窯ぐれ日記

こともなき世を面白く・・・

十年目の返信

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十年目の返信―4

 
                         二の下    
 
 
靖子の家は、大木台に向けて少しのぼった南側の斜面にあった。先ほどまで遠くに見えていた「木々に囲まれた要塞――大木台」は間近となり、そこから滝のような緑のうねりが迫ってきた。
(あそこにあるのは、瓦礫の山じゃなく、本物の通信基地なんだ)
 そう思って眺め返すと、押し寄せるうねりは、いっそう重たくおおいかぶさってくるようだ。
本道から左にそれ、家へ続く小道に入ると、右手はなだらかな土手になっていた。夏草の繁る土手の上には、一本のの大木が、枝葉を広げている。暑さもそこだけは小休止するみたいで、吹く風も心なしか優しい。小さく段々が刻んである小道を、さらに上りつめると、家の前庭に飛び出した。道はここで途切れ、向こう側はただ深い藪が続いているばかりだから、この先、直接大木台へ向かう方法はないみたいだ。庭は、かなりな広さがあった。真夏の陽射しが、弾けるように踊っている。あちらこちらに、大きな網やざるが並べられていて、その上に、三センチにも満たない小魚がばらまかれ、干されていた。そこから香ばしい匂いが漂ってくる。匂いの先には、まるで旅行会社の観光ポスターから抜け出したみたいな田舎家があり、少し床高になっている縁の下に、ラッキョウを漬ける白い陶器の瓶が、二つ、三つ転がっているのが見えた。遠くで鶏の鳴く声もした。ここは、福島のじいちゃんの家に似ている。ふと、思った。そこは、母さんのお里。つまり、じいちゃんとは、母さんの父親であり、僕の祖父だ。僕ら兄弟が小さかったころ、夏に福島で過ごす日々は、我が家の年中行事になっていた。岩のようにごつごつしたじいちゃんと、夏雲のようにふわふわしたばあちゃんと、子猫のように姦しいいとこ達と。スイカを食べたり、小川で小魚をとったり、花火をしたり、庭にテントを張ったり、お化けごっこしたりして過ごした……(たいして、変わらないじゃないか)何だかホッとする気持ちに満たされて、靖子の庭をぐるりと見まわした。庭の南端は、緩やかな傾斜になって下っていたけれど、東側は切り立った崖になっている。その崖下に、スレートで屋根を葺いた倉庫のような建物が建ち並び、その間を、東へ延びる線路が、幾本も入り組んで敷かれているのが見えた。うっとうしいほど緑をまとった木々たちが、周りを額縁のように囲んでいる。あそこが、きっと操車場だ。たちまち、僕は現実に引き戻された。その向こうは、今と変わらない町並みが続いている。変わらなくは見えても、二度と戻らない町並。ここは、昭和十九年なんだ。深く息を吸い込みながら、そんな幻の風景を、もう一度眺め返した。とんでもないことに巻き込まれている気がしないでもなかったけれど、こうなった以上は、「何とかなるさ」と、自分を納得させるほかない。それに、正直言うと靖子のことも少し……いや、だいぶ心に掛かかっていたし、今しばらくはこのままでいようと、覚悟を決めた。
家の中に入ると、正面に細長い土間が続いていて、突き当たったところに、クワだの、鎌だの、竹かごだのが、雑然と置かれていた。母屋に染み付いた体臭のように、煙でいぶされた匂いがする。ここの家族は、農業を生業にしているに違いない。見知らぬ家を初めて訪問したときの、変に尻の辺りがむず痒い居心地の悪さにとらえられていると、入り口の脇にある小間から、一人の老女が出てきた。
「おや、やっちゃん、おかえり。その子は?」
しわくちゃな顔の中で、靖子に似た黒曜石の瞳が、僕を見つめている。
「このあいだ、お祭りで会ったの。りょうちゃんて、言うんだよ」
「そうかい、そうかい。仲良くしてやっておくれよ」
歯のない口元をゆがめて、彼女は、ヒャッ、ヒャッと笑った。失礼だと思ったけれど、その頃、僕が愛読していた『妖怪大百科』の「寒戸の婆」にそっくりなので、びっくりしてしまった。
「どれどれ、おまえ達にもろ味のにぎりでも、焼いてやろうかね。たんと食べておいき」
「わぁー、嬉しい。りょうちゃん、ばあちゃんのおにぎりは、最高だよ。香ばしいおこげみたいで、美味しいんだから……ねっ、ねっ、焼けるまで、あたしの宝物見せてあげる」
靖子は、僕の手をぐいぐい引っ張って、裏庭にある鶏小屋の前に連れて行った。小さく仕切られた小屋の一角に、かえって間のない数羽のヒヨコたちが、黄色いゴムマリのように、ちょこまかと動き回っていた。
「あたしが、かえしたんだよ」
壊れ物を抱くように、そっと一羽ずつ外に連れ出しながら、彼女はそう言った。
「大変だったんだから。箱に入れた卵を、親鳥の代わりに温めなくちゃいけないでしょう。
毎日、電灯を点けたり消したりしてね、温度を調節するの。夜もしなくちゃいけないから、勝敏兄さんと交代で、二時間おきに起きていたんだ」
ちょっと、得意顔。外に出されたヒヨコたちは、よく心得たもので、靖子を親鳥と思っているのか、彼女の周りから離れようとしない。
「あのさぁ……」
さっきから、靖子が「りょうちゃん」と気安く呼んでくれるたび、くすぐったいような嬉しさがこみ上げてくるのに、彼女のことをなかなか「やっちゃん」と呼べないでいた。
「ヒヨコ、抱かしてもらっていい」
「いいよ。でも、そっとだよ。抱いたり、触ったりするの、余りヒヨコには良くないんだって。父さんにはそう言われてるけど、あたしもだめ。見てるとつい、抱きたくなっちゃう」
目が、おどけて笑う。彼女に言われたとおり、両手で包み込むように、そっと抱き上げてみた。ああ、この軽さは何なのだろう? それは、生まれ出たばかりの命の目方のような気がした。それはまた、夜中に眠い目をこすりこすり卵たちと過ごした、靖子の魂の目方のような気もした。
「やっちゃん」
「えっ」
「ヒヨコって、ずいぶん軽いんだね」
「軽いでしょ。それに温かい」
僕は、急に照れくさくなって、あわててヒヨコの頭を軽くつついた。
「一羽ずつ、名前付けたんだ」
「ほんとかい? だって、見分けつかないだろう」
「あたしは、親だよ。みんな分かる。ちょっとずつ違うんだ」
一羽一羽を確かめる目差しになって、
「これは、妙子。これは、きよ。あっ、みんなあたしの組の人の名前だけどね。それに、一番おちびちゃんで、口ばしのちょっと曲がっているこの子は、靖子……ね」
その時、勝手口からばあちゃんの呼ぶ声がした。
「靖子や、おにぎりが焼けたよ。取りにおいで」
「ちょっと、待っててね」
身体をひるがえすと、小走りに駆けて行く。彼女の白いかかとが、蝶々のようにヒラヒラと舞っている。
「下駄を履いていたんだ」
その時初めて気が付いた。
 
