肉体関係の回数(計7回)を勘案し、次の通りとする。

  金4,376,800円

(2)甲に対して丙が支払うべき不倫慰謝料

乙・丙の不倫交際期間(3ヶ月未満)と肉体関係の回数(計7回)、有責配偶者の浮気相手への虚偽事実の有無(乙が既婚者であることを丙は熟知しており、虚偽はない)、請求される側の丙の年収(約500万円)、不倫を原因とする既婚者側の離婚、甲と乙の夫婦関係(直近の約半年間、ほぼ家庭内別居状態にあった事実)などを勘案し、次の通りとする。

     金1,493,920円

(3)慰謝料支払いの期限と方法

甲・乙・丙が本示談書内容に合意し、同席して署名・押印を取り交わした後、1週間以内に、乙・丙は上記金額を甲の下記の銀行口座に振り込むこととする。なお、領収証書は特に発行しない。

みずほ銀行 ○○支店(普通)○○○○○○○○  名義人:龍
  

3.本示談書を取り交わし、慰謝料の支払いがなされて以降の、甲・乙・丙の三者の関係については、以下の通り定める。

(1)甲と乙は、婚姻関係を解消し、協議離婚手続きを早期に進める。家族・親族への説明等、両者の責任に於いて虚偽なく誠実に行うこととする。

(2)甲と乙の財産分与については、別に協議し、公正に処理を行う。
両者共有名義の不動産、夫婦共有の物品等については、誠実に話し合いを行う。

(3)甲と乙との協議離婚成立に伴い、両者の現住所自宅マンションにおける同居関係は可能な限り早期に解消し、別に居を定め生活することとする。

(4)甲と乙それぞれの、子どもとの関係は一切制限を加えない。
それぞれ親子としての関係は持続し、自由に面会できることとする。

(5)乙と丙の今後の交際について、甲は制限を加えない。
今後、乙と丙が交際を継続し、同居、婚姻等の関係に至っても、甲は関知しない。

(6)甲は乙・丙に対して、今後これ以上の慰謝料等損害賠償請求は一切行わない。
本示談書の取り交わしと慰謝料支払いをもって、三者間に遺恨を残さない。

(7)甲・乙・丙の三者の間で争われる事実があれば、誠実に協議する姿勢を保つ。
三者で解決できない事柄があれば、裁判所への提訴を否定するものではない。


以上


甲:捨印

乙:捨印

丙:捨印




僕は、男の顔を、正面から見つめる。
回りくどい嘘や、方便の言える男ではない。
妻のことを愛しているというのは、真実だろう。
セックスだけが目的ではないことは、把握された経緯からも明らかだ。

僕は、妻の顔を見る。
僕と妻の目が合う。
妻は、硬い表情のまま、目を伏せる。

「今回のことで、僕と妻は、離婚します。
妻も、そのことは、もうわかっています」
「……」
「……」
男は黙っている。
妻も黙っている。

「離婚する以上、貴方と妻がどうなろうと、もう僕が口を出すことではありません」
「……」

僕は、ゆっくり呼吸をしてから、僕の判断を伝える。
「3人が、3人とも不幸にならなくても、いいんですよ。
2人が幸せになっても、かまわないんです」
「……!?」

男は、びっくりして怪訝な顔をする。
妻は、一瞬、顔をパッと明るくする。

おいおい、そんな露骨にうれしそうな顔をするんじゃないよ。
夫に、彼との交際が認められて、うれしいのかも知れないけど。

その前に、僕と君は離婚するんだよ?
それに、この男は、君とは一緒になるつもりはないよ。
君は、この男と、一緒になりたいのかも知れないけど。
君ひとりが舞い上がってて、どうする?

「僕は、妻と離婚します。
その後、妻と貴方が結婚しても、僕は関知しませんから」

男は一瞬、困惑の表情を浮かべる。

「Hを、嫌いにはなっていないんでしょ?」
「はい」
「でも、別れると?」
「はい」

僕は、男に改めて問う。
「妻と会ったら、違約金を取るとか、示談書に書くつもりはありませんが?」

「示談書の内容によらず、私の気持ちとしては、変わりません。
今後、Hさんと話しをするにしても、結果はそうなると思う」

「妻は、貴方のこと、愛しているようですよ?
妻のほうが、会いたいと、わがまま言うかも知れませんよ?」

「身勝手かも知れませんけど、どうしてもそういう気持ちにはなれません。
Hさんにも、申し訳ないですけど…」

本来、僕がどうこう言う問題ではない。
当事者のふたりにまかせればよいことだ。

でも、おそらく、この男の言うとおりになるだろう。
妻が男に会うことを求めても、この男は妻を遠ざけて、会おうとはしないだろう。
僕と別れて、男との将来像を夢見ている妻には可哀想だが。
この恋愛は、うまくいくはずがない。
夫に発覚してしまった時点で、男はすでに引いてしまっている。
不倫だからこそ、責任もなく、ピュアな恋愛に浸っていられたのだ、きっと…。

