本
宇宙の始まりと終わりはなぜおなじなのか,ロジャー・ペンローズ
ホーキングとのブラックホールに対する特異点定理の証明という紹介の仕方をすると失礼に値するようにも感じる20世紀の天才的,数学者,数理物理学者.『皇帝の新しい心』では,量子力学に基づいた「意識」に関する問題を論じたことでも有名.正直なところ結構な御歳なので過去の焼き直し的な著作ではないかと思っていたが,全くもって杞憂というか,失礼極まりない先入観であった.最初の数章では熱力学の第二法則(いわゆるエントロピー増大の法則)についてボルツマン統計を数式を使わず説明しながら,宇宙論との関係について議論している.個人的にはその中で,第二法則との折り合いの説明が難しいと感じていた2つのトピックス,つまり,粘性せん断流で色素が散逸せず,もとに戻る過程↓,核磁気共鳴での基本的なシーケンスになる90度バルスを打った後にエコーがかえってくる現象についてペンローズの見解が明らかにされいる.この見解は結構驚く.しかしよく考えてみると,『皇帝の新しい心』では,確かニュートン力学,熱力学,量子力学,相対論の適用できる時間・空間スケールについて非常に詳細な論考を行っており,なぜこんなことを議論するんだろうと思っていたが,ペンローズはこれらの理論があやふやになってくる限界について憂慮していて,言われてみると確かにブラックホールや宇宙の始まりの瞬間にこれが本当に成り立ったのかというのは考察する必要性を感じさせる.この本の最初の方では,宇宙の最初の状態のエントロピーの低さと熱力学平衡状態の異様さについて生々しく論じている.
VIDEO
https://www.youtube.com/watch?v=X4zd4Qpsbs8
この本で述べられていることは宇宙論に関するペンローズの新しい洞察だ.最初,熱力学の第二法則を導入すると,ビックバン当初の宇宙のエントロピーについて考察を行う.宇宙背景放射からは熱力学的平衡状態が達成されているように見える,つまりエントロピーが増大しきっているようにみえるのは宇宙の始まりとして矛盾があるのではないかという問いが投げかけられる.ついで,ヌル円錐の概念が導入され,一般相対性理論で出てくるような計量構造(ではないらしい),共形構造が導入される.ここでの幾何学的相似性(このあたりが,ペンローズらしい真骨頂とも言うべき考察に感じる,)からスケール変化量が導入される.今度は,これを用いてブラックホールがどのように理解されるかの記述が続く.最終的に未来の果てとビックバンを同一視し,この一つのターム(イーオンと呼ぶ)をつなぎ合わせて(マンガ絵が挿入されているが,たぶん位相空間での概念的な図),共形サイクリック宇宙論を主張している.これは当然一つの仮説であるのだが,この宇宙の性質ついてさまざまな考察を述べている.本文中に挿入されている図は幾何学でも圧倒的な天才性を見せるペンローズらしい図版に満ちている.本文は多少,数式を抑えているが,アペンディックスの数式はもはや学術論文の領域.
共形サイクリック宇宙論の初出の論文は以下で,本書はこれを一般向けに解説した本.ペンローズの宇宙観が炸裂している.
http://accelconf.web.cern.ch/AccelConf/e06/PAPERS/THESPA01.PDF
R. Penrose, Before the big bang: an outrageous new perspective and its
implications for particle physics, in EPAC 2006, Proceedings, Edinburgh,
Scotland, edited by C.R. Prior (European Physical Society Accelerator
Group, EPS-AG) pp. 2759
お悩み天国,治勲の爆笑人生相談室,趙治勲
週刊碁連載の趙治勲の人生相談コーナー(?笑)をまとめた本.個人的なイメージとしては,若いころは負けたら勢いで死んでしまいかねない勝負師,それでいてエンターテイナーでサービス精神満載などがある.昔のNHKの解説で完全に女流の応援解説で,爆笑した覚えがある.また,最近の対局ではぼさぼさの髪を振り乱し,ハンカチを口にくわえてとてもテレビに出る格好ではない格好で激しい対局を繰り広げている.そんな,ヘアースタイルの謎からハンカチの謎まで解き明かされる,明らかに人生相談ではないが,勝負師の哲学が微妙に参考になる,趙治勲語録.具体的な囲碁の相談は1つしかありません(笑).小林光一先生は嫌いだと明言しています(笑).
人体探究の歴史,笹山雄一
人体の各器官についてその発見の歴史や最新の知見について記述している本であるが,社会,文化など多岐にわたるうんちく満載の弩級の本.どの本だったか忘れたが,うんちく満載という紹介がされており,気になっていたが,これほどまでのうんちくネタの仕込み具合とは思わなかった.また,それでいて嫌味でなく,次々にページをめくらせる筆致を兼ね備えている.本年度のベスト10,いや数本の指に入るぐらいに気に入った.腎臓の章では,EPOについての詳細な記述があり,ドーピング問題についても非常によくわかった.歴史的なことだけでなく,最新の『ネイチャー』に載るぐらいの話題についても言及していて,博覧強記に舌を巻く.
量子力学,リチャード・ファインマン
有名なファインマンの物理学シリーズの量子力学.カルテックの新入生に,物理に関する興味を失わせないということを目的として行われた講義ノートで,極力,数式を排除しながら物理のエッセンスを伝えていることで非常に有名なシリーズだが,量子力学は読んだことがなかったので,ファインマンがどのように量子力学を紹介しているか非常に興味があった.ある程度,天下り式に記述して,ブラ・ケット演算子を中心に非常にうまくまとめていて恐れ入った.
今週から急に忙しくなった気がする.