ばあちゃんのもろ味にぎりは、とびっきりの味がした。噛めば噛むほど、美味しさの正体は、ひょいひょい変わり、それは何だか、ばあちゃんの謎めいたところと、どこかでつながっているようにも思えた。僕の好きな夜店の駄菓子にだって、これほどの味はない。夢中で二つ目を頬ばっていると、傍らにいた靖子が、クッ、クッと喉の奥で笑う。
「そんなに慌てなくても、大丈夫よ」
僕は、ちょっとムッとして、
「慌ててなんかいるもんか。こんなに美味いもの食べたの初めてだよ。やっちゃん、いいな。いつも、ばあちゃんに作ってもらえてさ。家の母さんなんて、忙しい、忙しいばかりで、僕が腹減ったって言うと、指でもしゃぶっていなさい……だもん」
彼女は、戸惑うみたいに顔をかしげた。
「いつもの事じゃないよ。今日は、りょうちゃんが来てくれたから特別。この辺は、とっても食べるものが不自由になっているの。家はお百姓もしているからまだいい方だけど、それでも、なるべくお米は、大切に取っておかなくちゃ」
自分のうかつさに、ヒヤリとした。ここは、すべてが不足する戦時なんだ。そしてぼくは、何でも物が溢れかえる昭和四十七年の日本からやって来た。そのことは、けして靖子に気付かれちゃいけない。そう強く思った。彼女は、もろ味のついていない米粒をえり分けると、ヒヨコたちに分け与えている。彼らは、親鳥から餌をもらうヒナのように、彼女の白い指を、飽かずにつつき続けた。(つづく)

十年目の返信―3

                         二の上
  
 
少女と再会できたのは、それから数日してからのことだ。いまでも、そのときのことを思い出すたび、不思議な胸の痛みを覚える。果たせなかった出来事が、心の中で発酵するように、どこかやりきれない思いに包まれてしまう。
 
