【小説】現実と非現実と

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残された5人は最悪の状況下の中で生きていた。

あとたった、7時間で校舎は爆破される。そして、全員が死ぬ。

それにも加えて、ヒントが欲しければ仲間を犠牲にしろと・・・。

全てが現実を疑わせる現実だった。

「とにかく探すぞ!よけいな事は考えるな!」隼人がどんよりとした空気を切るようにそういった。

他の4人は首を静かに縦に振るだけだった。

普段は強気な大橋が、そして気の弱い内田と相沢、その中間的存在の春日部が、皆今という瞬間だけは物静かに思えてならなかった。

心の中ではどんな曲が奏でられたいただろう。しかし、そのコンサートの観客は皆泣いていただろう。

5人は皆ゆっくりと歩き出した。会話も無く、やる気も無く。。。


今まで続けられたリモコン探しの奮闘も、やっと安息を迎えたのだろうか。

彼らの心の中の演奏者は鎮魂歌を奏でる最中なのだろうか。

悲しい、悲しい・・・鎮魂歌・・・。

まるで、冬の落ち葉が風になびき、この世の果てまで追いやられるがごとく、変えられぬと薄々わかっている運命とただただ戦っていた。


隼人の空しく終わった発言の後で、大橋が口を開いた。

「どこを探す?」

「とりあえず・・・・・、どこにするか・・・。。」隼人には何も考えが無かった。

「職員室とかはどう?」相沢が口を挟む。

「いや、そこはさっき探したわ」春日部がやたらにきっぱりと言った。

隼人は内心ではそんなふうに言ってほしくなかった。何でもいいから、希望が欲しかった。

「内田はどこがいいと思う?」隼人があえて、内田にふった。

「隼人君、まだ僕をジョーカーだと疑ってる?」内田が隼人の心に矢を放ち、見事この矢は隼人の心を突き刺した。

「もう疑ってないよ。お前はジョーカーじゃない。」

隼人のこの発言、本当だろうか。


人いや、日本人は空気を読むのがやたらと好きなようだ。

安息を楽しみ、真実を偽ることを何故に是とするのだろうか。

鎮魂歌はいづれ、終わりをつげざるを得ない。いつまでも安息を楽しみ、いつまでも現実に逆らうことは不可能なのだ。


隼人は嘘をついた。空気を読んでしまった。4人をいや、内田を傷つけないように。自分の身を守るために。

「そっか、ありがとう。」内田が微笑んでいった。

「何だよ、急に。」隼人が不思議そうに問いかけた。

「僕が犠牲になろう。リモコンは4人でも十分探せるよ。それに、このままじゃどう考えても無理だよ。」

「・・・・・・・・・・」4人の間に沈黙が流れた。

しかし、沈黙の裏にあるのは、悲しみや絶望だけではなかった。当然、真逆の感情もあっただろう。

人間とは本質的にそういう生物だ。

誰もが、最後は自分のため。内田すらも、自分のためだったかもしれない。


「やめろ、というのはわかってる。でも、止めないで。僕は恨まない。正直、僕自身もうこの状況に耐えられないんだ。だから、僕は自分のために死にたいんだ。だから・・・・。」

