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「削除ボーイズ0326」方波見大志(2006)☆☆☆★★
※[913]、現代、小説、タイムパラドックス、SF、児童文学、YA、第一回ポプラ社小説大賞

まず、ぼくはいわゆるタイムマシンものやタイムパラドックスものがあまり好きではない。タイムパラドックスという問題は、よほど巧く書いてもらわない限り、作家の都合のよい物語に終わるからだ。そこは「物語」として楽しめばよいのだろうが、根が偏屈なので、納得できないと楽しめない。そういう意味で映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は、その最後が過去の行いによって未来(主人公の現代)が変わってしまったという点がダメであった。このジャンルの本はあまり手を出さない。最近では「戦国自衛隊1549」(福井晴敏)[ http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/10008723.html ]を一年半前に読んだきりか。「戦国自衛隊1549」はタイムパラドックスを起さないための物語であり、「歴史」の大いなる意志(のようなものが)パラドックスを抑えようと働くことなどで、破綻や作家の都合のよさをそれほど感じなく、割とおもしろく読めた一冊であった。

さて本作品、児童書の出版社として有名なポプラ社が行なった文学賞「第一回ポプラ社小説大賞」の受賞作。以前より語っているようにぼくは、いわゆる文学賞にそれほど敬意を表しているわけでもなく、また「ポプラ社小説大賞」という賞自体、どこを目指す文学賞なのかも知らない。ただこの作品を読むきっかけにはなったのかもしれない。
本書を読み終わったあと調べてみると「ポプラ社小説大賞は、大人の読者に向けた本のさらなる展開として、新しい才能を支援し、ともに育つための文学賞です」らしい。少子化進む状況のなか、ポプラ社は児童書出版社からの脱却を図ったのだろうか。しかし残念なことにというべきか、幸運なことにというべきか、それを知らずに読んだ本書は、決して「大人向けの」小説ではなく、いわゆるYA(ヤングアダルト)向けの作品だとぼくは感じた。受賞賞金2,000万円は文学賞史上最高額だそう。賞金額に見合う力がある作品であったかどうかは別として、いい意味でこの作品はポプラ社という出版社に似合う作品であった。賞の設立の狙いは別として、手に取る前に思っていたより断然よい作品であった。勿論、欠点は多々あれど、ではある。
少年に、あるいは青年に成長していくなかで、能天気に無邪気だけではいられなく、ほろ苦い思いや、経験を経なければならない、そうした味わいををこの作品は持っている。それは、まさにYA(ヤングアダルト)というジャンルが生まれ、確立した正当な位置、地位に即したものであろう。この作品はまさに正統派YA作品と言っても差し支えない。そしてそれはタイムパラドックスを扱いながらも、ある程度粗くてもそれが許される土壌としての児童書ジャンルのひとつでもある。勿論、このジャンルにありて、なお読者として許すことのできるだけの必要な描写はされている。しかしこれがもし「大人向け」の作品であるとするならば、たぶん読み方は変わる。もう少し欲しい、と。作品は単独で評価されるべきである。それは常々ぼくが語ってきた言葉。しかし明らかに読者対象を意識し、読む本もあるのだろうか、このレビューを書きながらふとそう思った。

もしあなたが、過去のある時間を削除することができるのならどうしますか?
この作品の書くテーマは、そのタイトルどおり過去を削除すること。

主人公の少年グッチこと川口直都は、ある日、ある事件をきっかけとして、過去を削除できる機械を手に入れた。フリーマーケットで謎のおじさんに手渡されたデジカメにも似たその機械は、まずカメラのように枠内に時間を削除したい対象の姿を捉えシャッターを押し、削除したい時間の設定をする。さらに対象自身にボタンを押させることで、その対象の設定された時間から五分間を削除することができると説明書に書かれていた。
もちろん彼とてそれが本当のことだと信じたわけではない。四つ上のひきこもりの兄、圭に相談したかったのだ。しかし兄には、小学6年生にもなってそんな嘘を信じるのかと言われた。グッチの家は、真面目なことが取り柄だと思っていた父親がある日、失踪し、美容院を経営する母親が生計を支えている。私立の学校に通っていた優秀な兄は9ケ月前からひきこもりとなっていた。それは主人公グッチの友人である運動神経抜群、クラスのリーダーであったハルが、車椅子を使わざるを得なくなってしまった事故に関わってしまったことによるものなのかもしれない。妹のマユと莫迦な話をして明るい家庭を演じるグッチ。しかしその明るいマユも一人ではひきこもりの兄を避ける。
深爪をした際、削除装置を使ってみたグッチはそれが本当に削除装置であることに気付いた。兄の手に入れたデジカメを欲しがる妹マユの行動で、削除装置は床に落ち、少しひびがはいる。とりあえず動くようだが、もしかしたら少し壊れたかもしれない。