あの日は、朝から最悪だった。母さんには「毎日ダラダラ過ごしている」って、小言を食らうし、すぐ上の兄とは、釣竿の使用権をめぐって、言い争いをするし。その上、どんより澱んだ夏の空気は、ピクリとも動かなかった。そんなむしゃくしゃした気分を蹴飛ばしたくて、僕は愛車にまたがると、がむしゃらに走り出した。もちろん、行き先なんて、考えもしていなかった。それなのに知らず知らずのうち、大木台へと向かっていたのは、祭り会場で出会った少女の事が、頭のどこかに引っ掛かっていたからかもしれない。大木台は、ここらでは一番目に付く高台だった。辺りには、こんもり繁った森や、饅頭型の小山はあったけれど、大木台のバケツを伏せたような姿は、他と比べ物にならないほど、台地が広々としている事を予感させた。というのも、戦時中は、軍の通信基地があったということで、戦後は、破壊された建物の後処理がままならないということで、長い間人の出入りは禁止され、誰も大木台の本当の広さを、確かめようがなかったからだ。その鉄条網が張られた柵に沿って、一本の道が伸びている。この道は、大木台を東の外れに置き、近くの村々を取り囲むようにして、ひと巡りしている。ここへは、何度か来たことがあった。一周十数キロのコースは、時間つぶしにはもってこいだったし、そのうえ、大木台の周辺だけは、いわく付な場所のせいもあってか、いつも人通りがまばらだった。おかげで、わずかな区間だったけれど、自由気ままに愛車を走らせることもできた。
一時間ばかりが過ぎた頃、それまで続いていたほの暗い雑木林が途切れ、突然光が散乱するような開けた場所に飛び出した。左手は見渡す限りの水田地帯で、道が大きく右に曲がりこむ角に、申し訳程度の森を従えた神社が見えた。それまで、もやもやした気分に引きずられて、夢中で自転車をこいできた僕は、急に激しい喉の渇きを覚えた。
(あの神社には、たしか水場があったはずだ)
冷たい水にありつける思いが、たちまち僕を愉快にした。
「水、水、水が飲めるぞ」
変な拍子を取りながら、自転車をこぐ。石でできた鳥居の脇に自転車を転がすと、一目散に階段を駆け上った。ひんやりと、ちょっぴりかび臭い空気が、神社を守るように包んでいて、お目当ての水場は、社の霊気を吐き出すみたいに絶えることのない清水を、こんこんと湧き出させていた。僕は、礼儀作法などそっちのけで、柄杓をわしづかみ、数杯の水をたて続けにのんだ。
(ああ、なんてうまいんだろう)
乾ききった細胞の一つ一つに、水が染み込んでゆくのが分かった。母さんの小言や、兄との諍いが、ずいぶん遠い出来事のように思え、また、今このとき、名もない神社の境内に独りぽつねんといる自分が、不思議にも感じられた。
ようやくひと心地ついた僕は、辺りを見回してみた。
すると、本殿の階段に腰掛けて、じっとこちらをうかがっている影がある。その唐突な登場は、場所が場所だけに、僕の心を身動きが取れないほど、縮み上がらせた。
(妖怪が出た!)突然、空間の綻びから顔をのぞかせた異形なもの。ゾ、ゾッと肌が粟立ち、とんでもない相手と出会ってしまったという後悔が、津波のように押し寄せてきた。予期せぬものに遭遇したときは、ああなってしまうのかもしれない。判断というものを、どこかに置き忘れてきたみたいに、そこにぼんやりとつっ立っているほか、なす術がなかった。
あれは、「射すくめられる」って状況に違いない。
最初に動いたのは、影のほうだった。影は、二、三歩僕の方へ近づく。せっぱ詰って、今にも折れそうになっている僕に比べて、なんともまのびした声が響いた。
「お祭りのとき会ったね」
聞き覚えのある声だった。冷凍がほどけてゆくように、心臓は再び暖かい血を供給し始め、ようやく暗さに慣れてきた目は、真ん丸く見開いた黒曜石の輝きをとらえる事ができた。
「ああ、あの時の……」
鼓動が、耳の奥でズッキン、ズッキンと脈打った。
「急にいなくなっちゃったから、心配していたんだぜ」
「ごめんね。もう帰らなくちゃならない時間だったの。それに、お祭りも終わりだったでしょう」
彼女の様子を確かめたくって、木漏れ日の下に入った。おかっぱ頭と黒目がちな瞳はそのままだったけれど、今日の彼女は、白いブラウスに、もんぺのようなものを履いていた。確かにそれは、教科書で見た「もんぺ」にそっくりなズボンだった。
「君の家は、この近くなのかい?」
「ええ、この神社から大木台に上がった所。一緒に来る?」
「行ってもいいけどさ、僕、自転車なんだ」
「自転車は、ここに置いてゆけばいいよ。鍵さえかけておけば、誰も持っていかないよ」
まん丸な瞳が細くなって、三日月ほどの笑みがこぼれた。
少女が僕の手をつかんだとき、その指先の冷たさに、少したじろいでしまった。彼女は、僕を神社の裏手へ引っ張ってくると、木の間の影に隠れるように開けられた小さなずい道のありかを教えてくれた。
「ここをくぐるのが、あたしの家の近道なの」
「へぇ、こんなとこにトンネルがあったんだ。知らなかったな」
それは、高さが僕らの身の丈ぐらいしかなくて、長さも二十メートルほどだったろう。掘りっぱなしの壁は、いたるところごつごつした岩が飛び出していたし、苔むした天井からは、ところどころで湧き水が滴り落ちていた。
「なんだか、冒険してるみたいだね。僕が、トム・ソーヤで、君は、ベッキー?」
少女に再会できた嬉しさと、今こうして手をつなぎあっている信じられない成り行きに、すっかり舞い上がってしまって、僕は軽口をたたいた。そのとき隣りを行く少女の姿が、グニャリと歪んだように思えた。あたかも、密度の違う空気の層を物がくぐり抜けたみたいに、彼女の輪郭が確かな線を失い、空気のひだに沿って揺らいでいる――そんな見え方をした。ただそれは、ほんの一瞬の出来事だったので、目が錯覚でも起こしたのだろうと、気にもかけずにやり過ごしてしまった。
一分間にも満たない短い冒険はあっけなく終いになり、ハイトーンな光溢れる外界へ飛び出した。そこは、同じように続く、水田地帯だった。膝頭ほどにも伸びた稲穂は、吹く風にサワサワと揺れ、その風に乗って、ちょっと日向臭い田んぼの匂いが漂ってくる。白く乾ききった道は、高くなってきた陽射しの下で、すっかり影を失っている。「チロチロ」と、溝を流れ下る水音が聞こえる。それは、いつもと変わらない風景、いつもと変わらない時間の営み……
いや違う。急に、何かがシグナルを送ってきた。見慣れた風景には違いないけれど、さっきまでとは少し違う。どこが? と聞かれれば、答えようもないが、やっぱり違う。たとえば、着慣れた服のわずかなささくれのように、くつろいでいる神経を、微かにさか撫でる。そんな落ち着かない気分が、僕をイライラさせた。それは大きな変色ではなく、風景にほんの少し垂らした染みみたいなものだった。道は、ゆるゆるとした上り坂になり、次第に辺りの様子が、開けてきた。その先に見えるひときわ盛り上がった木々の塊は、あの方角からして、大木台かもしれない。それは、緑の鎧でおおわれた城壁のようだった。僕のイライラは、ますますつのった。(何かが、変だ)隣りを歩いている少女に、この謎を解いてもらう事も出来た。でも、先ほどから急に黙りこくっている彼女に、なんとなく聞くことがはばかられた。
 