「僕のほうは、損害賠償をきちんと払っていただければ、結構です。
貴方と妻が、どのようになろうと、離婚後は関知しないことをお約束します。
示談書については、この後、僕のほうで作成します。
慰謝料の金額については、平均的妥当な金額を提示するつもりですので、ご安心ください。
文書ができあがったら、妻を通じて連絡します。
僕は、貴方と妻との連絡を、制限するつもりもありません。
妻の携帯は今までどおりですし、電話もメールも可能です。」

男は頷いて、黙って聞いていた。

「ひとつ余計なことですが、忠告させて下さい。
妻は貴方と付き合うようになってから、大変な浪費をしています。
月3〜4万しか使ってなかったクレジットは、最近、月20万以上に膨らんでいます。
頻回にランジェリーを買ったり、貴方のためにプレゼントを買ったり。
少し舞い上がっていますので、節度を持ったおつきあいをして下さい。
僕と離婚したあと、妻の収入では、間違いなく経済的に破綻します」

本当に、余計な蛇足だ。
でも、男は、びっくりした顔をしている。
そんなに浪費しているのかと、驚いている。
あるいは、妻が男にのめりこんでいるのを目の当たりにして、当惑している。

僕は「これで終わりです。何かありますか?」と男に問う。
男は「いえ…。本当に申し訳ありませんでした」と頭を下げる。
妻は硬い表情のまま、席を立つ。

三角関係の三者面談は、こうして終わった。

二人が部屋を出て行ってから、僕は書斎椅子に深く腰を掛けた。
高い背もたれに身をゆだねて揺らしながら、ずっと座っていた。
ただ、ぼ〜っとして、いつまでも椅子を揺らして座っていた…。


【おわり】



「これから、どうするつもりですか?」
僕が、相手の男に聞きたかったのは、ようするに、そういうことだ。

妻を寝取った男が、妻と一緒に暮らしたいというのか?
それは、僕には、考えづらかった。

妻は、それを希望しているのかも知れない。
でも、男はきっと、そうは希望していない。

不倫だからこそ、たぶん成立していた恋愛なのだ。
僕という夫がある妻だからこそ、ふたりの恋愛は成立していた。
結婚という法的にも責任を伴った行為を、男が求めているとは、僕には思えなかった。

それは、妻と男が、単にセックスフレンドだったということではない。
それなりにプラトニックな過程を経て、ふたりが愛を育んできたことは、確かだ。
ただ、そこにどれだけの覚悟があったかというと、僕には疑問だった。
もし、覚悟があったにしても、僕からすると脆弱な幻想に思われた。

「これから、どうするつもりですか?」
僕は、男に尋ねた。
「……」
男は言葉を探している。

「今の、Hに対する貴方の気持ちは、どうですか?
Hを愛しているんですか?」

男は、一呼吸を置いて、答えた。
「Hさんを好きという気持ちは、変わりません。
愛しています。
私にとって、一番大事な人ではあります。
ふたりの関係を、続けたい気持ちはありますが…。
ただ、龍さんに対して、大変失礼なことをしたという気持ちはあります」

「それは、つまり、妻を愛しているけれども、後悔しているということですか?
夫や子どもの家族に対して、申し訳ないことをしたと?
謝罪の意思があるということですか?」

「はい…。
Hさんを、愛していますけれども、これでもう会いません。
これで、別れます、という気持ちです。
結婚は、Hさんには申し訳ないけれども、考えていません。
Hさんとこうなってからも、この恋が恥ずかしくて、罪の意識が拭い去れませんでした。
今さら、何を言っても、取り返しは付きませんが…。
私としては、どんなふうにしても、家族の人に謝ることもできないし…。
今後、Hさんと付き合うことはできないと考えています」

まじめな男だ。
ただ、幼すぎる。
「いい人…なんだけどね〜」と言われるタイプだ。
誠実さが、他者を傷つけるタイプの男だ。

「今、妻と別れると言ったけど、Hを嫌いにはなってないでしょ?」
「はい。
Hさんのことは、好きです」

横で聞いている妻に尋ねる。
「君のことは好きだけど、別れるって?
Hは、どう思った?」

僕と男とのやりとりを聞いていた妻が答える。
「Mさんだったら、そう言うだろうなと、とても理解できた。
きっと、そう言うんだろうなと、思っていた…。
そういう人だから…」

