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ビジネスアイコラム】「行動経済学」が解く日本経済停滞の謎
2017/10/13 FujiSankei Business i. ■増税一部還元 貯蓄に向かう消費者心理 今年のノーベル経済学賞受賞者は米シカゴ大学のリチャード・セイラー教授に決まった。経済学に心理学を取り込んだ行動経済学への貢献が評価されたという。同理論の主な適用分野は株式など金融市場だ。株式市場は新たな情報を速やかに織り込んで株式の基本的価値を反映すると断定するのが「市場の効率性」理論だが、投資家は将来見通しの収益よりも今、損するかどうかを気にする。だから株価は確かな収益見通しとは無関係に急落、暴騰を繰り返す。 心理学手法をナマの日本経済に当てはめてみる。何の疑いもなく世に浸透している経済理論や経済政策の考え方が現実からなぜ遊離し、とんでもない間違いを生んでいるのかが説明できそうだ。 まず、労働需給と賃金の関係。求人倍率や完全失業率が完全雇用水準に近いというのに、賃金が上がらないのは、経営者心理のなせる業だ。国内需要が伸びそうになければ、企業は賃上げしてまでも人手を確保しようとは思わない。賃金が低いパートの雇用を増やすことも可能だ。こうして実質賃金は上がらず、コスト・プッシュによるインフレも起きないので、「フィリップス曲線」の理論通りにはならず、デフレが続く。 企業はまた、いくら収益が増えても、内需の停滞リスクを重視し、賃金や設備投資にカネを使わず、内部留保をひたすらため込む。心理分析の方が、一般的な経済理論よりもはるかに現況を説明できる。 今回の衆院選最大の争点は、消費税増税と税収の使途という。2年後に予定通り消費税率を10%にし、それによる税増収分の一部を教育・子育て支援に回すので、景気に及ぼす悪影響は避けられるという安倍晋三首相の見解はどうか。安倍氏にとっては心外だろうが、消費税増税に奔走した民主党政権の野田佳彦首相をほうふつさせる。財務官僚に洗脳された野田氏は「増税しても、税収を社会保障充実に回すので家計の将来不安はなくなり、景気は良くなる」と言い張り、自民・公明を巻き込んだ「3党合意」で増税法案を成立させた。 2014年4月からの消費税率8%への引き上げでどうなったか。経済学通説では増税しても、財政支出を増やせば景気に及ぼす負の影響は軽い。消費低迷は短期間で済むはずだが、結果は慢性デフレの長期化だ。総務省統計の消費水準指数は、12年12月のアベノミクス開始後、家計消費は目覚ましく回復したものの、増税した途端に急落、いまだに11年の東日本大震災後の不況時よりも低く、底ばい状態だ。 安倍首相は10%増税では増収分の5割を教育・社会保障に振り向けるというが、14〜16年度合計をみると消費税増収分の43%相当額を社会保障に回している。その水準を引き上げたところで、8%増税ショックの二の舞いを避けられるとは思えない。 仮に増税で家計から巻き上げた税金相当分を全額、教育・社会保障などで家計に還元するとして、経済理論通りに消費には打撃を与えないのだろうか。実際には、家計は増税前に駆け込み消費に殺到する。そしてその後は、一挙に財布のヒモを締める。教育支援などでカネがばらまかれてもそっくり消費に回すだろうか。多くの家計は消費の水準を抑制し、政府から支給されるカネの大半を貯蓄に回すのが、消費者心理だ。この行動原理は増収分の一部を家計に返す場合でも変わらないはずだ。財政は緊縮、家計は消費抑制というパターンになり、デフレが続くことに変わりない。 希望の党の「消費税増税凍結」はどうか。増税をしないで教育や福祉を充実させようとすれば、「財源はどうするのか」と自公両党やメディアから突っ込まれる。小池百合子代表は苦し紛れに「ワイズスペンディングで」と横文字で答える。公共事業など財政支出の削減で捻出するというわけだ。かつて「コンクリートから人へ」「事業仕分け」という民主党政権のデフレ無視政策に限りなく近寄ってくる。「増税凍結」という現実に即したまともな政策が有権者の心理に響くはずはない。 消費税を争点にするなら、主要政党は心理学論争でもしてみてはどうか。(産経新聞特別記者 田村秀男) |

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