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「図書館危機」有川浩

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「図書館危機」有川浩(2007)☆☆☆☆★
※※[913]、国内、小説、近未来、ラブコメ、図書館、言論統制

※あらすじあり未読者は注意願います。

思いが強すぎると、何を書いていいのかわからなくなる。そういうことはないだろうか。
「図書館危機」この一冊を読んだのは、もはや数ケ月前。知人から借りて、すぐ読んだ。しかしいざレビューを書こうとすると何をどう書いていいのか整理ができない。書きたいことが次から次へと浮かんでくる。そういう一冊。もっとも、冷静に客観的に評価した場合この作品も前二作(「図書館戦争」 [ http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/36582433.html ]、「図書館内乱」[ http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/41759565.html ])同様に諸手を挙げて褒める作品ではない。あともう少しが欲しい、そういう一冊。しかしそれなのにあふれそうになる言葉。この作品はそういう意味ではやはり素敵な一冊。五編の短編(中篇)からなる一冊。

一、王子様、卒業
憧れの王子様の正体を知った郁。王子様の正体がまさかこんなにも身近な人だったとは。気恥ずかしさからひとりパニくる郁。そんなとき、図書館で痴漢事件が発生した。小牧の大事な鞠江ちゃんが被害に遭ったのだ。郁と柴崎をオトリとして捜査が始まった。
事件を通し王子様を卒業する郁。しかし王子様を卒業したのは郁だけではなかったのかもしれない。

二、昇任試験、来たる
昇任試験を受ける資格を得た柴崎、手塚、郁。手塚は確実という評判のなかで、手塚が柴崎にこっそりと相談に来た。試験の実技が「子供への読み聞かせ」であることが手塚を悩ませていたのだ。

三、ねじれたコトバ
新進気鋭の俳優、香坂大地の初の特集本の企画に携わる「週刊新世相」の記者折口マキ。うまく進んだ取材とうらはらに、香坂から出版延期の申し入れがはいった。彼の指摘はゲラ原稿のなかの表記で、両親に捨てられた自分を育ててくれた「床屋」のおじいちゃんを、勝手に「理容師」とか「散髪屋さん」に置き換えたことに合意できないというものだった。しかし「床屋」という言葉はメディア良化法の検閲にひっかかる増反語だった。祖父が六十年以上「床屋」を名乗り、その言葉にプライドを持って生きてきたことを訴える香坂。
多くのファンが手に入れることのできる形式で本を作れば、必ず良化特務機関が狩りにくる。そうかといって高額な写真集のような書籍にした場合、入手できない若いファンがどのような行動に出るかわからない。お互いによい本を作りたいという部分での意見は一致していた。問題はどうやって打開策を見つけるか。弱り果てた折口の相談に、玄田はある秘策を与える。マスコミをも交え、事態が打開されるかと思われた秘策であった。しかし、思いとうらはらに事態は膠着化の様を見せ始めた。そんなとき思いもやらない援軍が現れる。

四、里帰り、勃発−茨城県展警備−
郁の故郷である茨城県の図書館の警護応援にあたることになった図書特殊部隊。図書館の敷地も開放して行われる県の芸術祭の今年の最優秀作品が問題だった。「自由」と題されたその作品は、良化特務機関の制服を切り裂き作られた作品であった。作品に対して良化法賛同団体が入り交じった抗議デモが凄まじいことになっているとのこと。郁の班も応援に向かうことになる。堂上の期待に応えたいという思いと、両親に見つかりたくないという思いに揺れる郁。郁の両親は郁に女の子らしく育ってほしいと願っている。そんな両親には内緒で、郁は図書特殊部隊に勤務していたのだ。
県立図書館で郁たち図書特殊部隊を待ち受けていたのは「暴力に暴力で対抗することが事態を拡大する」と訴える「無抵抗者の会」を名乗る団体だった。その団体は現在の県立図書館の館長を特別顧問に置いており、その結果、茨城の図書館の戦闘力は著しく低下しており、図書館は良化特務機関に蹂躙されている有様であった。
宿舎として郁にあてがわれたのは図書館員の女子寮であった。そこで郁は、同じ図書館員でありながら、業務部の人間に虐げられる女子防衛員の実態を知り、またそのいじめの標的のひとつにされる。
県展に向け、特殊部隊の指導のもと訓練に励む茨城の防衛部員たち。そんななか郁の母親が宿舎に現れる。

