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「俺は死んだのか?」
「俺は今、どこにいる?」
「そもそも俺とは何だ?」
「どこへ行きたい?」
「何を望む?」
「・・・・・・・・・」
「俺は死んだのか?」
隼人は闇の中に居た。
そしてやっと目の前に世界が広がる。
「ここはどこだ?」
隼人が周りを見てみると、羽毛のかけ布団、お気に入りのマンガ、散々に叩かれて今にも壊れてしまいそうな目覚まし時計、小学校の頃の写真が目に入った。
時計は7時をさしている。
閉められたカーテンから光が漏れ出しているのを見ると、どうやら朝らしい。
「ここが天国?違う。ここは俺の部屋・・・。何故俺はここに居る?俺は死んだはずなのに・・・。」
隼人はベッドから起きて、立ち上がろうとした。
「痛っ・・・」
右手の人差し指に刺激を感じたから見てみると、第二間接あたりに傷がある。
その傷が隼人の頭にフラッシュバックを起こさせた。
「ああ・・・・。あああああああああああっ・・・・!!!!!! ハァ・・ハァ・・・ハァ・・ハァ・・・ッ」
隼人は頭を抱えてうなだれた。
自分の記憶を思い返しながら、自分の心を締め付けながら、隼人はだんだんと生を実感し始めた。
頭痛が、体の震えが、それを実感させてくれた。
それでも隼人は立ち上がって、自分の家だと無理矢理思い込み、リビングへ向かうと誰も居なかった。
今日は日曜日。家族はまだ寝ていたのだ。
隼人は今起こっている現実を理解できぬまま、家を飛び出した。朝ごはんも食べずに、颯爽と。
そして学校まで一目散に駆けていく。
走っている途中に踏みつけた折れた木の枝が、今日はやたらと大きな音を立ててしなっていた。
しかし、何故か空は光り輝く一点を除いて青かった。
隼人は学校にたどり着くまでずっと走っていた。そう、限界に達しているはずの足で走っていったのだ。
まるで隼人を誘い込むかのように、校門は人1人通れるぶんだけあいている。
恐る恐る足を踏み入れ、校舎を見てみると普段どおりの校舎があった。
崩れてなどいない、少し外壁の黒ずんだ校舎がそこにはあった。
「なん・・・で?」
隼人は足を止めた。
「なんで・・・・」
隼人は一点だけを見つめて斜め45度の角度に顔を保ったまま昇降口に向かって歩いていった。
昇降口はまたまた何故かあいていた。
こんな時間の日曜日に学校があいていることなどありえない。しかし何故かあいている。
隼人はそんなこと考えずに、靴を下駄箱に入れて、上履きを履いて4階の自分の教室に向かって歩き出した。
破裂したはずの水道管が、何故か破裂していない。崩れたはずの階段を何の不自由も無く登ることができた。
しかし右手の人差し指には確かに傷が残っている。
その傷は隼人が歩くたびにどんどん痛くなった。
怖くなって、止まろうとしても足が言うことを聞いてくれない。
2階、3階と上がるたびに、隼人の息遣いは荒くなる。
「ここは・・・・。」
そこは大橋が死んだ場所だった。
しかし何も無い。いや、注意してみれば埃が階段の隅にあった。どうやら掃除がいきとどいていないようだ。
そして4階へとあがると、隼人の胸は苦しくなってきた。
隼人は思わず止まってしまった。ここから3メートル先にはあの教室がある。
ばらばらに散らばった勇気を集めて塊とし、隼人はまた歩き出した。
そして教室へとたどりつき、その景色を眺めると、普通の学び舎があった。
整理された机、後ろの黒板に書かれた時間割、そして黒く輝いた前の黒板。
何の授業だったのだろうか、文字定数エックスだけが薄らとその面影を残していた。
隼人はおもむろに、自分の席に着席してみる。
そして机の中に手を入れると、何かに触られた。
驚いて手を引いて、今度は目で見てみると、茶色い封筒があった。
隼人は何か悪のオーラを感じ、手にしたくなかったが、一度目を閉じて、また開いたらまたあったから、しぶしぶ手に取った。
そして恐る恐る封筒を開く。
すると真っ白なB4サイズの手紙が出てきた。
