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2015.1.4 12:40
【日曜経済講座】“物語”で大消費地取り込む 地方創生のカギ「テロワール」 編集委員・田村秀男
全国各地の生産者が自ら語り部となり、商品の由来や特徴を伝える「日本百貨店しょくひんかん」=東京・秋葉原(坂本慎平撮影)
今年こそは「地方創生」の年にしたいものだが、何しろ「地方(ローカル)」を押しつぶす「グローバル」の時代である。多国籍化して高収益に沸く大企業をあてにできない。大手は巨大都市に人材、資金、知的財産などの資源を集中投下する一方で、生産・サービス拠点を海外に移して株主利益を最大化しようとする。これでは大都市と地方の格差は広がるばかりだ。
だが、国内の各地方には目先の商業利益を超えた特有の価値がある。担い手は、「資本の論理」からすれば弱小な生産者たちだが、グローバル企業にはない価値を掘り起こし、創造し、大消費地を取り込む物語が全国各地で相次いで生まれつつある。
東京・秋葉原。かの「AKB48」劇場から歩いて数分のJR線高架下に、国内や海外からの観光客が吸い寄せられるように入っていく店舗がある。その名は「日本百貨店しょくひんかん」。各地の生産者約300社から特産食品約6千種を仕入れ、販売している。経営者の鈴木正晴さん(コンタン代表取締役)は「この売り場は食品の甲子園です」と言い、同種で産地が異なる食品をあえて並べ、切磋琢磨(せっさたくま)させる。
デパート地下の地方特選品売り場とは全く様相が違う。ラベルや包装はいわゆる都会風ではなく、「昔ながら」にこだわり、生産地の風土や伝統・文化を映し出す。鈴木さんが全国各地を歩いて回り、大手問屋が扱わないまま埋もれていた名産品を見つける。生産者と打ち合わせて味を調整し容器のサイズ、ラベルのデザインを決める。さらに、常時約50社の生産者が老いも若きも売り場に立って、訥々(とつとつ)とお客さんに商品の由来や特徴を物語ってみせる。
地方に根ざした物語の舞台といえば、NHK朝の連ドラ「マッサン」の題材になったニッカウヰスキー「余市蒸留所」を思い起こすだろうが、現代の創生物語は壮大でなくていい。ささやかなように見える物語が全国津々浦々に息づいている。それが大都会や海外の不特定多数の消費者に伝わることで、商品としての価値へと変わり、生産者や地元に生きがいと豊かさをもたらす。今や多くの人々がそのことに気付き、各地でさまざまな試みが行われている。
純国産ワインを例にとってみよう。日本各地には今、216社のワイン醸造所(ワイナリー)があり、北は北海道から西は九州・五島列島、南は宮崎県まで広がっている。新しくワイナリーをつくろうとする起業家や農家向けのコンサルティング会社「マザーバインズ」(本社・東京)は各分野の専門家7人の集団だ。土壌や苗木、醸造などの設備、樽(たる)詰め、ラベルなどの商品設計から販売先まで一貫して指導する。同社の代表者、陳裕達さんが強調するのは、「テロワール」である。この言葉は、フランスのワイナリーごとの特有の物語を意味し、その地のワインを生む土壌、気候、風土、文化、伝統などを凝縮し、ラベルやボトルのデザインに反映させる。前述した鈴木さんの考え方と共通する。
陳さんは商社マン時代、産業機械エンジニアだった。ワインの設備を手がけたとき「その土地に融合する日本固有のワイン」をつくろうと決心し、仲間とともに起業した。ワインを納入するレストランやワインショップにはテロワールをしっかりと伝え、「消費者との精神的な絆が生まれるようにする」(陳さん)。奥尻島のワインは潮風の影響でほのかな塩味がし、ウニやアワビとよく合う。そのラベルは島を取り巻く奇岩をモチーフとし、ボトルを回すと島を一周するしかけだ。「ローカルな物語こそが世界に通じる」と陳さんはジャパンの地方産ワインの国際化に自信を深めている。
マザーバインズには今、ワイナリーの起業に向けた相談要請が殺到している。都会の脱サラ組、年配者、医師などだ。本物になりそうなのは100件にもなるという。
テロワールの効用はワインばかりではない。超円高期に廃業が相次いだ愛媛県の「今治タオル」の場合、平成19年の商標登録を契機に、品質管理を徹底すると同時に、「タオル・ソムリエ」資格制度を設け、ソムリエたちがタオルをつくる石鎚山の伏流水などの自然条件、歴史など文化的背景を全国に広めてきた。デザインも地域の物語を表現する。中国に生産拠点をそっくり移した業者は今治タオルの再生ぶりをみて、地元への回帰に動き出した。
政府は「地方創生特区」にこだわるが、列島すべてを特区にして、物語を紡ぐ全生産者たちを支援すべきなのだ。
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