五、図書館は誰がために−稲嶺、勇退−
いよいよ県展が始まる。世論との絡みもあり、攻防のポイントが県展初日の夜明けから県展開始時間の午前九時までの間となった。夜明けとともに始まる闘い。良化特務機関の隊員の攻撃は凄まじいもので、それはもはや暴徒と呼んでおかしいものでなかった。後ろの仲間からの流れに潰され、瀕死の状態で血まみれになりながらも戦う良化隊員の姿に、なぜ仲間を殺してまで戦う必要があるのか、郁は思うのであった。そしてその戦闘の中で郁は初めて人に向けて銃弾を放った。人を撃ったのだ。あるべきと思う心とうらはらにがくがくと震える郁の手。
九時のサイレンとともに闘いは終わった。なんとか会場を守りきった図書館員。良化特務機関は潮が引くように引き上げていった。
なぜ暴力で解決しようとしたのだ。「無抵抗者の会」代表、竹村が図書隊を糾弾しはじめた。そのとき県知事が現れ、竹村に強く訴える。あなたたちは死を覚悟に検閲の前に立つ覚悟を持った上で、県展の検閲に蹂躙される文化を守るために死線を潜った彼らを責めているのか。県知事のその言葉を試すように現れた、短機関銃を持った若い男二人。逃げ惑う「無抵抗者の会」のメンバー。そして身を呈して作品を守りとおした玄田が銃弾を浴び、倒れる。
そうした騒ぎのなか、自らのキャリアとして保身に走った須賀原館長が起す行動。
騒ぎが収まったとき、郁は堂上を準基地の温室に連れ出した。そこには図書館員の階級章として使われるカミツレの花が咲いていた。カミツレに込められた想い「苦難の中の力」を知る人がここにもいるんですよ。
心配された玄田も意識を取り戻し、ほっと胸を撫で下ろす一同。そうしたなか今回の騒動の責任をとるかたちで稲嶺司令引責辞任を決意する。
「日野の悪夢」から二十余年。
図書隊を作り、今日まで牽引してきた老人がその最前線を退いたのであった。

あらすじを詳細に書くことが正しいことだとは思わない。しかし敢えて今回はあらすじを最後まで残す。これは既読者がまた読み返すまでもなく、思い返す一助になると信じているからである。

さて本書も前作同様、最後の二話が連携した物語になっており、ヲタク心は騒ぐのであった。図書隊の戦いと、隊員の日常生活を心地よく描くこのスタイルは読みやすい。たった(確立した)キャラクターたちも、シリーズ当初に感じたステレオタイプのそれから比べると、随分と血脈の通った人間となってきた。ラブコメ、オトメ心も健在である。彼らの人間ドラマが描かれることがこの作品の大きな魅力であるものの、ここに来てこの作品は大きく一歩前進したのではないだろうか。第三話での言葉狩りの問題、そして第四話、五話における良化特務機関が自らの誇りとする制服を題材にした県展への出品作品に対する行動。
正直に言えば、第三話に折口自らの体験が挿話されたことには多少鼻白んでしまったのだが、この話を読んだときに不覚にも涙がこぼれそうになった。「いったい造反語なんて誰が決めたんだ。」タレントの香坂が訴える言葉。それは現代における出版界や放送界における自粛用語のそれを表している。それらの世界で特定の言葉が自粛されるようになった経緯を決して悪いことだとは思わない。しかし一方、過剰に反応しすぎている部分もあるのではないかと思うところもある。高校時代、新聞部に在籍していたことがあるから知っているのかもしれないが、知らないで使っていた言葉の幾つかには明らかにもともと侮蔑の意味が込められており、自粛すべきと納得できるもののあった。しかし、これはどうなのだろうという言葉もあった。
「言葉に対する過剰な反応」という部分をこの話はうまく表現していた。ただ香坂が自らの体験で語ることと、客観的に対処すべき折口の小学校時代の友人の思い出を挿話することは同じものではない。個人的好みの問題ではあるが、ここには折口の心情は欲しくなかった。折口には、より中立な立場で、「言葉狩り」に立ち向かって欲しかった。ドラマ的には折口のエピソードがあったほうが読者の心を掴みやすいのだろうが、それがないほうが物語がより締まったものになったと思うだが・・。
そして第五話で、仲間に潰され血を吐きながら瀕死の状態で自分たちの制服の誇りを守ろうとした良化特務機関隊員たちの姿が描かれる。そこに象徴されるのは決して形式としての軍隊や、制服への誇りではなく、自らの「言葉狩り」と呼ばれる職務への誇りと自信を象徴していることがぼくには読み取れた。われわれ読者はもちろん図書館隊の正義を是としてこの作品を読んでいる。しかし実は良化特務機関とて、彼らの正義の上に成り立っているということを改めて認識させられた。リアリティーという面から考えると「言葉」という問題を取り上げ、合法の下で生命のやりとりさえ行われてしまうことは、荒唐無稽でありえないこと。しかしこの物語では、敢えてここに生死をかけた闘いという設定を持ち込み、大げさではあるが判りやすく対立の構図を見せることに成功している。ならばこの部分がリアリティーの欠如だと指摘することは意味がない。そういう小説なのだ。そこを前提として読んできた読者が、この話を読んだときに、ふと立ち止まり、この物語が実は分かりやすい善悪二元の勧善懲悪ものだけでないことに気づくきっかけになるのかもしれない。視点はぶれてしまうかもしれないが、ぼくはこの瀕死で戦う良化特務機関隊員のエピソードを読んだとき、別の機会でいいので良化特務隊員の物語をこの作家に書いて欲しいと思った。郁たち図書特殊隊のまったく関わらない、ある良化特務隊員の生活のひとコマなんてエピソードがどこかにあれば、またこの物語(シリーズ)の深みがぐっと増すような気がする。敵味方に分かれていても、人は人なのである。