5人はちょうど、伊集院が犠牲になったトイレの近くに居た。

「内田君・・・・。」相沢が泣き始めた。しかし、相沢は下を向かなかった。ただただ、内田の目だけを見つめていた。

鎮魂歌は最高潮に達した。5人の動きが生体反応を感じさせないかのように止まり、眼差しはただ一点だけを眺めていた。しかし、内田以外の眼差しの天気は雨だった。。。

「・・・わかった・・・・俺が送る・・・・大橋と春日部と相沢はここで待っててくれ・・・・。」隼人がそういった。

「ありがとう。」内田がそう言っただけで、他の3人は下を向いてしまった。

「・・・行こう。。。」

「うん。」


内田が隼人の手を強く握った。隼人には、その手が冷たく感じられた。


そして、2人は歩いていった。他3人は激戦区の最前線へと旅立つ兵士を送るかのように、涙をうかべて眺めていた。


トイレが近かったせいか、あっという間についてしまった。そして、隼人と内田はトイレに入り、3人の視界から2人が消えた。

最後に見る内田の姿は、弱気ではなかった。何か別のオーラが彼の周りを支配していた。

「隼人君は、もうここでいいよ。」

「いや、最後まで送る。」

「隼人君、僕を甘く見ちゃダメだよ。僕はわかってる。死ぬのは僕だよ。君じゃない。」

隼人は立ち尽くしてしまった。

「隼人君、僕はジョーカーじゃないからね。僕は君の友達だから。」

全て見切られていた。全て見透かされていた。

凍りつく隼人の目から眼差しをそらして、内田は一番奥の処刑場へと歩いていった。

あと数秒で、内田は死んでしまう。あと数秒で、隼人は完全に出し抜かれてしまう。

しかし、隼人は走れなかった。内田の発言にトドメを刺されてしまった。

「さようなら」

内田がそういって、処刑場へと入っていった。

隼人の視界から、確かに内田が消えた。

隼人はやっと、あせり始めた。しかし、冷静をかいたことがよけい仇となってしまう。

「内田!俺はお前をジョーカーだなんて思ってない! お前は友達だ! 俺は友達を守りたい! だから、出て来い! 生きろよ!!!」

トイレの中に隼人の怒号が響いた。しかし、その怒号の成分は醜いものがあったことは言うまでも無い。

「隼人君・・。」

「何だ!?」

「もういいよ。」

再び、隼人は立ち尽くした。

そして心のそこから、何かがこみ上げてくる。罪悪感とは何か違う、何かが。

『ピピーーーーーー!!!!!!』

その音が内田が生きているうちに、隼人が聞いた最後の音だった。

しかし、最後の声は隼人の心をわしづかみにするような、苦しいものだった。

爆音は、不思議と隼人には聞こえなかった。内田という人間の傍に世界で最も近くに居た最後の人間なのに・・。


爆音と共に、崩れ落ちたのは壁だけじゃない。

トイレの外で待っている、3人も同時に崩れ落ちた。

隼人には、爆音よりもむしろ、嘆きの音だけが耳に届いていた。


鎮魂歌は最後の演奏を奏で終わった。そして、隼人が3人のもとに戻ったとき、放送がなる。


『こんにちは。隼人君。僕はジョーカー。非現実を楽しみたい君に最高のプレゼントをあげるサンタさん。

内田君に拍手だね。いや〜、勇敢だったよ彼は。

ま、約束だからヒントをあげよう。

ヒントは、「リモコン」さ。

言葉ってのは不思議なもんでね。起爆装置を表す言葉は他にもたくさんあるんだ。でも何で、リモコンにしたと思う?

