天声人語 朝日新聞 2007年10月03日(水曜日)付 ざわわ ざわわ……と繰り返す「さとうきび畑」は、好きな曲だ。沖縄の悲しみを、情感を込めて歌う。だが以前から、少し気になっていたところがある。〈むかし 海の向こうから いくさがやってきた〉のくだりである。 戦争は、海に生まれた台風ではない。「鉄の暴風」と言われる沖縄戦の悲劇は、自然の営みではなく、人間の愚かな営みの果てに起きた。「いくさがやってきた」が呼び起こすイメージは、美しすぎはしないか。やって来たのは、武器を携えた「日米の軍隊」だったのだから。 日本軍は住民を避難させず、戦いにも駆り出した。軍民混在の戦場は、「ありったけの地獄を集めた」(米軍報告書)と形容された惨状を生む。集団死(自決)も各地で起きた。軍の強制があったことは沖縄では常識である。 その記述が教科書から消されることに、沖縄は怒った。抗議の県民大会は11万人でうねった。「分厚い教科書の中のたった一文、たった一言かもしれません。しかし、その中には失われた多くの尊い命があります」。高校生、照屋奈津美さんの訴えが胸を突く。 大学に進んで、日本史の教師になりたいという。醜くても真実を教科書にとどめ、沖縄の痛みを共有してほしい。そんな願いを込めた、本土への呼びかけでもあっただろう。 ざわわ……は、詞と旋律が深い悲しみをたたえ、それゆえに人を癒やす不思議な歌だ。その癒やしの花が、「ありったけの地獄」に根ざしていることは、知っておきたい。島の悲しみが、容易には消えないことも。
|
過去の投稿日別表示
[ リスト | 詳細 ]
2007年10月04日
全1ページ
[1]
全1ページ
[1]




