窯ぐれ日記

こともなき世を面白く・・・

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幽霊君は、友だち―5

 教室に入ると、もう、大下マリちゃんは来ていた。
「おはよう」はずかしそうに、にっこり笑った。いいな。やっぱりいい。サラサラの髪は肩まであり、色白で、目や鼻や口が、子ウサギみたいに小さくまとまっている。背は低いし、顔も幼いから、五年生、いや四年生って言ってもおかしくない。美奈子とは、おお違いだ。こんなマリちゃんも、ある日とつぜん背がずんずん伸びて……美奈子みたいに、わけの分からない泣き方を、するようになるんだろうか。そんなことを思いながらイスに座ろうとしたら、そこに、一枚のコピー用紙がはり付けてあった。へたくそなマジックの文字で、「神谷の席」って書いてある。背中でマリちゃんが、「あっ」と小さく叫んだ。「なんなのさ、これ?」だれに言うでもなくつぶやいた時、マリちゃんの手が後ろからにゅっと伸びてきて、へたくそな文字をはがし取った。マリちゃんにしては、ずいぶん乱暴なことをする。「あれっ」とふり返ってみると、今にも泣き出しそうなマリちゃんがいた。
「神谷の席って、なんなの?」
 聞いても返事が返ってこない。
「神谷って、人の名前?」
 ようやく、「うん」とうなずいてから、
「神谷くんね、夏休みに死んじゃった」と、言った。
「えっ、死んじゃったって、あの 死んじゃった?」
 なんてバカなことを聞いているんだろう、僕は。
「そう、死んじゃったって、あの 死んじゃった」
 マリちゃんまで、変になっている。
「矢野くん、大川の土手を歩いて学校に来るでしょう?」
「ああ」
「その途中にね、大名淵っていう、とっても川の深くなったところがあるの」
 たしか登校途中で、そんな名前を耳にした。
「そこで、おぼれて死んじゃった。とつぜんだったでしょう、なんだかウソみたいな気がした。この間まで元気にサッカーボール追いかけてたのに、給食のとき、良介くんと牛乳の早飲みしてたのに、授業中に、パラパラマンガ作ってみせてくれたのに……あたし、となりの席だったから、そんな神谷くんがいなくなったなんて、信じられなかった。だって、転校したり、病気で入院してるんじゃないもんね。さがしたって、どこにもいないんだもんね。もう会えないんだもんね。それって、とっても変。みんなも同じだと思う。神谷くんの席って、そういうことなの」
 マリちゃんの話を聞きながら、だんだんムシャクシャしてきた。
(そういうことって、どういうこと? そりゃぁ、神谷ってやつはかわいそうだけどさ、僕だって、うれしくってこの学校に転校したんじゃないよ。ガンちゃんや、美奈子や、みんなと別れたくなんかなかったし、何より鹿内オーシャンズ・ジュニアをやめたくなかった。それに、そいつが死んだのは、僕のせいでも何でもない)
 わけもなく泣きたくなることがあるように、わけもなく腹が立つことってある。とにかく、とつぜん沈没してしまうこのクラスのなぞも、だれが、「神谷の席」って書いたのかも、分かった気がした。前の方から、ハリネズミのそうぞうしい声がした。
「山ちゃん、なっ、なっ、お願い。算数の宿題見せて。神さま、仏さま、山ちゃんさま」
 頭の上で、手をこすり合わせている。クソバエみたいなやつだ。僕はいやな気持ちをけ飛ばしたくて、
「山田くん、サッカーに行こうよ」と、声をかけた。
「ノッコからもお願いして。たのむっち」
 チューのなさけない声が、返ってきた。マリちゃんは、どうしていいか分からないような顔をしながら、さっきのコピー用紙を、たたんだり開いたり、たたんだり開いたりしている。(つづく)
 

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