ていうか、これ答えだよね。

もういいや、言っちゃおう。

この学校の教室には入り口の近くにテレビが置いてあるよね。

そのテレビのリモコンのどれかが、起爆装置なんだよ。この学校は全部で12クラスあるから、確立は12分の1だね。


リモコンには1から12の数字がある。

本物のリモコンは数字電卓の足し算と同じ機能を果たすよ。

例えば、5と8を押すと、13っていう数字が入力される仕組みなんだよね。

本物のリモコンにたどり着き、起爆を解除する数字を入力すれば、爆弾は無力化する。ただし、ボタンを押せるのは二回まで。そして同じボタンは二度押せない。

それと、本物のリモコン以外のボタンを押せば、C4は全て爆破する。本物のリモコンの入力を間違えても全て爆破する。

ま、内田君に免じて答え言ってあげたよ。

ま〜頑張って☆』


4人の心に希望の光が見え始めた。

それと、同時に隼人はこの放送で初めて、内田がジョーカーではないと自覚できた。

そのことが情けなくて、隼人の心を締め付けた。


「これ以上、犠牲にはできない。12分の1にかけるしかないな・・。」大橋がそう言った。

「あと6時間くらいあるはずだ。冷静に考えよう。」隼人がそういった。



見えてきた光は逃がせば二度と見えてこない。

残された4人は生死をかけてリモコンを選ぶだろう。

もう、内田のことを意識するものはいない。

過去の犠牲に目をそむけ、4人は前を見る。

見えた光が闇へと飲み込まれぬように、そして自分という人間が爆音と共に散ることの無いように、4人は瞳を光らせていた。。。





校舎爆破まであと5時間49分53秒



鎮魂歌「絶望という名の安息」終

隼人の目の前に広がっている現実というなの凶器は隼人の頭を悉く混乱させた。

「(コイツは本当に内田なのか!?あの大人しい内田にこんなことができるのか!?)」

「お、お前・・・。本当に・・内田か? 内田なのか!?」

隼人のボイスがデクレッシェンドからクレッシェンドへと曲調を変えていった。

まるで、嘆きの独唱を舞台のど真ん中で大観衆へ向けて奏でるように、そして悲しく、今にも泣き出しそうな瞳を押さえながら、隼人は独り葛藤していた。

「ああ、僕だよ。隼人。何故気付いてくれなかったんだい? 君が気付いていれば伊集院君は死ななかったんじゃないかい? ハハハ^^」

「黙れ・・・。」隼人のボイスは一気に音量を下げた。

「ハハハ、リモコン見つかったかい?」

「うるせぇ・・・。伊集院を、みんなを返せ・・。」

「返せ? これは君の望んだことだろう? 非現実を望み、楽しんでいたのは誰だい?」

「そんなことはどうでもいい!今すぐリモコンを渡しやがれクソヤロー!!!」

「クソヤローとはとんだ言い分だね。それが僕に言うことかい?