このふたりは、愛し合っている…。
お互いを、とても大事に思っている。
僕は、余計者でしかない。
わかりきっていたことではあるけれど…。

僕は、ひとつの結論を考える。
少々、突拍子もない結論だ。
世間相場とは、いささか変わった結末のつけ方かも知れない。

僕と、妻と、この男との関係。
結論を、出さなければならない…。


【つづく】

(3)

僕は、隣の椅子の上に置いてあったファイルを取り出す。
厚さ6センチのファイルと、8センチのファイル。

一冊は、僕自身が調べてまとめた資料。
妻と男の交信盗聴記録や、妻のカード履歴、メモ帳やレシートの複写、その他の記録類。
もう一冊は、興信所がまとめた10分冊にも及ぶ報告書。
追尾記録のDVD画像をプリントアウトし、時系列にまとめたものだ。
妻と男の3か月間の不倫の交情記録が、すべてここにある。

「妻と貴方の、不貞行為の記録ファイルです。
ご覧になりますか?」
男は、力なく首を横に振る。
妻は、分厚いファイルをジッと見つめている。


「週末ごとに、ふたりがホテルに入る画像と、出てきた画像がプリントされています。
妻が家を出て、Mさんの自宅近くまで迎えに行き、貴方が運転席に乗り込むところから、
帰りに、また貴方の自宅近所で車を停めて、ふたりが別れるところまで。
すべて画像で残っています。
狭山湖のホテルも、所沢インターも、横田基地周辺も。
マメゾンや、ブルーベリー、焼肉屋を出てきたところまで。
サンマルクや、スポーツセンター、中央公園の駐車場に車を停めて話しているところまで。
どうです、夜中でもきれいに撮れているでしょう?」

僕はふたりに、プリントした画像を示し、ぱらぱらとページをめくって見せる。
ふたりは写真の中で、楽しそうな笑顔を浮かべて見つめあっている。
ホテルのエントランスを、マフラーで顔を隠して出てきた妻の画像もある。
車に乗り込む寸前のふたりを、間近なアップでとらえた写真もある。

「この時は、プリウスの隣に車を停めて待って、中からビデオを撮っていたそうですよ。
全然、気づかなかったでしょう?
すごいですよね、プロの仕事って」
「……」
プリントを見ていた男は、肩を落として、うなだれている。
妻は、表情を変えぬまま、分厚いファイルの背表紙を見ている。

「状況証拠だけでなく、物証は揃っています。
裁判に持ち込めば、僕は代理人の弁護士抜きで勝てると思っています。
すべて、妻と貴方に間違いないですよね?」
「はい…」
「こちらの提示する示談に応じて頂けますね?」
「はい…」
男は力なく、返事をする。

「今の貴方の気持ちを聞かせてください」
「こうなってから…、いけないことだとはわかっていましたが…。
こうなってから、なんてことしてしまったんだと…。
正直言うと、ばれたら、どうしようと思ってはいました。
大変な事になるなと、思ってはいました。
逢えている時は楽しかったですけど、いつも不安はつきまとっていました」


正直な男だ…。
馬鹿がつくくらいに…。
だから、妻はこの男を愛したのだろう。
2歳上の夫の僕ではなく、この8歳下の不器用な男を。

レコーダーで録音した、ふたりの車内での会話を思い出す。
男は、快活に笑っていた。
妻も、かつてなく楽しそうに笑っていた。
ふたりは、本当に幸せだったのだろう。

深夜の寝室での、ふたりの交信を思い出す。
かつてなく甘えた声の、妻のささやき声。
ふたりだけのベッドでの秘め事を語る、妖しい寝物語。
「うふふ…あんな恥ずかしいこと…」
「ものすごかった…すごかった…ふふふ…」
「死んじゃった…、オルガスムス?知らない…」
「愛してる…、愛してる…、逢いたい…」


2月中旬から1か月の、ふたりの行動を僕は追った。
「今、ホテルに入りました」という興信所からのメール。
目の前のこの男と妻が、激しく愛し合うセックスのイメージが、僕を苦しめた。
この膨大な記録の画像の合間の、ラブホテルの中での光景。
僕は、何を求めて、そんな1か月を過ごしていたのだろう?


僕は、目の前の男に問う。
本当は、僕自身に向けられるべき言葉を…。

「これから…、どうするつもりですか?…」


【つづく】

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