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「夢を与える」綿矢りさ(2007)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、少女、成長、芸能界、スキャンダル、家族、文芸

綿矢りさという作家の名前は知っていた。史上最年少の芥川賞受賞作家。しかしぼくには当事、流行のようにもてはやされた一過性のタレント作家のような若い女性作家のひとりにしか思えず、まったく食指がうごかされることがなかった。
賛否両論。彼女の新作「夢を与える」が上梓されたときに沸きあがった数々の感想、意見。文学界のアイドルのように思われている彼女がスキャンダラスな一冊を書いた。少しだけ興味も持ち、図書館に予約をいれた。そして彼女の芥川賞受賞作「蹴りたい背中」[http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/47453996.html ]も読んでみた。

「夢を与える」幼い頃から芸能界で活躍してきた主人公が、アイドルとしてインタビューのための用意された答えに疑問を覚える。それが本書のタイトル。夢を与える人間は夢を見てはいけない。本書ではそんな言葉も書かれる。そして夢を与えるための義務を、細心の注意を払う義務をおろそかにした「選ばれた彼女」は、夢を与える場所から転がり落ちる。いつの間にか、本当にいつの間にか、自分を見つめる人々の目ばかりを気にするようになった彼女が、いっとき自分をさらけだせる場所、恋人との二人だけの世界で外すハメ。しかしそれは彼女に大きな代償を与えた。それはありきたりの物語なのだろう。しかし読んでいてとても哀しかった。救いのない物語とて作品である。そういう価値のある作品もあろう。しかし本書の読者はこの作品を読んで、このラストをどう思うのだろう。

この作品の価値を認める評の幾つかは、作品でなく作家である綿矢りさに焦点を当てる。好むと好まざると、そのルックスやあるいは普通の女の子として文学界あるいは文芸界の清楚たるアイドルたることを求められた綿矢りさ。その彼女があたかもこの作品の主人公に自分を仮託するかのようにひとりの少女の姿を描いていく。それは「ひとりの女」というにはやはり幼く、考えの足らない「女の子」の姿なのかもしれない。しかしその「女の子」は事件を通し大きなものを喪う。そしてその代わりに、もしかしたら新たな「大人」になってしまった自分を見つけるのかもしれない。
「大きな成長」この作品の、作家としての彼女を評する声にそういうものを見かける。勿論セックスを書くことが成長ではない。押し付けられた殻を破り、あるいはレッテルを剥がし、作家として自分が書きたいものを模索し書くこと、そのことを指す。それは真摯に作品を書いていこうとするひとりの作家として至極当たり前の欲求であり、また確かに成長なのかもしれない。しかしぼくはこの作品を読んで哀しかった。ぼくは「作家」の作品を読むのではなく、ただ一冊の「作品」を読む読者だ。それゆえに、この作品には救いのない哀しみを覚えた。
人によってはこの作品の救いのない終わりの先に、新たにひとりの女性として再生する主人公の姿を見る人もいるだろう。それは読み方の問題である。ぼくが哀しかったのは、少女である主人公を敢えて汚すように描いたこと。
とくに最近の少女たちの現実には、セックスはもはや避けられない事実なのかもしれない。過去にもある女性作家に触れ、作品のセックス描写をもって成長とするのは哀しいとぼくは語ったことがある。この作品に書かれたスキャンダラスな事件は、単にセックスだけであっても構わないと思われるのに、それ以上の描写であった。それがあまりにも哀しいのだ。主人公の幼く、考えの足りない行動は、また確かに現実感を持つがゆえに、そのリアリティーとあいまってより哀しく感じるのは、もしかしたらぼくが年頃に近い娘を持つ父親だからかもしれない。しかしこれは「蹴りたい背中」でも評したが「露悪的」すぎないだろうか。悪く言うならば「よりスキャンダラスに書いてみました」ということかもしれない。

振り返れば、決して望まれた結婚でないかたちでできた夫婦、決して望まれて生まれた子供でない主人公。可愛く聡明に生まれた主人公が光であったが、少しずつ壊れていく家庭。そしてまた壊れてしまう主人公。大きな枠組みで見れば、負の調和をきちんと描いた作品なのかもしれない。

最後に「人間の水面下から生えている、生まれたての赤ん坊のようにやわらかく赤黒い欲望にのみ動かされる手となら」繋げると語る病室の彼女が、スキャンダル雑誌の記者の腕をつかむ痩せほそった手。そこには成長というには痛々しすぎる、あどけない少女から変わった女性の姿があった。
そのことをどう評価するかで、作品の評価は変わるのかもしれない。人間のどろどろとした欲望の本質を表現したと評価する人もいるだろう。

個人的には作品冒頭から違和感を感じた、作家が「変えた」といわれる文体を含め、あまり評価できない作品。売れっ子アイドル作家たれとは言わないが、やはりあまりに露悪的すぎないだろうか。そのことさえこの作家が計算しているとは云わないが・・・、

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なんだか…いいんだか、悪いんだか…よくわからない作品でしたねwwでも、きがつくと引き込まれていたのは…事実なんで…ますます、よくわからなかったですね。ププッ ( ̄m ̄*)
TBさせてくださいね♪

2007/8/23(木) 午後 10:29 チュウ 返信する

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>ちゅうさん ぼくはあの場面では、とにかく哀しくて、本を一旦閉じてしまいました。この作品をもし綿矢りさ以外の人間が書いたとしたら、こんなに騒がれたのでしょうか?どうにもやりきれない一冊でした。

2007/8/23(木) 午後 11:02 すの 返信する

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