おっと、時間だ。

僕はジョーカー。非現実を楽しみたい君に最高のプレゼントをあげるサンタさん。

また会おう。じゃあね。   パチッ」

ジョーカーが指を鳴らすと、強化ガラスで仕切られた教室のジョーカーが居るほうでC4爆弾が爆発し、それと同時にジョーカーはベランダから飛び降りて行った。



隼人はその場に立ち尽くす。すさまじい爆音の後は時計の針の音だけが空間に響いていた。

教室に貼り付けてある掲示物がいつもよりもまして五月蝿く、激しく風になびいていた。



隼人はやっと我を取り戻し、ゆっくりと立ち上がって2階の集合場所へと歩いていった。

階段を下りる足がやたらと重い。手すりをつかまなければ転げ落ちてしまうほどだった。

そして、隼人は集合場所へ集まると、そこにはまた幻想にしか見えぬ現実が広がっていた。

「隼人遅かったな、忘れ物ってなんだったんだ?」大橋が問い詰めるが、しかし隼人にはそんなことは聞こえていなかった。

「内田!テメー何でここに居る!?」

「え? 何で?僕一緒にみんなと居たよ。」

「嘘付け、お前はジョーカーだろ!」

「え? わ、わけがわからないよ。。。」内田は本気で戸惑っているようだった。

「おいおい隼人、急に何言い出すんだ?」大橋が内田の気持ちを代弁した。

「俺は4階の教室に行った。そしたらコイツが居て、『僕がジョーカーだ』と言ったんだ! 本当だ信じてくれ!!」

「隼人、それは可笑しいよ・・・」春日部が口を開いた。

「そうだぞ隼人。内田は俺らとずっと一緒に居たんだ。4階になんていけるはずないだろう?」

「で、でも・・・・。内田は確かに4階の教室に居たんだぞ!?」

「隼人君、私が集合場所に着いたときにも内田君は居たよ?」相沢が口を挟む。

「きっと、気が動転してたんだよ。」ついでに相沢が隼人の熱気に止めを刺すように言った。

「・・・・・・・・・」隼人はただただ、黙っているしかなかった。

「隼人君、何で僕のことをジョーカーなんて言うの?僕は伊集院君やみんなの命なんて奪ったりしないよ?」内田が的を射るぎていることを言った。

確かにそうだった。冷静に考えれば、普段からまともに友達とも会話しないほどおとなしく、気の弱い内田に人殺しができるはずがなかった。

しかし、隼人には内田のこの発言が逆鱗に触れてしまった。

「ふざけんなテメー!じゃあ、俺と対峙したアイツはなんだったんだよ、ああ!!?」

「知らないよそんなの・・。」

「お前を殺せば、悲劇は止まる!C4爆弾も爆破できなくなる。殺してやる!」

このとき、隼人は孤立してしまったことに気付かなかった。もはや隼人は自分が見た全てを真実とするしか道が残っていなかった。いや、そういう道しか見えていなかった。

「パシッ!!」相沢が隼人の顔にビンタした。

「目を覚まして! 何を見たのか知らないけれど、内田君にはアリバイがある! 内田君はジョーカーじゃない!」

「で、でも・・・」

「これ以上内田君を疑うなら、隼人は一人で探して!」相沢が目に光るものを注ぎながらそう言った。

相沢が男子を呼び捨てにしたのも、男子に怒鳴ったのもこれが生まれて初めてだった。

「わかったよ・・・。内田、俺が悪かった。疑ってゴメン・・・・・・。」

「いいよ、別に。気にしてない。」内田が隼人をまるであざ笑うかのようにそういった。

隼人はひどく惨めな気分になり、自己嫌悪に陥ってしまった。



自分が見たものが幻想であることを人間は恐れる。

しかし、真実と幻想は表裏一体なのだ。

隼人やその他の人間は知識や人間関係における倫理観などの曖昧な世界の中で、そして思い込みの中で生きている。

そんな曖昧な世界で人間が見ている現実は本当に真実だけなのか?

そう考えたとき、誰もが幻想に遭遇していると考えることはできぬだろうか?