用水路の上に掛けられた木橋を渡って本道に入ったとき、突然すべてがわかった。
この景色には、コンクリートが少ないのだ。気付いてみれば、ずい道をくぐる前とずいぶん違って見える。道路の、橋の、そして用水路の、護岸の、そんな普通に景観を形作るコンクリートという素材が、ほとんど見当たらない。それにもう一つ。集落が近いのか、ちらほら現われ始めた民家の様子がおかしい。窓という窓に、バッテン印の紙が貼りつけてある。
そこまで思いを巡らせたとき、僕は悲鳴に近い叫び声を上げそうになった。必死に冷静さを装いながら、彼女に聞いてみた。
「今は、昭和の何年だっけ?」
彼女は、ちょっとけげんな顔付きをしながら答えた。
「昭和十九年だよ。何でそんなこと聞くの?」
胸が、バクバクと騒いだ。
「いや、ちょっと確かめたくてさ。それで、君は、何年生なの?」
「あたし? あたしは、国民学校の六年生よ。すぐ上の勝敏兄さんは、高等科だし、一番上の正一兄さんは、師範学校の学生。そうそう、名前、まだ言ってなかったね。靖子っていうの」
少女は少しはにかんで、うつむいた。
「そうか。二つ違いだ。僕の方が上だ。名前は、亮っていうんだ」
そう返すのが精一杯だった。
彼女と出会ってから、どこか腑に落ちないずれみたいなものを感じていた。今その正体がはっきりした。僕は、間違いなく三十年ほど前の日本、戦争真っ只中の日本へ、タイムスリップしてしまった。どうしてだか分からない。ただ、そんな事態に、すっぽりはまっている僕がいる。あのずい道が、「今」と「過去」とを結ぶトンネルになっているに違いない。「気のせい」と、見過ごしてしまった空気の歪みが、時代の溝をまたぐ瞬間だった。厄介なことに、それに気付いているのは、僕ばかりだ。この少女は、何も知っちゃいない。もちろん、僕と最初に出会った場所が、三十年後の「今」だったなんてことは、考えの端にも浮かばないみたいだ。だとすると、あの夜、彼女の目に映ったのは、いったいどこの祭り風景だったのだろう……混乱する頭の中で、必死に答えを探した。(つづく)
 