『こんにちは隼人様。私はジョーカー。非現実を望まれる貴方様に最高のプレゼントを差し上げるサンタさん。
お楽しみいただけましたか?非現実。
私は暫くの間眠らせていただくことに致します。
しかし貴方様が再びお望みになられたならば、私は速やかに参上申し上げましょう。
そして貴方様がお望みになられないならば、私は二度と貴方様の前には参上申し上げません。
私は貴方様の傍にございます。私は貴方様をいつも拝見させていただいております。
貴方様にとって、私が最高の存在でありますように。
そろそろやめましょう。
失礼致します。さようなら。
by.joker』
隼人は凍りついた。
「・・・・・・誰が?・・・・・・何のために?・・・・・・いつ?・・・・・・」
もう今居る空間が現実なのか夢なのかわからなくなっていた。
しかし右手を見れば現実だと実感できる。その傷が最後まで隼人を助けていた。
隼人は手紙を握り締めて猛ダッシュで階段を駆け下りた。
幸い、爆音は聞こえなかったが、心の中の鼓動がどうも五月蝿く、隼人を苦しめた。
そして昇降口を出て、校門に駆けて行くと、校門は入ったときよりも少し広く開いていた。
しかしそんなことには気付かずに、まっしぐらに自分の家へ駆けていった。
「隼人君、どうしたの? そんなに走って。」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。隼人の足はピタリと止まって、体はまた凍りついた。
「何その手紙? あっ、もしかしてあれ?」
声の主が近づいてくる。隼人は全身の力が抜けてしまった。
そして手紙をとられてしまう。
「ジョーカー? ハハ、何この手紙。ラブレターだと思ったのに、ハハハ^^」笑って隼人のおちょくった。
「あ・・・あいざ・・わ?」
「うん?そうだよ、私だよ。」
「な・・なんで、ここ・・に?」隼人の唇は震えていた。
「何でって、ちょっと朝の散歩だよ^^;」
隼人は取られた手紙を取り返して、また駆けていった。
「どうしたんだろ、隼人君。変なの〜。」
隼人は家にたどりつき、荒くドアを開け、鍵も閉めずに自分の部屋へ駆け込んだ。
そして布団に包まった。
今周りで起こっているあらゆる現実を頭では理解しても体が理解しない。
いや、頭でも理解できない。
「俺はどこに居た?何をしていた?何を考えてた?何を・・・・望んでた?」
「そう。これだ。俺はこれを望んでた。非現実・・・非現実を望んでたんだ!」
「でももういらない!もう望まない!消えてくれ!消えてくれよぉ!!!」
『そうですか。それが貴方様のお答えならば、私は速やかに消えましょう。しかし、貴方様が望めばいつでも差し上げます。参上申し上げます。だからその時までさようなら。失礼致します。』
「もういらねーよ!!もういいから!」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「誰だ・・・・・?今の誰だ!?」
「お前は誰なんだ!?誰なんだよ!?」
「誰だったんだよ・・・・なぁ・・・」
辺りを見回しても誰も居ない。
頭の中で響いた言霊が、静かに消えていった。
最後まで、人差し指の傷は痛かった。
現実と非現実。
たった一文字の違いだけだ。
普段過ごしている現実も、ちょっとしたことですぐに非現実となる。
そして非現実は傍にある。
それを望むなら、地球の裏側へでも行ってみるがいい。
日本人は幸せな現実の中に居る。
『”この国”では人を殺せば、悪人だ。しかし”あの国”では人を殺せば、称えられる。』
”この国”の人々は現実の中に居る。
”あの国”の人々も現実の中に居る。
非現実を望むべきはどっち?望まぬべきはどっち?
人間は皆が現実の中に生きている。
幸せか、不幸か。それだけの違いだ。しかし、そんなにも違うのだ。
私はジョーカー
非現実の塊
私は貴方の傍に居る
私は貴方と共に居る
望めばあげる
ただし
後悔はしないでね。
-END-
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