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「ケッヘル−上−」中山可穂(2006)☆☆☆☆★
※[913]、国内、現代、モーツァルト、旅、ミステリー、父子、指揮者、ピアニスト

ドーバー海峡に面した港町のカフェテラスので主人公木村伽椰は、一心不乱に海に向い指揮棒を振るう男の姿に目を奪われた。
翌朝、ホテルのレストランで伽椰は、あのカフェテラスで見かけた男と再会する。同じ一人旅の身、朝食のバイキングをともに食し、交わした言葉から、彼がモーツァルトマニアであることを知った。そして長い旅の終わりに、いよいよ日本へ帰国しようと思い立った伽椰は、その男とまたもや再会し、そして帰国した先での住処と、仕事先を紹介してもらうことになった・・。

中山可穂の最新作、そして長編である「ケッヘル」はこのようして物語が始まった。今回はこの作品と出会えたのは尊敬してやまない、同じ本読み人仲間のでこぽんさんの紹介を見て。そういえば、中山可穂は久しぶりであった。もともと、本を通じたネットの知人に紹介されて読むようになった作家の一人。出会いはかれこれ7年くらい前だろうか。正直、いわゆる女性の同性愛の世界を垣間見たときは、衝撃というか、こういう本を読んでいていいのだろうかと、今更オヤジの癖に少年のようにドキドキしたことを思い出す。
基本的に、一環して女性の同性愛の世界を描いてきた中山可穂。同性愛が故の切ない痛み、何物をも生むことの出来ない愛の姿の焦燥、そしてまた、その生殖のあり得ないが故の無垢な愛情と、不安から生まれるじりじりとした嫉妬の気持ち、そして激しく狂おしいが故に破滅へと向かわざるをえない物語、彼女の書く作品は、決してハッピーエンドに成り得ないことを前提にして読むからだろうか、なぜか惹かれるものを感じた。なぜ普通の幸せの生活を投げ打ってででも彼女たちは、そうした恋情を選ぶのだろう。生むことのない、失うことしかない恋愛、それこそまさに打算のない純粋な恋愛なのだろうか。
中山可穂の書く、女性同士の交接の姿は決して、綺麗なものでもない。しかしその代わりに、徒に扇情的なものでもない。いや、最初はおずおずと、お互いにじりより、値踏むように、そして、初めて結ばれたときのキラメキ、そしてそれが時を経過するごとに、相手を束縛しようとする行為のエスカレートに繋がり、きらめいていた姿がいつのまにかかさかさに枯れ果てた姿になっていく。何度も同じように未来のない恋愛をする登場人物たち。同性愛の世界は、決してそれだけではないはずなのだと思うが(例えば、生命を生むことはできなくても、芸術を生み出す力にはなるとか)、そのなかにある、あるひとつの世界のみを書き続ける中山可穂。そんな彼女が久しぶりに長編を書いた。そしてまたその書き出しは、今までの作品とは違った世界を予感させた。

作品は上下巻に別れ出版された。ひとつの作品として発表された作品を、分冊のそれぞれの巻で評価できないということは、何度も述べてきたことだが、これも何度も述べてきたように、このレビューのスタイルとしてそれぞれの巻の備忘録として記録を残すこととする。

作品は、しかし、決して従来の中山可穂の全てを忘れたわけではない。主人公の木村伽椰は、ある新進の代議士の妻と道ならぬ恋に堕ち、二人で逃避行を続けていた。しかし、逃避行を続けていくうちに、光り輝いていたはずのその相手、千秋は、いつの間にか伽椰に溺れるようになっていた。「男と女のように欠落を補い合ってひとつになる愛ではなく、女と女の愛は欠落を食い尽くして溶け合い、ともにゼロになっていく破滅の愛だ」。伽椰のすべてを束縛しようとする千秋は、あの輝いていた千秋の抜け殻であった。
このままではふたりでいると破滅の道を進んでしまう、そう思った伽椰は千秋のもとを逃れ、元夫の力も借り日本を後にした。そして旅の終わりに、その男と出会ったのだ。
遠松鍵人と名乗ったその男の紹介で、彼の持つ、鎌倉にある主なき部屋に間借りし、彼の紹介してくれた仕事に就く伽椰。それはモーツァルティアン(モーツァルトマニア)のための、特別手配の個人旅行を主催する旅行会社であった。そこで、さっそく伽椰に与えられたのはウィーンを旅するゲストの添乗であった。そして旅先で事件に巻き込まれる伽椰。
一方、物語はモーツァルトに取り憑かれた両親の間に生まれた遠松鍵人のその生誕から、少年へと成長していく姿の物語を並行して描く。モーッアルトに取り憑かれたドンジョバンニのような女たらしだった指揮者鳥海武、そしてあるコンサートで共演したピアニストであった母遠松さゆり。そのふたりのモーッアルティアンの間に生を受けたののが遠松鍵人だった。母さゆりは妊娠を知ると、父のもとを去り、その姿を隠していた。数奇な運命のなかで出会う鳥海と鍵人。そしてケッヘル番号を運命の番号として進められる父子の旅。伽椰が巻き込まれていく事件と、鍵人の物語は、どこかでつながるのだろうか?

物語は、謎を含み始まったばかり、このふたつの物語がどのように結びついていくのか、とても楽しみ。全てを終えてみなければ評価はできないのだが、しっかりと物語に心を奪われている。中山可穂の作品として期待すると疑問がでるかもしれないが、文芸長編ミステリー大作として読むととてもおもしろい。下巻に続く、である。

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