そう、ただ意識せぬだけなのだ。そんなこんなで人は幻想を恐れる。つまりは自分の意志を否定するものを恐れる。

そんな臆病な生き物なのだ。


隼人もまた同じ。

職員室の手紙からジョーカーとの対峙、そして今に至るまで隼人の心の中で奏でられた幻想曲は今、最高潮を迎え、過ぎ去っていくところだった。

しかし、幻想曲の指揮者は永遠に手を止めぬだろう。なぜならその指揮者とは、他の誰でもない、ジョーカーなのだから。


そんな鳴り止まぬ幻想曲を抑えて、隼人たち5人はまた歩き出した。

無論、3時間探し回って成果は何も無かった。

もう、諦めかけていたその時、また放送が鳴る。

『こんにちは。隼人君。僕はジョーカー。非現実を楽しみたい君に最高のプレゼントをあげるサンタさん。

さっきは、どうも。

リモコン見つかったかい?見つからないだろうね。

もうそろそろ、僕も飽きてきた。だから、本来あと19時間くらいあるんだけど、あと7時間で爆破しちゃうからよろしく。

その代わりと言っては何だが、君達にヒントをあげよう。ただし、条件付でね。

条件はヒント一つにつき、一人さ。

つまり、ヒントがほしかったら、仲間を捧げるんだね。

仲間を捧げるなら、その人を伊集院君が犠牲になったトイレの一番奥の大便の所に入れておけばいい。

捧げ次第、この放送でヒントを与えよう。

じゃあね。』


「・・・・・・・・・・・・」

5人はただ黙っていた。

最悪の状況がやってきた。

今は午後5時だ。つまり、0時ちょうどに学校は爆破され、全員が死ぬ。

3時間探して手がかりも何も見つからなかった。もはや、何もかもが絶望的だった。

「仲間を犠牲に・・・・だと・・・? 何を言っているんだアイツは・・・。」隼人が重い口を開いた。

しかし、隼人は本気でそう思っているかどうかはわからなかった。

「あと、7時間で5人全員で探そう。」春日部がそういった。

5人は渋々首を縦に振った。

さびてしまったボルトのように、ゆっくりと、そして暗く。



全てが理想論だった。誰もがわかっていた。

『リモコンを見つけるには、誰かを犠牲にするしか方法はない。』

しかし、そんなこと誰も口にするはずもない。



仲間を犠牲にするなど、ありえぬ答えだ。

しかし、現実を生きるためには理想論のほかに必要なものがある。


真実と幻想と

彼ら5人は何を選び、何を捨てるだろうか。



校舎爆破まであと6時間58分24秒



幻想曲「真実と幻想と」終

隼人は最近になって初めてまともに悲しんだ。

他の4人は13歳という若さで人が死ぬ瞬間を目撃してしまった隼人を、慰めるにしてもどうしたらよいかわからなかった。

人間とはこれほどまでに儚く、もろい存在なのだろうか。

結局、伊集院が死んだのは運命だったのかもしれない。

「隼人、・・・・・・行こう」大橋が隼人の気持ちをなだめるように、そして5人全員の気持ちをもなだめるように小さな声でそういった。

「ああ・・。」隼人は気の抜けた様子であった。

隼人が大橋の顔を見ると、隼人には大橋の顔が笑っているように見えてしまった。

いや、全員の顔にもはや悲しみを感じることができなかった。

「(ジョーカーはこいつらの中の誰かだ。。。だからどうせ心の中では笑ってやがるんだ。)」隼人にはいくら否定しても、そう思わないことが不可能に思えた。


ここでまた放送が鳴る。

「やぁ。こんにちは。隼人君、それと他の4人の方。

残念だったねぇ〜。伊集院君。まぁ、君達もいづれああなるんだし。早いか遅いかの違いだよ。

それと、他の生徒達は4階で眠ってるからよろしくね☆

じゃあね〜」

5人は暫く固まっていた。

恐怖、絶望、疑念、混乱。

5人の心の中でそんなマイナスの感情が聖譚曲を奏でていた。

本来、プラスイメージである聖譚曲だが、世界で唯一彼らの心の中ではマイナスに思えてならなかった。

そして闇がいっそう深く、いっそうの静寂を思わせるがごとく、水道から滴る水の一滴が独奏曲を奏で終わったとき、内田が口を開いた。

「隼人君、何で君が呼ばれるの?」

「わからない・・・・・・」隼人は太陽に照らされた嘘を必死に体で隠そうと奮闘した。

「隼人君、あの手紙ホントはなんだったの?」相沢が言う。

「だから、ただの書類だって!」

「でもだったら何ですぐに破り捨てたの?」

「うるさいな!破り捨てちゃいけないのかよ?俺も少し気が動転してたんだよ。
それとも何だ?俺がジョーカーだって言いたいのか?じゃあ、俺はさっきどうやって放送したって言うんだ?」

