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残された5人は最悪の状況下の中で生きていた。
あとたった、7時間で校舎は爆破される。そして、全員が死ぬ。
それにも加えて、ヒントが欲しければ仲間を犠牲にしろと・・・。
全てが現実を疑わせる現実だった。
「とにかく探すぞ!よけいな事は考えるな!」隼人がどんよりとした空気を切るようにそういった。
他の4人は首を静かに縦に振るだけだった。
普段は強気な大橋が、そして気の弱い内田と相沢、その中間的存在の春日部が、皆今という瞬間だけは物静かに思えてならなかった。
心の中ではどんな曲が奏でられたいただろう。しかし、そのコンサートの観客は皆泣いていただろう。
5人は皆ゆっくりと歩き出した。会話も無く、やる気も無く。。。
今まで続けられたリモコン探しの奮闘も、やっと安息を迎えたのだろうか。
彼らの心の中の演奏者は鎮魂歌を奏でる最中なのだろうか。
悲しい、悲しい・・・鎮魂歌・・・。
まるで、冬の落ち葉が風になびき、この世の果てまで追いやられるがごとく、変えられぬと薄々わかっている運命とただただ戦っていた。
隼人の空しく終わった発言の後で、大橋が口を開いた。
「どこを探す?」
「とりあえず・・・・・、どこにするか・・・。。」隼人には何も考えが無かった。
「職員室とかはどう?」相沢が口を挟む。
「いや、そこはさっき探したわ」春日部がやたらにきっぱりと言った。
隼人は内心ではそんなふうに言ってほしくなかった。何でもいいから、希望が欲しかった。
「内田はどこがいいと思う?」隼人があえて、内田にふった。
「隼人君、まだ僕をジョーカーだと疑ってる?」内田が隼人の心に矢を放ち、見事この矢は隼人の心を突き刺した。
「もう疑ってないよ。お前はジョーカーじゃない。」
隼人のこの発言、本当だろうか。
人いや、日本人は空気を読むのがやたらと好きなようだ。
安息を楽しみ、真実を偽ることを何故に是とするのだろうか。
鎮魂歌はいづれ、終わりをつげざるを得ない。いつまでも安息を楽しみ、いつまでも現実に逆らうことは不可能なのだ。
隼人は嘘をついた。空気を読んでしまった。4人をいや、内田を傷つけないように。自分の身を守るために。
「そっか、ありがとう。」内田が微笑んでいった。
「何だよ、急に。」隼人が不思議そうに問いかけた。
「僕が犠牲になろう。リモコンは4人でも十分探せるよ。それに、このままじゃどう考えても無理だよ。」
「・・・・・・・・・・」4人の間に沈黙が流れた。
しかし、沈黙の裏にあるのは、悲しみや絶望だけではなかった。当然、真逆の感情もあっただろう。
人間とは本質的にそういう生物だ。
誰もが、最後は自分のため。内田すらも、自分のためだったかもしれない。
「やめろ、というのはわかってる。でも、止めないで。僕は恨まない。正直、僕自身もうこの状況に耐えられないんだ。だから、僕は自分のために死にたいんだ。だから・・・・。」
5人はちょうど、伊集院が犠牲になったトイレの近くに居た。
「内田君・・・・。」相沢が泣き始めた。しかし、相沢は下を向かなかった。ただただ、内田の目だけを見つめていた。
鎮魂歌は最高潮に達した。5人の動きが生体反応を感じさせないかのように止まり、眼差しはただ一点だけを眺めていた。しかし、内田以外の眼差しの天気は雨だった。。。
「・・・わかった・・・・俺が送る・・・・大橋と春日部と相沢はここで待っててくれ・・・・。」隼人がそういった。
「ありがとう。」内田がそう言っただけで、他の3人は下を向いてしまった。
「・・・行こう。。。」
「うん。」
内田が隼人の手を強く握った。隼人には、その手が冷たく感じられた。
そして、2人は歩いていった。他3人は激戦区の最前線へと旅立つ兵士を送るかのように、涙をうかべて眺めていた。
トイレが近かったせいか、あっという間についてしまった。そして、隼人と内田はトイレに入り、3人の視界から2人が消えた。
最後に見る内田の姿は、弱気ではなかった。何か別のオーラが彼の周りを支配していた。