十年目の返信―2

                     『十年目の返信』
 
 
                       一
 
 
昭和四十七年、僕が中学二年生のとき、家はY市郊外へ越すことになった。
長い間、大小さまざまな町工場が、ごみごみと建ち並ぶ下町で暮らしてきた両親は、この環境の変化になじめるかどうか、かなり心配したみたいだ。たしかに、「プツプツ」と、泡の呟きを吐き出すドブ川や、迷路みたく入り組んだ路地に切り取られるちっぽけな世界から、突然、とりとめのない野や山の風景に投げ出されてしまっては、心のタガも外れやしないかと、不安になったのだろう。とは言っても、子供たち三人の成長と、家の手狭な間取りに危機感をつのらせた母は、ぐずぐずしている父の尻を叩いて、Y市の外れ、それも丘陵地帯の始まるとば口に、五人家族がどうにか住める土地を手に入れた。ところが、父は根っからがせっかちな性分だったので、重い腰を上げたとたん、突っ走り始めた。けっきょく、新しい家が建つ前に、今までの家を売り飛ばしたものだから、僕ら家族は、ひと夏の短い間だったけれど、住む所がなくなるという事態にさらされた。仕方ないので、引っ越す先の二駅ほど手前に、部屋を借りての仮住まい。母は、余計な出費をいつまでもぐずぐずとこぼしていたけれど、僕ら兄弟には、何だかワクワクするような夏の始まりに思えた。
なにしろ、そのアパートは、大川という一級河川のたもとにあったし、周りには、青々と気持ちのいい水田地帯が広がっていた。辺りは、子供たちに申し分ないほど、スリルと冒険に溢れていた。その上、こちらの学校にはほんの腰かけ程度、新しい学校は二学期からということになっていたから、信じられるかい? 僕は、宿題というものがまったくない夏休みを体験することになった。それは、駅前のパーラ・ミレーユで小倉のホットケーキと、チョコレートパフェと、プリンアラモードを、一緒に食べていいって言われたくらいの幸せだぜ。そのときは、そう思った。でも、そんな満ち足りた気分の日は、そう長く続かなかった。何もしなくていいということは、ウルトラC級の拷問かもしれない。耐え難い退屈さが、じわじわ押し寄せてくると、一日という時間をどう食べ尽くしていいのか、まったく途方にくれてしまった。大川に魚釣りに行ったり、近くの公園へボール 蹴  りに出かけたりしたけれど、友達が、一人もいないんだもの、すぐに飽きてしまった。
 
あれは、夏休みも二週間ばかりが過ぎた頃だったろう。そんなもてあまし気味の毎日を解消する独り遊びを見つけた。八月に入ると、近くでぼちぼち始まる夏祭りを、ウオッチングして歩くこと。それは何だか小さな旅行者になったみたいで、知らない町の、知らない境内で、知らない人たちに囲まれて聞く祭ばやしは、子ども心にも、「往く夏」を告げるキラキラして、ちょっぴり物悲しい風情に溢れていた。それまで無風状態だった心は、そうした対岸からの風に、わけもなくなびいた。
その日も、隣り町で盆踊りがあるという情報を聞きつけた僕は、愛車(二人の兄から順ぐりに下がってきたお古の自転車だけど)にまたがると、さっそく出かけることにした。隣り町は、この辺りの他の町並みとは少し違う雰囲気があった。いうならば、「時間の着色」という自然な筆が加えられていない、どこか白々しさが残る映画のセットみたいに見えなくもない。なぜなら、ここは、戦後新しく建てられた家ばかりで、出来上がっていた。戦時中、町の一角――大木台と呼ばれている高台に軍の通信基地があったものだから、この界隈では唯一、爆撃を受け、破壊されつくしたんだ。戦火で命を奪われた人、家を追われた人たちは、再びここへ帰ることはなかった。新しい家々は建てられ、そして、新しい家族が町に溢れた。それでも夏祭りは、途切れることなく続いた。焼失した神社の境内に紅白の幕が張られて、かつての参道に、露店が立ち並ぶ。僕は、甘酢に漬けた杏の実を頬ばりながら、祭りが始まる前の、閑散としている店々をのぞいて歩いた。これがまた、醍醐味。時々、売り手の香具師が、景気付けに飴玉をくれたりする。まだ太陽が十分落ちきっていなものだから、露店も「夜店」に昇格できずに、やたら開けっぴろげで、なれなれしい。
やがて、夜の帳がすっかり下りる頃になると、祭りの会場は、浮き立つようなにぎわいになった。踊りの輪は、二重、三重と外へ広がり、その中で、色とりどりの浴衣の花たちは、水中をたゆたうように揺らめいた。そんな流れる様をぼんやり眺めていると、輪の中に、気になる姿を見つけた。ちょうど踊りがふたまわり目に入り、しっかりその姿を見届けることが出来た。背丈は僕と同じぐらいだけれど、顔の幼さからみて、一、二才、年下かも知れない。当時では珍しいおかっぱ頭で、黒目のまさった瞳をした少女だった。その黒曜石のような輝きは、遠目にも良く分かった。それに、あの浴衣の柄はなんなのだろう。その頃の女の子の浴衣といえば、ぺらぺらな合成繊維の白生地に、絞り風の花柄をあしらったものが定番だったから、淡いブルーの生地に黄色い花小紋が染め抜かれた姿は、ことさら浮き立って豪華に見えた。僕は、気取られないように、そんな姿を目で追った。少女の柔軟な手足が、祭りの空気を優しく切りさいて舞う。微かに、アセチレン灯の燃える甘ったるい匂いがする。群集のざわめきが、潮騒のように、遠くて近い。そのリズムに身を任せていると、頭の中が綿アメのようにぼんやり膨らんでくる。いつしか、うつらうつら寝込んでしまったみたいだ。
それは、崖の淵に引っ掛かっているような浅い眠りだった。おまけに、夢まで見た。
……明け方とも、夕方ともつかない薄い明るさの中で、僕は独りぼっちだった。時おり、(取り残された)という心細さが、染み出してきたりもするが、すぐに別な気分へと、流されてしまう。取り止めがない。どこから来たのか、分からない。何でここにいるのかも、分からない。足元には、ひたひたと小さな波が寄せ、くるぶしの辺りまで水に浸かっていることが、肌をくすぐる感触で分かる。ここは静かなはずなのに、どこかがざわついていて、それは、何だか祭りの遠いにぎわいに似ていると思った。回りの風景は、ただ何もなく、何もないことの証のように、限りなく平らで、広々としていた。薄墨色の水面と、茜さす空との分かれ目に、白い壁とおぼしき衝立状のものが、延々と連なっているのが見えた。それは、はるか彼方なはずなのに、まるで双眼鏡でのぞいたみたいに、くっきりとそそり立っている。その壁の中ほどに、卵形をした扉が口を開けていた。扉の後ろは、何度も何度も、黒を塗り重ねたように、これ以上もなく光を失った闇色でおおわれていた。その前に、おかっぱ頭の少女が、佇んでいた。そこだけが、ぽっかりと切り取られて明るい。彼女は、しなやかな腕を上下させて、「おいで、おいで」と、手招きする。一緒に浴衣の袂が揺れ、その揺れに合わせて、黄色い小花が、はらはらと散った。
「あの花たちが水面に落ちる前に、受け止めなくちゃ」
 急に、やむにやまれない思いが、胸を突いて溢れた。僕は、がむしゃらに走り出そうとした。それなのに、手足が金縛りにあったみたいで動かない。いや、手足は動いているのに、身体がちっとも前へと進まない。足にからまる、この水のせいだ。水よ、なくなれ。水よ、消えてなくなれ……
 