「そんなことは言ってないじゃん・・・。」相沢の目から光るものが零れ落ちそうだ。

「ごめん、言い過ぎた。」隼人は罪悪感を感じてならなかった。

「なぁ・・・ジョーカーはこれまで嘘は言ってない。だったら、おそらくこの校舎で動けるのは俺たちだけだ。」大橋が話を変えた。

「それがどうした?」隼人がそれに急いでつっかかる。

「別れてリモコンを探さないか?」

「それがいいかもね。」春日部が何故か返事をした。

「じゃあ、俺は内田と春日部を連れて行く。隼人は相沢と一緒に探せ。」

隼人には大橋が何故、自分と相沢を組ませたかわからなかった。

「待てよ。4階に居る奴らを起こせばいいんじゃないか?」隼人が不満そうに言った。

「隼人君・・・。」

内田のこの短い発言によって、隼人と他の3人は悟ってしまった。

「・・・・じゃあ、とりあえず行こう。俺ら三人は1階と2階を探す。隼人と相沢は3階と4階を探せ。そして、とりあえず3時間後またここ、二階に集まろう。」

「わかったよ。」隼人が渋々そう返事をした。


しかし、隼人は相沢と二人で組んで、やっと冷静になった。

「相沢。さっきは本当に悪かった。」

「別にいいよ。でも、本当のことを教えて。あの手紙は何なの?」

隼人の心にまたもや刀が突き刺さる。そして、体で隠していた嘘はもはや隠しきれないほど膨張していた。

「・・・・・あれは・・・・。」

「何なの?」

「・・・ジョーカーからの挑戦状みたいなもんだよ。」

「何よそれ!?」

「あの手紙には俺の名前が書いてあって、ゲームをしようと書いてあった。」隼人はあえて前半の部分しか言わなかった。

「でも、それだけじゃないんじゃない?」

もう隼人は嘘を隠し通すことに嫌気がさしていた。そしてとうとう言ってしまった。

「ああ・・・。ジョーカーは大橋、内田、春日部・・・そして相沢の誰かだと書いてあった。」

「え!? う、嘘だよそんなの。大体ジョーカーが放送してたとき私達は一緒にいたじゃない!」

「(確かにそうだ。しかし、不可能じゃない。でもこれ以上何か言っては空気が・・・。)
ああ、そうだな。」

「しかし、何でわかったんだ?手紙が嘘だってこと。」

「だって、様子が変だったじゃない。春日部さんも気付いてたよ。」

これこそパラドクス。嘘を隠そうとして、嘘だと周囲に振りまく。

これは人が持っている性質なのかもしれない。

どんなに心理学や何やらを学んだ人間でさえも、真実を言うときと偽りを言うときではやはり何か異なる。

受けて側が、その異なる何かを察知したとき、初めて嘘は嘘となるのだ。


隼人と相沢は3階と4階のあらゆる箇所を探し回った。その途中に爆発音が2階ほど聞こえたが、別に気にならなかった。

隼人、いや5人はこのとき既にこの状況にすら慣れてしまっていた。

絶望とは何とも人を変えてしまうことだろうか。


そんなこんなで別れてから3時間が経過しようとしたその時、隼人が3階の廊下を歩いていると、一通の手紙が置いてあった。

「隼人君、また手紙!」

隼人が暗い表情でそれを相沢にも聞こえるように音読しはじめた。

『こんにちは。隼人君。僕はジョーカー。非現実を楽しみたい君に最高のプレゼントをあげるサンタさん。
ピクニックを楽しんでるかい?
突然だけど、君に会いたくなった。今すぐに、君のクラスの教室に来てよ。
じゃあ、待ってるね☆』

「・・・・行ってやるよジョーカー・・・!」

「私も行く!」

「いや、相沢は来るな。これは罠かもしれない。ジョーカーが俺を狙っているのなら、間違いなくこの手紙で俺をおびき寄せ、俺を殺す。だから危険だ。2階の集合場所に戻ってろ。」

「嫌よ!」

「相沢・・・。頼む。」

どんよりした空気がその場に流れた。まるで葬式にでも居合わせたかのような、そんな永遠の別れがこれから始まろうとしているかのように二人は感じてしまった。

「・・・・わかった・・・。気をつけてね。死なないで。」

「必ず戻る。みんなには教室に忘れ物をしてきたって言っておいてくれ。」

隼人は4階に駆けていった。相沢はそれを祈るようにただ一人、悲しくそして空しくただただ眺めていた。

隼人が4階の教室の前に着いた。

ドアを開ける。そしてそこにはそれまで無かった強化ガラスが中央に一直線に張られていた。

そして、隼人は前を見る。すると、仮面をつけた人間が目に入った。

「お前がジョーカーか!?」

「そうだよ。隼人君。」

隼人ははっとした。聞いたことのある声だった。

「お前・・・・。誰なんだ?」

「ハハハ」

「笑ってんじゃねぇ!誰なんだって聞いてんだよ!!!」

「まだわからないのかい?僕だよ隼人君。」

ジョーカーが仮面を取った。

隼人は唖然とした。声が出なかった。

目の前で起きている否定できぬ現実を心の中で何度も否定して、それでもできないから今度は目を閉じてしまった。

そして、また目を開ける。

現実は変わらない。いや変えられない。それがいくら悲しくて、いくら嘆くべきものであろうとも。。。

そして、声が出る。

「お前は・・・内田!!!」




校舎爆破まであと19時間2分


聖譚曲「現実という凶器」終

四重奏「疑念」

隼人はジョーカーからの手紙を見てぞっとした。

第一、何故こんなところにこんなものが落ちているのか、隼人には理解できなかった。

無理も無い。ジョーカーはまるで隼人が職員室に来るのを知っていたかのように、そしてそれを拾うのが気の弱い相沢にさせたかのようにしていなければ、一番最初にこの手紙は隼人には渡らなかったのだから。

もし、他の5人のうちの誰かがこの手紙を見ていたら、隼人は孤立してしまう所だったかもしれない。

「おい、なんて書いてあるんだ?」伊集院がつぶやいた。

「いや、なんでもない。ただの先生たちの書類みたいだ。」隼人が手紙を破りながらとっさに答える。

「本当か?もっと重要なもんじゃないのか?」伊集院が更に深くかかった。

『ドーンッ!!!!!!!!!』

6人の後ろで爆発音が鳴り響く。再び悪魔が笑い始めたのかと思われたその時、放送が流れる。

「やぁ、僕はジョーカー。

君達の誰かが裏切って外に逃げ出したみたいだね。残念だよ。」

6人の顔から一気に血の気がひいてしまった。

「でもこのままじゃつまらない。

もっと、遊ばなきゃね。

でも罰は受けてもらう。これより1時間ごとにC4爆弾を一個ずつ爆破させることにしよう。じゃあね。」

春日部が窓から体を乗り出して外を見やった。

「1階の昇降口が・・・・」春日部が絶望を浮かべながらそう語った。

「おい待て、放送室へ今すぐ行こう。ジョーカーはその近くに居るはずだ。」大橋が場の空気を切り裂くようにそういった。

皆はうなづいて、1階の放送室へ向かおうとした。

しかし、隼人だけは信用していないようだった。なぜなら、職員室へ行こうといったのは大橋であったからだ。

「待て、敵はそれほどバカじゃない。きっと放送室なんか使ってない。もっと別の場所から何かしらの方法で放送を流してると俺は思う。」隼人がはむかって言った。

「じゃあ、どうしろって言うんだよ。俺たちは今すぐにでも死んでしまうかもしれないんだぞ!?可能性のあるほうにかけるのが良策だろうが!」大橋が怒って言った。いや、パニックだったのかもしれない。

