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2017.12.10 08:00
【田村秀男の日曜経済講座】世界的株式バブルの黄信号 崩壊不況回避の鍵は財政にあり http://www.sankei.com/premium/news/171210/prm1712100015-n1.html
日本を含め世界は株式ブームだ。バブルではないのか。
20年以上前、ニューヨーク市場はインターネット関連(ドットコム)主導で沸いた。バブル懸念を抱いたグリーンスパン米連邦準備制度理事会(FRB)議長(当時)は「根拠なき熱狂」と警告した後、配下のエコノミストたちに命じてバブルの定義を探求させた。たたき台は日本の平成バブルとその崩壊だ。
議長側近が当時、筆者に明かした結論は、「バブルは崩壊して初めてバブルと断定できる。上げ相場の最中にバブルだと判断する基準はない」。愛し合う男女のように、市場が陶酔状態にあるときは、現状肯定のさまざまな見方や論理がまかり通る。不都合な材料は消し去られる。
FRBはバブル判定を無駄な努力だと諦める代わりに、バブル破裂後の金融政策こそが経済全体の命運を左右すると割り切り、事後対策に焦点を絞った。日銀政策の失敗を反面教師にしたのだ。
1980年代末の日銀によるバブル潰しは、急激な利上げで株価を暴落させた後も、まるで水に落ちた犬をこれでもかとばかりぶったたくように金融引き締めを重ねた。以来、日経平均株価は低空飛行を続け、バブル崩壊後の最高値(1996年)を上回ったはつい最近のことだ。
バブルだと見分けられなくても、せめてシグナルはないのだろうか。米国の「オマハの賢人」こと、著名投資家のバフェット氏が考案した指標がある。一国の国内総生産(GDP)名目値を、上場企業全体の時価総額が上回って増え続ける場合、警戒せよ、というものだ。経済学理論や数学では立証できないが、何となく合点がいく。
経済とは、私たちが日々働き、消費する実体経済、すなわちGDPの世界と株式など資産市場の金融経済に二分される。GDPの規模と成長速度を上回って株式に代表される金融資産が膨らみ続けるのは、何か変だ。旦那さんの年間勤労収入よりも奥さんのへそくり株の値打ちのほうがはるかに大きくなったら、そんなうまいもうけ事がいつまで持つかと不安になるはずだ。
多くの投資家が疑心暗鬼になっている最中に突発的な米利上げ、中国バブル崩壊、あるいは朝鮮半島や中東の有事など国際情勢の急変があればパニックが起きかねない。
グラフは米国、日本、中国と世界全体の株式時価総額のGDP比(バフェット指標)の推移を追っている。世界全体を含めたのは、国境を越えてカネが動き回る金融のグローバル化を考慮したからだ。日米中とも、100を超えてなお時価総額が膨張した揚げ句、バブルが崩壊した。
特徴的なのは世界全体の指標だ。平成バブル崩壊は海外の株式市場にはほとんど波及しなかった。ところが1990年代末には米ドットコム・バブルがはじけ、2007年の米住宅バブルの崩落は翌年9月のリーマン・ショックを呼び込み、全世界の市場を巻き込んだ。その当時、バフェット指標は米国で100を超えていたばかりではない。世界全体もそうだ。
上海株価は07年、世界と共鳴、増幅して時価総額が一挙にGDPを上回るや急峻(きゅうしゅん)な崖のピークから墜落した。世界同時株安はこうして10年間で2度も起きた。そして今秋、米国、日本、世界のバフェット指標はそろって100を超え、ニューヨーク市場には先行き不安感が漂っている。
投機マネーがニューヨークや世界各地の市場を覆い尽くす今、株価のサイクルに一喜一憂しても始まらないだろう。金融市場崩落に歯止めをかけ、実体経済への打撃を軽減化し、早めに回復させる政策が肝心だが、国によって政策の中身は異なるはずだ。
FRBはリーマン・ショック後、ドルを大量発行する量的緩和に踏み切った。金融市場にカネを流し込み、株価を押し上げてきた。株価上昇は消費を支え、GDPを押し上げ、米景気を回復軌道に乗せた。日本の異次元金融緩和政策も株価の動因であることは米国と共通する。
しかし、GDPの6割を占める家計消費は低迷したままだ。家計金融資産の5割以上が現預金で、株式関連資産比率が低い日本では株価上昇の恩恵が実体経済に滴り落ちる度合いは薄い。残る選択肢は政府が国債を発行し、GDPの2倍近い余剰資金を金融市場からくみ上げ、成長分野に投入する財政出動しかない。
政府・与党は最近の輸出回復や株高に意を強くしたのか、所得税や消費税の増税と緊縮財政路線を変えようとはしない。金融政策一本やりで、株式市場異変に実体経済が耐えられるだろうか。
(編集委員)
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