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「鹿男あをによし」万城目学(2007)☆☆☆☆☆
※[913]、国内、現代、小説、青春、ファンタジー、奈良、鹿島大明神

第四回ボイルドエッグ大賞というなんだかキワモノ的な文学書受賞の「鴨川ホルモー」[ http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/42521938.html ]でデビューの万城目学。デビューニ作目が本書。舞台は京都から奈良に移るが前作同様気持ちのいい青春ファンタジーを描いてくれた。前作を「だれも知らない小さな国」(佐藤さとる)を彷彿させる良質の日本のファンタジーだと述べ、高く評価したが、本作も負けず劣らずの良質のファンタジーであり、またボーイミーツガールの物語であった。大作ではない、しかし気持ちのよい青春ファンタジー小説。潔く星5つを進呈しよう(ちょっと大盤振る舞い)。

「きみは神経衰弱だから」
うまくいかない先輩助手とつかみあいの一件の後、教授の一言で大学の研究室を一時離れ、期間限定の奈良の女子高校の産休講師となった主人公、おれ。初めての授業に遅刻してきた生徒、堀田イトは、すまなそうな態度も見せずものすごい形相でおれを睨みつけてきた。少々感情的に振舞ってしまったおれは反感をもたれたのだろうか、翌日から教室の黒板には誰が書いたのかおれの悪口や、日々の行動が書かれるようになった。神経的な腹痛を抱えながら日々を過ごすおれ。そんなおれにある日雄鹿が話しかけてきた「さ、神無月だ――出番だよ、先生」
神無月、十月、すべての神が出雲に集まり会議を開く月。この月は出雲以外では「神無月」と呼ばれる(ちなみに出雲では「神有月」)。最近、関東のほうでは小さな地震が続いているらしい。幼いころから聞かされた母の話によれば、大明神が出払っている間は、大明神の命を受けた恵比寿が大なまずを抑えているから大丈夫。しかし恵比寿の力は大明神より劣るので、ときどき大なまずが暴れるということだった。そんな神話がまさか真実だったとは。
鹿の話によれば、おれは“運び屋”に選ばれ、目と呼ばれる神宝を運ばなければならないらしい。人間界ではサンカクとか呼ばれているそれを、期日までに然るべきところに届かなければ日本は大変なことになるという。
1800年前から続く儀式を成立させるため、奈良の鹿、京都の狐、大阪の鼠という三種の神のお使いとそれぞれの“使い番”を巡り、物語は進む。果たしておれは無事サンカクを手に入れ日本の危機を救うことができるのだろうか?

当初明らかにされていなかった主人公の出身地は鹿島大明神を祀る地であった。作品の舞台となる奈良の都の同じ武甕槌(タケミカヅチ)を祀る春日大社とつながり、あるいは伏見稲荷や大黒様、京都に、大阪に、そして奈良に神話を残す三人の神様が、物語のファンタジー世界の深みを増す。ファンタジーとして大事な、関係者以外はわからないというお約束ごとも、充分リアリティーを持って描かれる。そんなことあるはずがない、しかしもしかしたらあるかもしれない。物語世界に読者を誘うファンタジー世界の構築の成功。
前作の舞台、怪異の似合う京都という町に変わり、やはりいまだ謎の巨石を残し、あるいは鹿という神の使いを町中に残すまほろばの地、奈良という土地もまたファンタジーの舞台としてはぴったり。そこで行われることは日本を救うための神聖かつ重大な儀式。
しかし物語の焦点は決してそこにあるわけでない。物語はあくまでもかっこいいヒーローでもない、どちらかといえばとほほな主人公が、日本のためというより、どちらかといえば(一回失敗して)鹿に変えられつつある自分の姿をなんとかするために、躍起になる姿を描き、あるいははじめは主人公に敵意を剥き出しにしていた(その理由もきちんと謎解きされる)女子高校生とのほんのりあたたかな交流を描くことにある。この作品の主題はまさに青春小説なのだ。

ファンタジーはファンタジー世界そのものを描く、指輪物語の作者であるトールキンの言ういわゆる「ファンタジー」もあれば、ファンタジーの不思議を通し、人の成長を描く作品もある。この作品は後者である。遠い地(あちらの世界)から、こちらの世界にやってきた異人がこちらの世界の人間に刺激を与え成長を促す。これはファンタジーのひとつの話型。貴種流離譚の物語。そしてまた成長の物語は青春物語に重なっていく。
この作品でファンタジーとして、,△舛蕕寮こΑ淵侫.鵐織検疾こΑ砲凌澄覆了箸ぁ砲こちらの世界(現実世界)の人間(主人公)に成長を与える、あるいは奈良から遠い鹿島の地の(あちらの世界)主人公が、こちらの世界である奈良に住む少女にほんのりとした恋心という名の成長を与えるという二重の「あちらの世界とこちらの世界」物語なのかもしれない。「行きて帰りし物語」よろしく主人公も、きちんとあちらの世界に帰っていく。もちろんその先の想像は物語の常として読者に任される。それはまさに余韻が素敵な青春小説。

夏目漱石の「ぼっちゃん」を彷彿させるような、主人公と奈良の地での人々との出会い。あえて狙ったユーモアもうまく効く。まさかいまどき「マドンナ」はないだろうが、この作品には合っていた。
こういう作品は好きだ。とにかく楽しく読め、かつ軽すぎない程度の軽みを持つ。
次回作も楽しみだ。

蛇足:最後に明かされる、かりんとう好きな同僚がいつも食べているかりんとうの秘密。成程ね。と思わず微笑む。しかしこの作品を読んでいてかりんとうが食べたくなって仕方なかった。鹿の食べるポッキーを食べたくなった人もいるようだが、やっぱり人間が食べるのはかりんとうだ。熱いお茶と一緒に、ね。

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まさにそうですね。ファンタジーの不思議を通して人間の成長を描くって感じでしたね♪おいしい「かりんとう」を食べたくなりましたよ(o^−^o)
TBさせてくださいね♬

2007/10/9(火) 午後 9:37 チュウ 返信する

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やっぱりかりんとうですよね。四六時中食べてるのにどうして?って思ってたので、理由を聞いて笑いました。
ドラマ化らしいですけど、どうなんでしょうね? 削除

2007/11/23(金) 午後 8:58 [ なな ] 返信する

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かりんとうにはやはり秘密があったんですね。こういう細かいところで笑えました。
ドラマ化とは!やっぱりCGとか使うんでしょうね。 削除

2007/12/26(水) 午後 2:35 [ june ] 返信する

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学生時代の数年間、奈良に住んでいたので読んでいて当時の事を思い出してとても懐かしかったです。
マイシカとかかりんとう兄弟っていうネーミングセンスとか細かい所まで万城目さんの話はセンスが光っているなぁと思います。ドラマ化はどうなるんでしょうね〜?普段あまりドラマは見ないんですが、ちょっと見てみようかと思ってます。 削除

2008/1/15(火) 午前 11:45 [ 板栗香 ] 返信する

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神経衰弱で始まり、神経衰弱で終わるところにニヤッとしました。魚顔役は多部未華子ちゃんみたいです。

2008/1/16(水) 午後 2:42 ゆうき 返信する

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「神経衰弱」と言われて怒っていた主人公が、「神経衰弱」と言われてほっとするんですよね。これも成長、と言うか(笑)。神話部分を広げたら、またお話になりそうな感じでしたね〜。

2009/8/21(金) 午前 0:31 智 返信する

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