大明国へ,参りまする,岩井三四二
勘合貿易を開くために足利義満が明に送った遣明使を舞台している.主人公は土官と呼ばれる幕府の役人の責任者だが,ちょっとのんびりとしたサラリーマン風情.これに正使である僧侶団,同乗する商人が入り交じって,足利義満の陰謀もきな臭い異臭を発揮しつつ,次から次に問題が発生する.あまりドラマチックと言うより比較的に常識の範囲内で物語が展開して,勧善懲悪,スリル,サスペンスというよりサラリーマンの共感みたいなものが根底にある.本筋とは全く関係ないが,主人公の趣味は賭け碁で,三目半負けというのがあったが,この時代,コミは無かったのでは(笑).
一手千両―なにわ堂島米合戦,岩井三四二
世界最初の組織的な先物取引所といわれる大坂堂島米会所を舞台とした仕手戦物語.友人の不審死を調べるうちに堂島を牛耳る大店の悪事に気付き,乾坤一擲に仕手戦を仕掛ける若者の物語.やや前半はキャラ立ちが薄いようにも感じるが,仕手戦が始まってからは,特に先物相場が分かっていると胃が切れるような緊張感がある.一気読みさせる一方で,著者独特のややシニカル,あるいはストイックな展開があり,このあたりは読者により評価が分かれるかもしれない.
雪冤,大門剛明
2009年横溝正史ミステリ大賞受賞作.冤罪を取り扱った社会派ミステリー.「走れメロス」との対比で語られる複雑に絡まった過去と人物で中盤以降はどんでん返しの連続.感情移入しにくい,技巧的すぎで必然性が理解しにくい難点はあるが,あつかったテーマと巧妙さは補って余りある.
99%の誘拐,岡嶋二人
身代金誘拐をあつかったハイテク犯罪だが人間物語でもある.展開が非常に速くて読みやすくエンターテインメント小説としてすっきりと読み終えることができる.まだ携帯電話が出る前のモデム通信の頃の作品ながら,そのあたりを使ったことがある人間にとっては余り古さを感じさせないが,1990年前後の空気を知らないと時代錯誤的に感じるかもしれない.
パーフェクト・プラン,柳原慧
第2回「このミス」大賞受賞作のノンストップ誘拐コメディー.身代金ゼロ誘拐,幼児虐待,ヘッジファンド,ES細胞から代理母まで有りとあらゆるテーマを突っ込みつつ,ぎりぎりのキャラ立ちで最小限に文字数を削った痛快娯楽作品.この職人芸に脱帽.
月曜:朝ラン,出発直後に雨,400mぐらいで帰宅.
火曜:朝ラン,かなり久しぶりにいつもコース.草が刈られて走りやすくなっていた.
水曜:非常に久しぶりにローラー.
木曜:起きられず.
〜 〜 〜
BUSHIDO: The Soul of Japan, Nitobe Inazo
武士道が日本人の精神性のありように与えた影響を簡潔にまとめている.良く語られている武士道の影響はこの本がそもそもの濫觴になっていると思われる.西洋文明に伍してその有り様を明瞭に語ると共に,的確に引用される古今東西の古典に学識の広さに驚嘆を感じる.
マヨラナ 消えた天才物理学者を追う,ジョアオ・マゲイジョ
マヨラナの名前は素粒子の場の量子化でニュートリノがマヨナラ質量を持つという説が有力でこのあたりでちらっと名前を聞いたことがあるが,あまり詳細は知らなかった.量子力学をテーマにした一般読み物はたくさんあるが,このあたりまで突っ込んだ記述があるものはまれで,イタリアの物理学者がフェルミを中心にパニスペルナ研究所に集まり,マヨラナも「パニスペルナの青年達」として活躍したことは初めて知った.数学的な才能に恵まれた異常なまでの天才で簡単にいろいろな物理モデルを構築するも既に分かったことを発表する手間が惜しくて,発表しないまま他の研究者に先を越され,フェルミがカリカリするあたりが,物理の先陣争いをうまく描いていて面白い.また,ファイマンダイヤグラムを使った二重ベータ崩壊の説明も一般読者にわかりやすいレベルで説明されている.マヨラナは31歳の時に,大学に着任するも突如として失踪してしまう.その後のマヨラナの行方については,自殺説,マフィア説,謀略説,などなど当時の核開発を背景に様々な憶測が流れている.本書のもう一つのテーマはその後のマヨラナの行方についての諸説の検証である.
なお,この間読んだ,『量子の海、ディラックの深淵』グレアム・ファーメロもややテーマ的には関連がある.
流れが分かる英語プレゼンテーション,佐藤雅昭
著者は海外でも長期の研究経験のある京都大学医学部の方.理工系の国際会議での発表を中心に,大学院レベルで初めて発表する学生を対象とした注意点を網羅的にわかりやすくまとめている.英語と日本語の言語の違いによる論述の仕方の違いはこれに特化したような英文論文執筆指南書があるが,これを簡潔にスライドづくりに反映させてまとめている.また,プレゼン資料作りの指南書も類書があるが,この点の非常に簡潔にまとまっている.いろいろな盲点が過不足なく簡潔にまとまっているので,英語に限らず,日本語でも初めてのプレゼンの前には,目を通しておくべき書.
量子の逆説,細谷暁夫
量子テレポーテーションや最近,新聞で話題となった不確定性原理の修正などのトピックスがまとまられた日経サイエンスの別冊.興味なるトピックスを拾い読み.
ユダヤ古代史(1),フラウィウス ヨセフス
本管は旧約聖書の解説の部分.聖書で直に読むと読みにくい部分をやや補って丁寧に書いているような印象.