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【田村秀男の日曜経済講座】衆院選後の国会、財政・金融政策論戦を 脱デフレに向けカネを動かせ
衆院選後の経済の懸案はデフレ圧力再燃だ。改めて問う、財政と金融政策はどうあるべきか。
アベノミクスには光と影が交錯している。雇用面では求人倍率がめざましく上昇したのだが、賃金には反映しない。家計消費は平成26年4月の消費税増税ショックの後遺症から抜けきれない。2%のインフレ目標達成のメドはいまだに立たないどころか、代表的なインフレ指標である国内総生産(GDP)デフレーターは昨年後半からマイナス基調だ。「脱デフレ」はいまだ成らず、だ。
新聞の社会面記事を読んでみよう。瞠目(どうもく)したのは、相次ぐ札束のゴミ捨てだ。4月には群馬県沼田市で4251万円、5月には奈良県御所市で2千万円の現金がそれぞれ廃棄物処分場で見つかった。前者は法定相続人に返還され、後者は従業員が1千万円をネコババしていたというオチがついたのだが、ため息をつかされたのはその巨額ぶりだ。
ゴミとなって見つかった現金の相場は2年前は1千万円以下だったが、昨年は1千万〜3千万円だ。幸いにも見つかったケースは氷山の一角で、そのまま焼却処分された万札はどのくらいになるのか、と想像してみたくなる。
上記のようなカネの出所は「タンス預金」と呼ばれ、第一生命経済研究所の推計では今年2月末時点で43兆円、前年に比べ3兆円、8%増という。銀行に預けることで、マイナンバーを通じて税務当局に補足されるのを嫌う富裕層の相続税逃れも動機の一部にあるのだろうが、経済の観点からすればデフレ病の一症状である。その証拠に、家計の金融資産のうち現預金がデフレとともに急増している。
日銀によると、今年6月末の家計金融資産総額の51%、944兆円が現預金であり、前年比で23兆円増えた。日銀のマイナス金利政策を受けて定期預金金利はゼロ・コンマ%台だが、物価は上がらないのだから現預金のままでも目減りしない。それはもちろん「持ってる」家計の賢明な判断に違いない。
「持っていない」者のひがみで言うわけではないが、こうした家計の集合体である国民経済は、とばっちりを受ける。停滞するのだ。経済のパイは少しずつ大きくなっているのだが、消費は盛り上がらない。家計が現預金増加分の2割強(今年4〜6月期の場合年率換算で5兆4千億円)を消費に回せば、GDPは1%増える。
要は、経済という体にカネという血液が、現預金の皮下脂肪とならずに消費という血管で円滑に流れれば元気になるのだが、デフレ病がそれを邪魔するのだ。
インフレ目標2%を掲げる日銀の「異次元金融緩和」の効き目はあるのか。王道たるべきシナリオは、日銀が年間で80兆円、GDPの15%相当のカネを発行して金融機関に流し込む。金融機関がその分融資すれば、カネが経済全体に循環するようになる。企業は設備投資、家計は消費を増やすようになり、需要が拡大するので物価や賃金が上がりやすくなるはずだ。実際にはどうか。
グラフを見ると、銀行に流し込まれた日銀資金は日銀への預け金となって大半が日銀当座預金にとどまっている。銀行の貸出増加額は昨年6月時点では預け金増加額の1割にも満たなかった。今年は貸出増加額が預け金増加額の5割を超え、ようやく上向いてきた。設備投資、住宅ローン、中小企業向けと銀行は融資に前のめりになっている。
無理もない。銀行は膨らむ預金と日銀預け金を動かさずにしておけば、たとえゼロに近くても預金金利は払わなければならないし、一部の日銀当座預金についてはマイナス金利のために目減りする。貸し出しを増やして利ざやを稼ぐしかないわけだ。それでもGDPデフレーターは下向いており、脱デフレにはほど遠い。
日銀の黒田東彦総裁は異次元金融緩和があれば、消費税増税に伴うデフレ圧力を軽くできるとし、26年4月の消費税増税を安倍晋三首相に決断させた。「デフレは貨幣現象」という従来の学説はそうでも、机上の空論だ。増税など緊縮財政は、日本のような慢性デフレ経済には当てはまらないのだ。
政府が増税によって家計から所得を吸い上げ、社会保障や教育などの財政支出を切り詰める。つまり、家計など民間にカネを還流させないと、内需が減退するのは小学生だってわかる。衆院選後の国会では、金融緩和偏重の経済政策是正に向け、政府・日銀、与野党が真剣に議論を戦わせてほしいものだ。
(編集委員)
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