はっとして気付くと、あの少女が、傍らに佇んでいた。
「ねぇ、何で踊らないの?」
黒曜石の瞳が、見つめている。
「えっ? 僕さ、ここへ越してきたばかりなんだ。友達もいないし、踊るの何となく恥ずかしい」
「そう。 踊ればいいのに。楽しいよ。あたしも、久しぶりなんだけど……」
そうつぶやくと、僕の並びに腰を下ろした。彼女は、ほうずきの実を手のひらでもてあそびながら、遠い目つきをした。おかっぱの髪からは、夏の陽射しに焦がされた草の香ばしい匂いがする。僕は、どぎまぎしてしまって、返す言葉を失っていた。
「どこに住んでいるの?」
「隣り町。ほら、大川ってあるだろ。あの川のたもと」
「ふーん。大堤のある辺りかな?」
「そう。その堤のそば。今は、仮の住まいなんだ。でも、あと少ししたら、新しい家が出来るんだぜ」
「すごい!」
「佐伯線に景山城址ってとこあるでしょ。そこ。このあいだ行ったら、屋根まで出来てた。山の途中にあるからさ、景色は抜群なんだ。遠くに、川も見えるし、田んぼもある。その先にさ、でっかいアパートが、たくさん建ってるんだ。そこは、東洋一だって、父さんが言ってた」
僕は、ちょっと得意げ。
「いいな。そんなとこに、住みたかったな」
少女の方は、ちょっぴり哀しい目をした。
「いつまで、ここにいるの?」
「この夏が終わるまで。二学期からは、向こうだって。それまで、夏休みの宿題はないし、大川で、釣りばかりしてるよ」
「最高の夏休みだね。家の兄さんたちも、大川へ魚つかまえに行くよ」
ひょっとしたら、この少女と、また会えるかもしれない。日焼けした兄たちの後ろに、おかっぱ頭へちょこんと麦藁帽子をのせたあどけない顔が揺れている。
「すごいんだよ、兄さんたち。モリでね、ナマズや鯉をいっぱい突いて来る」
「えっ、モリで突くって、潜るの? 大川って、泳いではいけないんじゃなかったっけ? 学校の先生に、そう言われてるよ」
「うそぉ。みんな泳いでる。男の子たちは、飛込みしたり、モリで魚突いたり……ね。
あたしも行くよ。あまり泳げないけど」
何となく釈然としない気がした。だって、釣りをする僕のまわりで、飛んだり、跳ねたりしている 河童 どもの姿など、一度もお目にかかったことがなかった。
「一番魚が獲れるとこ、あなただけに、教えてあげる。内緒だよ」
少女は、いたずらっぽく笑った。
「兄さんが言うにはね、大名淵ってあるでしょう……」僕は、うなずく。
「あそこの一番深いところに、小さな洞窟が開いているの。そこには、ナマズや鯉がいっぱいいてね、その奥に、淵の主がひそんでるんだって。一度だけ、上の兄さんがその主を見たって言ってた。一メートルもある大ナマズだよ」
僕は、大名淵の底に潜っている自分を、こっそり想像してみた。水深が五メートルもある淵底は、やっぱりシンと静まって、薄暗かった。遠くの水面には、明るい外界が反射していて、その真ん中に、彼女のおかっぱ頭がのぞいていた。
(待っていろよ! 僕が、兄さんたちよりも早く、大ナマズをしとめてやる)
「ありがとう」
そのとき、少女は小さな声で確かにそう言った。僕は、心を見透かされたんじゃないかと、ちょっとあわててしまった。祭りは盛りを越えたみたいで、辺りにはまのびした空気が漂い始めていた。僕は、急に心配になった。
「ねぇ、君の家はどこなの?」
「家? 家は、操車場の近く」
「えっ? この辺に操車場なんてあったっけ?」
「三橋通りってあるでしょ……」
「うん」
「あの通りの突き当たったところ。周りが森に囲まれてるから、ちょっと見つけづらいかなぁ」
つい最近越してきたばかりだから、それほどこの辺りの地理に、詳しいわけじゃなかったけれど、操車場があるなんて、聞いたこともなかった。
「それにさ、大木台と入り口が同じだから、なかなか近づけないかもしれないしね」
そのとき、ひと吹きの風が身体を包んで流れた。二、三度身震いして我に返ると、少女の姿はもうなかった。腰掛けていた縁石の脇に、ぽつんと一つ、ほうずきの実が転がっていた。(つづく)

