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【田村秀男の日曜経済講座】インフレ目標2%は非現実的 カネを増やしても物価は上がらない 

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 アベノミクスが始まって以来、ほぼ5年がたったが、脱デフレはいまだ成らずだ。日銀が年間で最高80兆円、国内総生産(GDP)の15%相当の巨額資金を追加発行することで世の中に出回るカネの量を増やし、物価上昇につなげるというもくろみははずれたままだ。なぜか。今回は世界のカネと物価のトレンドから考えてみた。

 グラフは1970年以降の世界の貨幣(カネ)総量の対GDP合計比と、世界平均と日本のインフレ率の推移である。世界の通貨の基軸であるドルは、71年8月のニクソン米大統領による金の交換停止宣言により、金保有量の束縛から解き放たれた。

 80年代にはレーガン政権による金融自由化によって、住宅ローンなどの証券化や金融派生商品(デリバティブ)が続々と登場し、カネの増殖が始まった。冷戦終了後の90年代は、マクロソフトの基本ソフト、「ウィンドウズ95」登場をきっかけにインターネットが地球全体に普及しはじめ、ネットを経由して世界の金融市場が結びついた。

 金融のグローバル化によってカネは国境を越えて自由に移動する。ニューヨークやロンドンを拠点とするヘッジファンドによる投機が引き起こしたのが、97年のアジア通貨危機である。その後、カネの膨張は続き、GDPを上回った2008年9月に「100年に1度の大津波」と呼ばれた金融バブル崩壊、リーマン・ショックが勃発した。

 米連邦準備制度理事会(FRB)はドル資金をそれまでの2倍、3倍と大量発行して金融市場につぎ込んだ。量的緩和によってカネの総量は増え続けていく。FRBは14年11月に量的拡大を打ち止めたが、日銀は13年4月から量的緩和を柱とする異次元金融緩和政策に踏み切った。

 中国人民銀行はリーマン後、ドルの増発分にほぼ見合う人民元を発行し、市中銀行融資を通じてカネの総量を爆発的に増加させていく。リーマン後の世界全体のカネの増加額の約5割が人民元である。こうして世界のカネの合計額は、16年にGDPの1.3倍近くに膨らんだ。

 金融の量的緩和政策はGDP、つまりわれわれが暮らす実体経済に比べてカネの量を増やしていけば、物価が上がるはずだという経済理論に基づいている。特にバブル崩壊後に物価が下がり続ける日本のような慢性デフレを防止できるとFRBは踏んだ。米国は確かにデフレに陥らずに済んだが、日本は依然としてデフレから脱却できない。

 グラフのインフレ率を見よう。世界のインフレ率はカネの膨張にもかかわらず、長期的には下がる傾向が見える。その間にインフレ率が高騰したのは1970年代の石油危機、80年代末の東西冷戦終結後の経済混乱とともに起きたロシアなどの悪性インフレ、2008年の穀物など国際商品投機という具合で、いずれも一時的な出来事である。インフレ率が下がり続ける「ディスインフレ」の局面がグローバル世界では定着している。カネと物価の相関関係は薄いのが、世界経済の現実なのだ。

 低インフレの中で金融は量、金利とも超緩和政策が継続され、カネはますます膨らんでいく。個人消費や設備投資に回らないカネは市場での投機に向かい、株価を押し上げる。世界の株式時価総額がGDP規模を上回ったとき、ITバブル崩壊(00年)とリーマン・ショックが起きたが、今年もどうやらGDPを上回る情勢だ。中国では不動産バブルが頻発している。

 日本はどうか。インフレ率はもとより世界平均を大きく下回っている。最近20年間の大半はゼロかマイナスだ。ディスインフレの世界にいる日本が、金融緩和によってデフレから抜け出すことは至難の業のようだ。

 国内経済が停滞し、物価も上がらないとなると、家計は消費を控え、現預金をひたすら増やす。企業も内部留保をため込み、賃上げや設備投資にカネを回さない。銀行は国内の資金需要低迷に苦しみ、米国の投資ファンドなど海外向け融資に奔走する。その結果、国際投機マネーがますます太り、新たなバブル崩壊リスクを高める。

 異次元緩和だけでインフレ目標2%達成は到底無理だ。政府と日銀は13年1月に宣言した2%インフレ共同目標を見直し、1%程度の現実的な目標に置き換えるべきではないか。政府は同時に、国内で企業、家計合わせて年間約50兆円も増える余剰マネーを政府が吸い上げ、インフラ、教育、防衛技術など成長分野への財政支出を通じて内需拡大に振り向けるべきだ。

(編集委員)

田村秀男の国際政治経済学
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