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1ヶ月半前とは逆ルートで、特急「スーパーくろしお」で南に向かった。
線路の継ぎ目のリズミカルな音に揺られ、しばらく眠った。
☆
車掌のアナウンスに、ふと目が覚めた。
「…どうぞ進行方向右側の雄大な太平洋の姿をお楽しみ下さい…」
アナウンスに応えるように、列車はスピードを落とし始めた。
車窓から、見渡す限りの海原。
曇天と強風に煽られ、白い波頭が打ち寄せていた。
車内のあちこちで、携帯を取り出してシャッターを切る音。
ついつい、こちらも観光気分で、カシャ!
ふと仕事を離れて、ひとり、のんびり、灰色の海原を眺めていた。
(=゜-゜)
☆
夕方5時、その街でのミッションを終えて、タクシーを探した。
ちょうど目の前にタクシーが止まり、女子中学生が5人、賑やかに降りて来た。
女の子らはキャーキャーいいながら、歩道から運転手にバイバイしていた。
まだ、あたたかな余韻の残る車内に乗り込み、「空港まで」と告げた。
華やいだ笑顔を残したまま、運転手は車を発車させた。
運転手に尋ねた「随分賑やかな子たちだね?」
「なんか今日が卒業式やったらしくてね。いや、もう元気な子らで…。
ああいった若い子らと話すと、こっちが元気もらいますわ〜」
「箸がころげても笑うっていう年代だしね」
「いや、本当ににぎやかで…。いいですよね、若いって…」
「ですね…」
相槌を打って、人通りも少なく寂しい街並みを、見るともなく眺めていた。
「こちらへはお仕事で?」
「えぇ、まぁ…」
「私もね、東京の大学出て、しばらく会社員やってたんですよ」
「ほう?こちらが地元で?やっぱり生まれ育ったところがいいでしょ?」
「やっぱりね〜。出戻りだけど、もう、あの人混みの街はいいですわ〜」
短い白髪頭の向こうで、運転手は穏やかに笑っていた。
「その後、大阪の支店に移ってね、キタの街で接待受けたりして、えらい羽振りのいい時ありましたけどね」
「あんまり、接待っていうのは縁が無いなぁ〜」
「ほんの一時の儚い夢みたいなもんで…。まともな金の使い方じゃないですよ、あんなのは」
「ふむ…」
「収入はガタッと減ったけど、今のこっちでの生活の方が、よほど気が楽でいいですわ〜」
「そうかぁ〜。都会より田舎で暮らす方が楽ですかね〜?」
「そら、全然違いますよ。もう、あの東京や大阪での生活は勘弁ですわ〜」
運転手は自分を納得させるように頷きながら、穏やかに笑っていた。
(-^〇^-)
☆
暴風雨波浪警報が発令された。
風はどんどん強くなってきていた。
運転手は「大丈夫…飛ぶと思いますけどね〜」と言った。
「もし飛ばんかったら連絡下さい。お迎えに上がりますわ」
「ありがとう」3500円を払って車を降りた。
空港にアナウンスが流れた。
このまま更に風が強まれば、羽田発の便が着陸できなくなると。
その際には、羽田行きも欠航になるので、あらかじめご了解下さい、と。
1日3便しかない空港だから、それはそうだろう、と思いつつ…。
やれやれ、ここで足止めくらうとなると、どうするか?と考えた。
ひとり、荒れる海沿いの民宿に泊めてもらうのも一興か…。
そんな風に考えたら、ワクワクしてきた。
明日以降の予定も狂ってくるが、そんな事態も楽しみになってきた。
飛行機が飛ばなかったんだから、誰も文句言えないだろうし。
明日以降の仕事の書類もパソコンも持ってきてないから、今晩何もしなくても良いし。
美味しい地のものを頂いて、テレビ見て、お酒飲んで、風の音を聞きながら寝てしまえばいいのだし…。
わくわく…、やれ、うれしや…。
風よ〜、もっと吹け〜!
飛行機、降りてくるな〜!
うっひゃっひゃ〜、ひとり旅〜!
(≧∇≦)
☆
しかし…。
その時…。
空港のガラス越しに、1機の飛行機が降り立つのが見えた…。
( ̄○ ̄;)
あ、万事窮す…。
鯛のお刺身も、漁師風あら汁も、地酒も…。
一抹の夢と、消えていった…。
☆
羽田行きの飛行機は、かつてないほど揺れた。
強風に煽られて、ヤジロウベーのように、機体のバランスをとろうとしていた。
「春二番」だったらしい。
とてもスリリングな1時間でした、はい…。
ε=ε=┏( ・_・)┛
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