物語は、削除装置を手に入れた少年グッチの視点で進む。グッチの親友ハルは、グッチの兄も関わる事件で、車椅子の生活を余儀なくさせられるようになっていた。それまでクラスのリーダーで、いつも仲間の中心にいたハルは、しかしその事件を通し、あるいは両足が動かなくなったことにより、内省をみせる少年となっていた。以前のハルとは変わった。そしてそんなハルに対する周囲の対応も明らかに以前とは変わった。スポーツ万能でクラスの中心にいた少年が、車椅子の生活となったとき、友人と思っていた人間たちの反応も変わった。そうしたなか、グッチはハルの親友としていつも一緒にいた。そして事件以降もハルに偏見の目を持たず側に居続けたコタケ。車椅子のハルを中心にした三人組だった。
クラスでは「社長の息子」を鼻にかけ、それがゆえに以前はハルにいじめられた種村という少年の地位があがってきた。狡猾にクラスでの自分の地位をあげていく種村。彼の発案で行なわれた肝だめしが事件の発端だったともいえるかもしれない。そしてコタケもぼくらから離れていった。削除装置を調べているうちに、それが説明書の五分間より短い時間3分26秒しか削除できないことを知るグッチ。そしてまた削除された時間の記憶も違和感に気付きさえすれば取り戻すことができることを知った。
ウサギ小屋の事件。削除装置を使い、死んだウサギを生き返らせようとするグッチを止める車椅子のハル。「死んだものを生き返らせてはいけない」死んだウサギはそのままでは生き返らなかった。しかし問題の根源にあった時間を削除することで、ウサギが死ぬような事件自体がなくなった。時間の流れが変わったのだ。しかしそれでもぼくらの生活は変わらなかった。
肝試しをきっかけに、いや削除装置を手に入れる事件をきっかけに、グッチたち三人組にクラスで浮いていた女の子、浮石が仲間に加わった。色々な噂のあった浮石だったが、実際に話してみると、無責任な噂と違いずいぶん不器用な女の子だった。
そして浮石の姉が、ある日グッチの兄を訪ねてきた。同じ私立学校の後輩だという彼女の登場をきっかけとして、ハルを車椅子生活に導いた事件の謎が浮かび上がる。そして自宅の屋根から飛び降りる兄、圭。兄を助けようと削除装置を使ったグッチの行動が巻き起こすタイムパラドックス。嫌ないじめられっこ、種村をいじめていたのは誰?あるいは自分が始めたいたずらの責任を取らず、友人を置き去りにしようとしたのは誰?残酷なまでに自己中心的な少年たちと、そのなかで適切な位置をもとめてコウモリのように行動する主人公。彼らはどこから間違えていたのだろうか・・。そして作品の冒頭につながるラストシーン。物語はどこに進むのだろう。そしてそれは本当に正しい選択なのだろうか。

まさにタイムパラドックスによる齟齬が問題となる作品。しかし、その齟齬を修正するために主人公がとる行動が本当に正しいもであるのかどうかというのはこの作品では重要なことではない。タイムパラドックスという事象を通して、小学校高学年以降からの少年たちのドロドロとした自己中心的な自我を描くことがこの作品の本当のテーマ。さきのことまで見通すこともなく、おもしろいことを持ち上げ、はやしたてる軽率ともいえる行動。それが呼び起こすこと。痛みを知ることで成長した少年は、しかし痛みを知らなければどうなるのだろう。

苦々しいまでの少年少女たちの自分たち中心の世界を描くこの作品は、ただ楽しく読む作品と違い、YAというジャンルの作品として、読者対象となる青少年たちの心に深く染み込むものだと思う。そしてまたこの作品は残念ながらあくまもYAというジャンルでのみの成功作であろう。大人の小説としてみると、やはり少し乱暴で、また深みに不足するように思う。それがこの作品の場合、決して悪いわけではない。しかしやはりこの作品の受賞した賞の賞金の額に値する作品であるかどうかと言えば、疑問と答えるしかない。

タイムパラドックスを扱いながら、ご都合主義に走らなかったことは好感が持てる。しかしYA向けの作品であっても、このドロドロとした少年たちの姿はどうなのだろう。客観的な意味では、ある程度の評価をする作品ではあるが、主観的にはあまり好ましくない。いやリアリティーはとてもあるのだろうけれども・・。

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僕もこの本を読みましたが
ここまで考える事はできませんでした。
おかげで、別の感じ方ができました。

2008/1/12(土) 午前 0:12 [ rem*umh*ad*17do* ]

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15歳とは、本のまさに対象読者の年齢ですね。一生のうちに何度もよむことのできる一冊の本と出会えるといいですね。その年齢、年齢で感想が違うけど、一生つきあえる、そんな作品に、ね。

2008/1/13(日) 午後 7:20 すの▲

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