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茂山千之丞さんについて触れさせてください。
一度、国立能楽堂で拝見し、なんておもしろい役者さんなんだろう、
と思っていました。
ちょっと、はまってしまい、千之丞さんの著作、
「狂言じゃ 狂言じゃ」(文春文庫)
を購入し、読みました。
この中で千之丞さんは、
「芸とは口説くことである」
と漱石の言葉を引用しつつ述べています。
舞台、芸能などは、芸のすべてを駆使して、
お客を口説き、虚の世界へ引き入れてしまうことだそうです。
この口説きを使うあたり、
恋愛といっしょだそうですよ。
「月見座頭」について書かれた部分ですが、
読んでいて、胸騒ぎいたしました。
十五夜の月が照らす野原に、一人の座頭が座っていると、
そこへ男が通りかかり、何をしているのかとききます。
「私は虫の声をきいて楽しんでいるのです」
ふたりは意気投合し、酒盛りをはじめます。
「飲むほどに、酔うほどに決して狂騒にならない
しんみりした酒宴がつづきます」
ところが、別れるとき男は、
いきなりケンカをふっかけて、座頭を投げとばし、
『あとは知らぬぞ、知らぬぞ』
と言いながら去っていくのです。
「月の光のもとに座頭はぽつんと一人残され…
一つクシャミを残して、とぼとぼ」と去っていきます。
なんとも馬鹿馬鹿しく、怖いお話ですね。
「ジキルとハイド」のように人間が
もつ二面性を描き、
「ドライに人間の本性を見きわめるのが狂言の目」
なのだそうです。
この本を読んで狂言を見る目が変わりました。
この人間の本性を見る、というのは
ほかの舞台にもあてはまりそうですね。
シェークスピアが今も色褪せないのは、それがあるからなんでしょうね。
そういえば、このイギリスの作家の描き方と、
狂言とどこか似ているような気がします。
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