「隼人君は、もうここでいいよ。」
「いや、最後まで送る。」
「隼人君、僕を甘く見ちゃダメだよ。僕はわかってる。死ぬのは僕だよ。君じゃない。」
隼人は立ち尽くしてしまった。
「隼人君、僕はジョーカーじゃないからね。僕は君の友達だから。」
全て見切られていた。全て見透かされていた。
凍りつく隼人の目から眼差しをそらして、内田は一番奥の処刑場へと歩いていった。
あと数秒で、内田は死んでしまう。あと数秒で、隼人は完全に出し抜かれてしまう。
しかし、隼人は走れなかった。内田の発言にトドメを刺されてしまった。
「さようなら」
内田がそういって、処刑場へと入っていった。
隼人の視界から、確かに内田が消えた。
隼人はやっと、あせり始めた。しかし、冷静をかいたことがよけい仇となってしまう。
「内田!俺はお前をジョーカーだなんて思ってない! お前は友達だ! 俺は友達を守りたい! だから、出て来い! 生きろよ!!!」
トイレの中に隼人の怒号が響いた。しかし、その怒号の成分は醜いものがあったことは言うまでも無い。
「隼人君・・。」
「何だ!?」
「もういいよ。」
再び、隼人は立ち尽くした。
そして心のそこから、何かがこみ上げてくる。罪悪感とは何か違う、何かが。
『ピピーーーーーー!!!!!!』
その音が内田が生きているうちに、隼人が聞いた最後の音だった。
しかし、最後の声は隼人の心をわしづかみにするような、苦しいものだった。
爆音は、不思議と隼人には聞こえなかった。内田という人間の傍に世界で最も近くに居た最後の人間なのに・・。
爆音と共に、崩れ落ちたのは壁だけじゃない。
トイレの外で待っている、3人も同時に崩れ落ちた。
隼人には、爆音よりもむしろ、嘆きの音だけが耳に届いていた。
鎮魂歌は最後の演奏を奏で終わった。そして、隼人が3人のもとに戻ったとき、放送がなる。
『こんにちは。隼人君。僕はジョーカー。非現実を楽しみたい君に最高のプレゼントをあげるサンタさん。
内田君に拍手だね。いや〜、勇敢だったよ彼は。
ま、約束だからヒントをあげよう。
ヒントは、「リモコン」さ。
言葉ってのは不思議なもんでね。起爆装置を表す言葉は他にもたくさんあるんだ。でも何で、リモコンにしたと思う?
ていうか、これ答えだよね。
もういいや、言っちゃおう。
この学校の教室には入り口の近くにテレビが置いてあるよね。
そのテレビのリモコンのどれかが、起爆装置なんだよ。この学校は全部で12クラスあるから、確立は12分の1だね。
リモコンには1から12の数字がある。
本物のリモコンは数字電卓の足し算と同じ機能を果たすよ。
例えば、5と8を押すと、13っていう数字が入力される仕組みなんだよね。
本物のリモコンにたどり着き、起爆を解除する数字を入力すれば、爆弾は無力化する。ただし、ボタンを押せるのは二回まで。そして同じボタンは二度押せない。
それと、本物のリモコン以外のボタンを押せば、C4は全て爆破する。本物のリモコンの入力を間違えても全て爆破する。
ま、内田君に免じて答え言ってあげたよ。
ま〜頑張って☆』
4人の心に希望の光が見え始めた。
それと、同時に隼人はこの放送で初めて、内田がジョーカーではないと自覚できた。
そのことが情けなくて、隼人の心を締め付けた。
「これ以上、犠牲にはできない。12分の1にかけるしかないな・・。」大橋がそう言った。
「あと6時間くらいあるはずだ。冷静に考えよう。」隼人がそういった。
見えてきた光は逃がせば二度と見えてこない。
残された4人は生死をかけてリモコンを選ぶだろう。
もう、内田のことを意識するものはいない。
過去の犠牲に目をそむけ、4人は前を見る。
見えた光が闇へと飲み込まれぬように、そして自分という人間が爆音と共に散ることの無いように、4人は瞳を光らせていた。。。
校舎爆破まであと5時間49分53秒
鎮魂歌「絶望という名の安息」終
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