「ねぇ、1回落ち着こうよ。考えようよ。」男子なのに相沢よりもまして気の弱そうな内田がこの日初めて発言した。

しかし、内田の発言は不思議と皆を納得させた。何か、魔法のようなものが彼の口から放たれたのであろうか。

「そうね。仮にもまだ20時間以上の時間があるものね。それに、1時間一個といっても、おそらく私達は狙ってこないと思う。それじゃ、ゲーム終了だから。」相沢が言った。

相沢のこの発言は隼人の心に突き刺さった。「(なぜ、狙ってこないと断言できたんだ?手紙の内容を知っていたのか? だとすると相沢が・・・・。)」

ただ1人の暗雲を取り残して、5人は考え続けた。

しかし、出した結論はあまりに単純すぎるもので、暗雲を払うどころか、更にやみは深くなりゆくように思えてならなかった。

「じゃあ、リモコンを探すぞ。」大橋が言った。

「そうだな。」隼人もそれに同意した。ここで反対しては今度こそ隼人の立場が危うくなる。渋々、隼人は5人について行った。


校舎内はいつもよりもまして暗かった。まだ昼の2時くらいなのに、隼人は何故こんなにも暗いのだろうと不安になった。それが恐ろしくて、しかし未だに少しだけ愉しくて。

気付けば、学校というオーケストラの中で悲鳴のカルテットを奏でていたかのような轟音は鳴り止んで、今やフィナーレを迎え終わったかのごとくの静寂がたたずんでいた。


6人はまず2回のトイレをくまなく探していた。

「きたねー」大橋が嫌そうにして男子トイレを探し回る。

「おっ!」伊集院が言った。

「どうした、あったのか!?」隼人が突っかかる。

「俺の隠したはずのテストだぁ〜。俺4点だったんだよなぁ〜コレ^^;」

「何だよ〜、驚かすなよ〜バカ」大橋が言った。

「俺こんなとこに隠したっけな〜・・・・もっと別の場所に隠したような気がするんだけどなぁ・・・。」伊集院が不思議そうに自分のテストを見つめる。

隼人はただ独り、何か胸騒ぎを感じた。

「(4点? 4てん よん 4・・・・・・!!!)」

「離れろ!!!!!! 今すぐそこから離れるんだ!!!」

「え?」

『ピピピピピピ ピーッ ドッカーン!!!!!ゴゴゴゴゴッ!!!!』

「「伊集院!!!!!!!」」大橋と隼人が叫んだ。

内田は恐ろしいものを見る目でそれを見ていた。

「どしたの!」春日部がやってきた。

「い、伊集院が・・・・」隼人が答える。

「伊集院!」春日部がそういって、トイレの中へ入っていった。

「おい、あぶねーぞ!!」大橋が叫ぶ。

「そんなの関係ないでしょ!怖いなら来なくていいわ!」

隼人は怖かったが、おとなしく春日部についていった。

そこに広がっていた光景に、隼人は思わず目を閉じたかった。

だが、隼人は目を閉じずにそらさじもせず、伊集院の顔を見た。

「・・・っ・・・・。」伊集院が何か言っている。

隼人が伊集院の口元に耳を傾ける。

「は、はや・・・と・・。ごめ・・ん。ぼく、もう・・・。
もっ・・・と、たくさん、たくさんいい・・おも・いでして・・・・みん・・な・・・とい・・っしょに・・・・・・・・・・・・。。。。」

