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日常茶飯事

「あ、お二人ともこちらにいらしたんですか。」
と登ってきたのは料理人の八十吉(やそきち)。
「ささ、夕食用意してますよ。今朝、魚屋の西尾の旦那がお二人にって下さった、刺身を用意しているんです。」
「やったぁ!!」
「さ・さ、早くどうぞ、どうぞ。」
小巻ちゃんは嬉しそうに八十吉と一緒に下りていった。

けれど・・私はもうしばらくここにいることにした。
外を見ると、まだまだ雨は止みそうにない。
さっきの、小紫姐さんの言葉が頭に響いた。

・・・ここにいるものにとって、いなくなる。
それは身請けされることであって、これ以上ない幸せだ。

吉原随一の才女で評判の姐さんは、近々ある大店の方のうちへ行く。

「それが本当の幸せなのかな・・・。」

・・・私は知っていた。
小紫姐さんは大店の旦那より違う人が好きだということ。
だから先日の道中で、人知れず、そのお人と最後のお別れをしていた。

幸せって・・・なんだろうなぁ。
独りじゃない、ってどうしたらわかるんだろう。

私がここにきたのは、本当に身寄りもなくって、独りになって・・・後見をしていた遠い親戚の厄介払いだった。
そしてここへきて、同じような経緯だった小巻ちゃんと仲良くなったんだけど・・・。

「あ、深雪姐さん、いたいた。」
すると、なかなか降りてこない私をこれまた料理人の友也が迎えにきた。
「なかなか下りてこないんで・・・。」
「あ、うん、今行くよ。」

・・・・気がつけば、私もここで、姐さんと呼ばれる地位にいる。

「さあさ、深雪姐さん、刺身好きでしょう?私が腕によりをかけましたよ。」
・・・友也は最近、ここに入ってきた新入りの料理人だ。
ところが、意外にもどこぞの藩御用達とかの店に働いていたとか何かで、ここ三浦屋のお父さん(三浦屋の旦那のことをそう呼ぶ)もかなり気に入っていると言う。
「さ、行きましょう。」
階段を下りるとき、友也は私の2・3歩前に立ち、手をとってくれた。

「?」
下に下りると、なにやら騒々しい。
人だかりが出来ている。
「なんや?何があったんや?」
そばにいた小さい女の子(禿:かむろ)を捕まえ、尋ねると・・・
「小巻姐さんと水鳥(みどり)姐さんが〜〜〜〜・・・。」
と今にも泣きそうだった。
「また???」
・・・・日常茶飯時の出来事である。

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