              
             

十年目の返信―1

     「在る」っていうのは、
     二つの姿をしている。
     僕の外側にある「在るもの」と、
     それを、心のフィルムに焼き付けた「在るもの」
 
     それは、同じ「在るもの」に違いないけど、
     外側は、いつも気まぐれで、落ち着きがない。
     場所や、時間が変われば、
     すぐに姿をかくしてしまう。
 
     だけどね、心の中に焼き付いた「在るもの」は、
     ずっと、ずっと居座りつづける。
     古くなった印画紙みたいに、
     ちょっぴりセピア色になったとしても
     たとえ、僕という「在るもの」が、
     この世から消え失せたとしても
 
     だから、
     見えなかったり、
     聴こえなかったり、
     嗅げなかったり、
     触れなかったりするものの方が、
     百倍も、千倍も確かなんだ。
 
     ただし、外側の「在るもの」に出会えなかったら
     きっと心の中の確かさは、影ばかりになってしまう。
 
                      
 
 
 
 
 
 裏口から外へ出てみると、頭の上に真っ青な空が広がっていた。そこに、ソフトクリームみたいな雲が、いくつか浮かんでいる。今日は、絶好の釣り日和 だ。きのう、塾の帰りにモリちゃんから聞いた、大物が釣れるという場所を、もう一度、頭の中で確かめてみた。
……ふっと、 の匂いが鼻をくすぐり、ザワザワと流れ下る川音がする。真夏の陽射しに焼かれた川原の石が、ゴムゾウリの足裏をじんわりと がす。大名淵 の上に けられた橋から、上流に歩いて、五十歩ばかりのところ。そこが、今日のポイントだった。 が深みへ流れ込む辺り。ちょうどいい木陰もあって、いかにも魚が、ウヨウヨいそうな気がする。「おまけ」という訳でもないけれど、両手でつかみきれないほど大きな鯉が、釣り上げられる場面を想像しながら、ユリウス二世号に、釣り道具一式をくくり付けた。
(さぁ、出かけよう)
こんな朝早くだというのに、ハンドルやサドルの芯から、微かな熱気が伝わってくる。暑い一日になりそうだ。それでも、朝一番のもぎたてオレンジのような風に をなでられれば、気分は湯上りみたいにそう快だった。こんな一日の始まりなら、きっといいことがある。頭の中に、また、つかみきれないほど大きな鯉のピチピチ跳ねる姿が、浮かび上がった。
 