さて巷ではいよいよ最終巻「図書館革命」が出版され、評判がよいようである。お馴染みになった郁をはじめとするメンバーとお別れとなり寂しい気持ちもある。しかしダラダラと続くより、きっぱり最後の華を咲かせて、見せて欲しい、そういう気持ちも大きい。楽しみだ。

蛇足:しかし泥酔したときにスポーツドリンクを飲むと、アルコールの吸収率が高まりさらに泥酔するのって常識だったの??実は初耳で驚いた。しまった、酔いすぎたなぁと思ったときに飲んでいたのは失敗だったわけだ。

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お先に最後までヲトメのまま突っ走ってきました(^^本作は振り返ると次を期待させる要素が満載ですね。そういう点でもツボの突き方が上手いなぁ、有川さんって。
お酒を飲んだ時スポーツドリンクを飲んでましたねー。それが体にはいいんだ!と思っていたのに。。。こちらからもTBさせてください。

2007/11/23(金) 午前 0:16 紅子 返信する

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シリーズが続いてもこんなに面白さを維持できるのってすごいことだなって思いました。最終巻楽しみですね。
お酒の後のスポーツドリンク、ホントはどうだかわかりませんが、なんとなく実体験で「飲んじゃいけない」って思ってました。 削除

2007/11/23(金) 午後 8:56 [ なな ] 返信する

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>ななさん スポーツドリンクはどうも、きちんと科学的に検証されたものではないようですね。強いていえば「吸収率」より「含まれる電解質」の問題のようです。と、ネットを駆け巡り調べてしまいました。作家の経験則なのでしょう、ね。

2007/11/24(土) 午前 6:23 すの▲ 返信する

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良化委員会のモチベーションは読み始めた当初から気になっていました。そちら側のエピソードも欲しいですね〜。トラックバックありがとうございました、こちらからもトラックバックさせて下さい♪

2008/1/18(金) 午前 0:34 智 返信する

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すのさん、こんにちは!お久しぶりです。
私もたまたま感想に書きましたが、狩る側「良化委員」側の語りもあったらもっと深くなるのかな、と思いました。
作者の意図で片側しか描いていないのでしょうけど、いつかそんな機会もあるのかしら、とちょこっと期待。
後残り1冊、「革命」ただ今堪能しています。 削除

2008/3/12(水) 午前 9:43 [ リサ ] 返信する

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すのさんのこの作品シリーズに対する想いの強さがひしと伝わるレビューですね。
良化委員側に名前ありのキャラクターが出てきたらまた変わった話になったんだろうな、と読み終えて思いました。
次巻が楽しみです。

2009/9/7(月) 午後 11:03 [ ばなてん ] 返信する

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