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『賽は投げられた』

とうとう学校の崩壊が始まった。

一瞬の喜びを噛み締めていた隼人以外の3人の顔は一気に青ざめたようだった。

「とにかく逃げろ!走れ!」隼人も流石に冷静を欠いたようだった。

そんなこと言われなくても皆、わかっている。現に今、走って逃げている。

階段を走って降りている間に、隼人は気付いた。

『爆音は上からしか聞こえない。しかし、確実に大きくなってきている。』

ジョーカーにも多少の慈悲はあったようだ。いや、より冷酷というべきか?

下の階で爆発が起きた時点で、4人の生命活動は停止したも同じになる。

しかし、運良くか悪くか、爆破は4回から1階へと続くように思えた。

メリットにとれば、希望。デメリットにとれば生き地獄、死への恐怖、つまり絶望。


逃げている4人に会話は無かった。会話する労力を足へと集めていた。

生にしがみつく人間の本能だろうか。

M殺害から始まったこの地獄に耐え、ここまで生き残った4人はそれだけでも頑張ったのは言うまでもない。

彼らには勿論、死を選択する余地はあった。死が生よりも優位に立つことはかなり少ないが、無いわけでもない。

とはいっても、生にしがみつくことが正解でないわけはない。


だが、考えてみて欲しい。

もし4人が逃げずに諦めて最後に抱き合ってお別れの挨拶を交わしたとしたら、それを責めることができるだろうか?

彼らは肉体的にも精神的にも限界を通り越してしまっていることは言うまでもない。

そんな中、死を選択するもの達に向かって投げかける言葉はなんだろう。

それはきっと、「生きろ!」だけではないはずだ。

死を選択することも必ずしも不正解ではないような気がする。


そんなこんなで、隼人は今3階から2階への階段を下りている。

出口となる昇降口は1階にあるのだが、それは最初に封鎖されてしまった。

しかし隼人達にはそんなこと考えている余裕も無かった。

奇跡を祈るしかなかった。


隼人は4人の先頭をきって逃げていた。

3人の身を案じて後ろを振り向くと、瓦礫が転がっている。

「やばい!もうそろそろここも爆発するかもしれないっ!」やっと隼人が言葉を口にした。

「ッ゛!!!!!!!」隼人にはそうとしか聞こえなかったが、確かにそれは今まで聞いたあらゆる音の中で一番大きく聞こえた爆音だった。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ァ!!!!!!!!!」一番後ろを走っていた大橋が叫んだ。

「どうした!?」

「う、腕が・・・!!」

「大橋君!」大橋の前を走っていた春日部が驚いて叫んだ。

4人は一瞬足を止めてしまいそうになったが、それを察した大橋が言った。

「・・・・・・行けっ!俺も後ろから走るから、とにかく逃げるんだ!」

3人は前を向いた・・。

大橋は左腕が吹き飛んでいた・・・。

もう死ぬことは目に見えていた・・。

春日部は首筋についた大橋の形見となる赤いものを感じ、震えていたが止まることはできなかった・・・。足が止まらなかった・・・。


隼人は2階について後ろを振り向くと、大橋の姿は無かった。

「ちく・・・しょう・・・。俺もここまでか・・・。」

その言葉が隼人が最後に聞いた大橋の言葉だった・・・・。


3人は溢れる涙を止めることができぬまま、走り続けた。

こんなにも辛い現実をもう意識することすら体が拒んでしまっているらしい。

そして瞳がその悲しみを還元しているようであった。


迫り来る爆音は1階についたところで隼人たちを追い越した。

隼人の3メートルほど先にある水道管が大きな一撃を加えられ、水を噴出した。

怖くなって後ろを見ると、また1人居なくなっている。

少し視線を手前にやって見ると、そこには相沢が確かに居た。

春日部の言葉は聞くことができなかった・・・。

隼人はどうしようもないこの感情を押し殺して前を向き直った。そうすることしかできなかった。

あと5メートルほどで昇降口にたどり着く。

通行可能になっているかどうかはまだわからない。祈るしかなかった。


隼人は走り、爆音が自分の頭上でなった直後に昇降口にたどりついた。

昇降口は閉ざされていた・・・。

「終わり・・・・・か・・。」

隼人と相沢は手をつないで膝をついた。









死を覚悟した。











ドーンッ














隼人の目の前で爆発が起こった。





















とうとう死ぬのだと意識して、最後の景色を見ようと前を眺めると、瓦礫に人1人が通れるだけの穴が開いている。




そう。人1人が通れる穴が・・・・。




隼人は相沢の手を無理矢理引っ張って、外へ出ようとした。





相沢は一瞬驚いたが、前を向くとすぐに立ち上がり、引かれる手に従った。





必死にだったが故に言葉は無い。





隼人は穴を通って外に出て、相沢も出ようとしたその時、瓦礫が頭上から降ってきて穴をふさいでしまった・・・。





隼人は手を地面へと押しやられたが、ギリギリ手だけは繋がっている。






「相沢!」





「・・・・・・・・隼人君・・・行って・。」





相沢の手からは確かに温もりが感じられた。





しかし2秒後に起こった爆発から、相沢の手がどんどん冷たくなっていった・・・・。





涙という塩水を地面へと滴らせながら隼人はそっと手を引いた・・・。





相沢が強く握りすぎたせいか、隼人の人差し指の第二間接辺りには、傷ができていた。






その傷が、相沢の形見となってしまった・・・。




隼人は顔を地につけてうなだれた・・。





もう自分の生存などどうでもよくなっていた。





そして周りを見ると、瓦礫に囲まれている。





「ハハハハハハハハハハッ!ハッハッハ・・・ハハ・・・。。。・・・・・ゴメン・・・。みんな・・・。俺が望んだ非現実で・・・。非現実で・・・・・・!・・。でも俺ももうそっちに行くから・・・。






空の上でまたみんなで手つなげたらいいな・・・・・。」






その言葉を言い終わると、隼人の頭上を瓦礫が襲った・・・。





隼人の意識がどんどん遠のいていく・・・。





もう何も感じない・・・。






痛みも










喜びも









愛も















死も・・・・・。














隼人の瞳の住人は静かに布団についた。













非現実爆破まであと1話





交響曲「賽は投げられた」終

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