大木台 団地をぐるりと巡る道路に入り、周辺は碁盤 の目のように区切られた住宅街になった。まるで、蜂の巣に迷い込んだみたいだ。これほど細かい路地に切り分けられていれば、どこから自動車が飛び出してきてもおかしくない。ヒヤヒヤしながら、自転車をこいだ。その道が大きく右に曲がりこむ角に、そこだけ取り残されたような小さい林がある。その緑に守られて、これまた小さくてみすぼらしい神社が、建てられていた。いつ頃、何のために造られたのか、まったく分からない。神社といえば、お祭りや、初詣 がつきものだけれど、この境内 から、祭囃子 や、お参りの人が現われるのを、今まで見たこともない。うち捨てられたように、そこに在るだけだ……そんな失敬なことを言っておきながら、釣りに行くとき、ボクは、必ずここへ立ち寄る。なんてったって、鳥居 の奥にある竜神口 から溢れ出ている湧き水は、天下一品だった。アルプスの天然水だって、これに太刀打 できないんじゃないかな。そう思う。空っぽの水筒をここで満タンにすると、あとは、ガソリンをたらふく食らったポルシェみたいに、大川まで一気に突っ走ればいい。もちろん、ユリウス二世号で。
 
今日も、鳥居 に愛車を転がすと、二段飛ばしで石段を け上り、竜神口 へ直行した。湧き出す冷たい水のせいもあるのか、ここは、いつでも少し湿っぽく、周りより、気温が一、二度低く感じられる。辺りに漂う空気の粒だって、余分なものがそぎ落とされたみたいで、新鮮そのものの味がする。いくらみすぼらしく見えても、神社は、神社。ここも、何がしかの神さまが宿る神聖な場所なのだろう。ちょっと行儀が悪いと思ったけれど、(なにせ、神聖な場所だ)湧き出し口に口をつけて、たらふく水を飲んだ。手の込んだドミノ倒しが伝える複雑な信号のように、水が身体の隅々まで、波紋 を広げてゆくのが分かった。こういうときの水ってやつは、口から食道を通り、ただひたすら胃や腸を け下る一本道……なんて、優等生っぽくない。身体中にはり巡らされている迷路を、めちゃくちゃに突っ走っている。そんな気がする。それは、サッカーでどんぴしゃりとゴールを決めたり、「モン・ハン」ゲームでモンスターを倒したとたん、周りの景色がパッと けたり、もちろん、両手でつかみきれないほど大きな鯉を釣り上げたり……とまあ、そういった色々な予期せぬ出来事 と、どこか似通 っている。
そんなことをぼんやり思いながら、リュックから水筒を取り出したとき、何やら視線の端に みつくものがあった。それは、竜神口 のすぐ にある朽ちかけた小さな の土の中から、わずかに顔を かせていた。木漏 れ日が風に踊るたび、鈍い反射光を送ってよこす。さっそく、掘り出してみる。銀色のビニール袋でしっかり梱包 された、コピー用紙ほどのものが出てきた。かなり分厚 い。昨夜の土砂 りの雨で、盛った土が流され、姿をみせたのだろう。何でこんなものが……、何でこんなところに……。?(ハテナ)が、うずを巻いた。ひょっとしたら、札束? いや、まさかね。でもなくはないか。バラバラ死体? おいおい、サスペンスドラマの見すぎ。それに、こんな袋に入っちゃう死体なんて……耳、鼻、指ってこともある。きのう、『必殺仕置き人』など、見なけりゃよかった。中村主水 役の (あずま )京太郎 が、キラリ一刀。悪代官の手首をちょん切っていた。恐る恐る ってみる。指先に伝わる感触では、硬くてひらたい。耳や、鼻などという「人体反応」はどこにもない。大丈夫だ。だからといって、札束というわけでもなさそうだ。もっと、何かしら身近なもの……袋を開けてみると、原稿用紙の束が出てきた。(やっぱりな。ちょっとがっかり)
表には、『十年目の返信』と書かれてあった。ビニール袋できっちり密閉されていたおかげか、やや右上がりの角ばった文字は、つい今しがた書いたばかりに、ま新しい。ただ、ところどころに黄色く古びたメモ帳ほどの紙切れが挟まれていて、そこだけは、子供じみた鉛筆書きでつづられていた。その文字は、いくぶん丸みがあり、優しい感じがした。それに、右上がりという癖もない。これは、ひょっとすると別々の二人が書いたものかも知れない。とりあえず、一ページ目をめくる。出だしは、こうだった。
昭和四十七年、僕が中学二年生のとき、家は、Y市郊外へ越すことになった……」
昭和四十七年? 昭和の年数に二十五を足せば西暦になるから、一九七二年ってことか。今から三十九年も前になる。ちょうど、父さんとボクの歳ぐらい離れている。うっかり玉手箱を開けてしまった浦島太郎のような気分がした。 祠 (の土台石に腰掛けると、ボクは、水筒に湧き水を入れることも忘れて、誰が書いたのか、誰に書いたのかも分からない、この分厚い手記を読み始めた。遠い国からの伝言のように、蝉時雨 が辺りに降り注いでいる。(つづく)
 
 
 

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