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【国際政治経済学入門】軽減税率導入、まずは緊縮財政見直しを
2015.12.16 09:30
自公両党は2017年4月から、加工食品を含む食料品全般への軽減税率の導入を決めた。その「財源」の1兆円の確保は今後検討するという。と聞くと、あたかも「1兆円の消費税減税」であるかのごとき感があるが、だまされてはいけない。年5.4兆円の消費税増税による消費者負担増が1兆円少なくなるだけの話で、れっきとした増税である。「財源」というからには、ほかにたばこ税引き上げか、社会保障費削減など緊縮財政を前提としている。
民間需要を圧迫
アベノミクスの成果は14年4月からの消費税増税により大きく損なわれた。にもかかわらず、政府は「緊縮財政」路線にのめりこんでいる。
グラフは財政資金の対民間収支統計を基に作成した。見ると、日本は14年度以来、緊縮財政で一貫していることが明らかだ。政府が民間から税を徴収する一方で、公共事業、社会保障などに支出するが、支出増加額よりも税収の増加額が多ければ緊縮財政、少なければ積極財政となる。公共事業は確かに13年度に増えたが、消費税増税後は削減に転じた。
民間の所得を政府が税によって取り上げたまま、支出を通じて民間に資金を還元しない状態を続けると民間の需要を圧縮することになる。好景気で民間需要が旺盛で、インフレ率が上がる状態だと、財政支出を引き締めるのは理にかなっている。ところが、「20年デフレ」の日本にとって緊縮財政は不合理のはずである。
13年度は金融の異次元緩和効果で景気が上昇軌道に乗り、円安と株高効果で企業収益は大きく増え、消費者心理も改善したのだが、14年度は消費税率8%への引き上げで、家計消費が押さえ込まれ、デフレ圧力が再燃した。にもかかわらず、政府が財政支出をほとんど増やさず、税収を増やすと、民間需要が落ち込む。14年度の実質経済成長率がマイナスに落ち込み、さらに15年度も4〜6月期がマイナス、7〜9月期は改定値が何とかプラスになったが、10〜12月期の足取りは重い。原因はまさに緊縮財政である。
日銀は異次元金融政策を堅持しているし、場合によっては追加緩和に踏み切るとの期待が、株式市場関係者などに多い。この緩和策は日銀が民間金融機関保有の国債を買い上げて、日銀資金を年間80兆円程度新規供給するのだが、国際通貨基金(IMF)は民間の売却可能な国債保有額は約220兆円で、今後2、3年以内に日銀政策は限界にくるというリポートをまとめている。金融緩和偏重のアベノミクスは持続不可能なのだ。
法人税下げでは不十分
アベノミクスの「第2ステージ」で巻き返すという安倍晋三首相の決意は固い。その目玉が法人税実効税率の引き下げだが、税収減を恐れる財務省は赤字の企業にも事業規模に応じて課税する外形標準課税の拡大や設備投資減税の縮小など、事実上の増税を組み合わせる考えだ。何のことはない、これもまた全体として減税にはしないのだ。
法人税率を引き下げても、企業は利益剰余金を膨らませるだけだとの懸念はもっともだ。だから、安倍首相らは経団連首脳に対し、税率引き下げの見返りに賃上げや設備投資の上積みを強く求めている。しかし、政府が緊縮財政路線に固執している限り、GDP(国内総生産)の6割を占める家計の需要は増えない。そんなビジネス環境で、経営者がそろって雇用や投資に手元資金を振り向けるだろうか。上場企業株式全体の35%以上を保有する海外株主が「余ったカネは株主配当に回せ」と言う要求をはねつけられるだろうか。
消費税の方は食料品全般を対象にした軽減税率導入は所得層の負担の重さを考慮すれば当然だが、要はデフレ圧力の回避である。どうしても導入するなら、食料品の税率をゼロにすべきだ。
海外では、中国景気の悪化が16年に加速する。米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げに踏み切るとの観測から、中国など新興国からの資金逃避が急増している。そんな情勢のもとで、緊縮財政路線に乗ったまま、GDPをあと5年で600兆円に、つまり110兆円も増やすことができるとは、とても思えない。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS)
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