伊集院のまぶたがそっと閉じた。そこにある顔は確かに、伊集院の顔。それなのに死んでいく伊集院の顔は普段とは違って、何故か安心感に満ちていた。

まるで恐怖から逃れたかのように。

「伊集院っ、伊集院しっかりしろ!なぁ、おい!」

「伊集院・・・っ!っ・・うそ・でしょ・・こんなの・・・・。生きてよ。生きてよ!!!」

伊集院の体が冷たくなっていった。

「あァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」隼人が始めてまともに悲しんだ瞬間だった。


悲痛な叫びが廊下へと響く。

止められない。止まらない。

一度始まった劇場は、幕が下りるまで見続けなければならない。

たとえ今、更なる悪夢が彼らを襲おうとしても。。。。




校舎爆破まで、あと22時間12分・・・・。



四重奏「疑念」終

Mが殺害され、暗黒の空気が教室を駆け回っている今、誰一人として声を上げるものは居ない。

皆の顔には恐怖が浮かび上がっていて、そこには笑いや喜びといった本来あるべき表情は皆無だった。ただ1人を除いては。

M死亡の知らせはすぐに学校中に風のように伝わっていき、隼人の隣の空間から学校という聖地へ暗黒の空気は浸透していった。

そして、誰もが恐怖のそこに落とされたとき、放送が流れた。

「みなさーん。こんにちはー。。。まずは自己紹介からね♪

僕の名前はジョーカー。S君とM君の命はこれから始まるゲームのオードブルとしていただいたよ。

だから、これから僕と始めよう。

さてと、じゃあ本題だ。

君達の学校に99個のC4爆弾を仕掛けてもらったよ。そのC4爆弾は後24時間後に全て爆発する。

それと、校舎から誰かが出たり、外部に電話したりした時点でも爆発するよ。

でも、安心してこの校舎のどこかにC4爆弾の爆破を阻止するリモコン置いておいた。

ドッカーンしたくなかったらそのリモコンを見つけるんだね♪

それと、僕が言ってることを証明するために今から屋上で爆発を起こすから、よろしく♪

じゃあね♪」

学校中に一時の沈黙が流れた。

そして、まるでその沈黙という小動物を百獣の王を持って噛み潰すがごとく、一斉にパニックに陥った。。

泣き出すもの。ただ呆然とするもの。事実を嘘としてただ笑うもの。

「ドーンッ!!」

真上から、突然の一撃が加えられた。どうやら屋上で爆発が起きたらしい。

「・・・・・・・・・・・・・」

皆が、現実を受け止めた瞬間だった。

隼人はただ独り、まるで理想が現実になったように心の中で笑っていた。

「とにかくリモコンを探そう!」隼人が教室で叫んぶと、クラスメイトたちは驚くほどの団結力を見せ、隼人の発言に同意した。

そして、クラスメイトは隼人を除いて29人居た。

隼人たちは6人グループに別れて、学校という牢獄を捜索する計画をたて、今まさに実行に移そうとしている。

隼人のグループは

隼人 相沢 伊集院 内田 春日部 大橋 の6人である。

このうち、男子は隼人 伊集院 大橋 内田の4人だ。

6人で教室から出ようとしたその時、比較的頭の切れる大橋が言った。

「ちょっと待てよ、こんな事態なのに何で先生が来ないんだ?」

「そうだよね・・・・。私も不思議だった。何かあったのかな、まさか・・・。」気の弱い相沢が言った。

隼人は相沢の不安を振り払うように「じゃあ、職員室行ってみようぜ!」と言った。

隼人たちは今4階建ての校舎の4階に居る。そして、職員室は2階の一番西側にあった。

6人は階段を下りて、職員室にたどり着いて扉を開けると、そこには地獄とも思える光景が広がっていた
・・・・・・・。

先生たちは皆、そろって・・・・・・。

6人は硬直し、その5秒後に相沢が泣き出した。そして、相沢が地面を見るとそこには封筒が落ちていた。

「これ・・・」

相沢が隼人に渡す。隼人はそれを見て愕然とした。

『こんにちは。隼人君。僕はジョーカー。非現実を楽しみたい君に最高のプレゼントをあげるサンタさん。君だけに教えてあげる。僕はね、君の近くに居るよ。僕は6人のうちの誰かだよ。』

ジョーカーの言うことは信じられない。

しかし、人は疑いを持つ動物。隼人の心は大きく揺らぐ。

誰なのか、本当に6人のうちの誰かなのか。

真実はわからない、時計は刻々と歩み続ける。

爆破まであと23時間35分・・・・。


狂想曲「学校という牢獄」終

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