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みすず書房のPR誌「みすず」の「1,2月合併号」を入手。毎年、最初の号は「読書アンケート特集」になっている。今年は152人が、2008年中に詠んだ中で興味を感じた5冊をあげ、簡単に理由を説明している。 回答者は、みすず書房らしく、大学の研究者が多い。しかし、「学校の先生」にありがちな、「専門バカの専門知らず」といった人たちは少なく、目利きが多い。書店でお目にかからない面白そうな本を知るには非常に便利なので、毎年、この「特集」を購入している。回答者の寸評も、有益かつ楽しく、紹介された本を読まなくても、定価315円のモトは十分とれる。
なかでも、自然科学系研究者たちが、専門外の文学、人文科学関連の、しかもちょっと変化球気味の専門書を結構読んでいる点にいつも感心する。文学系研究者で、自然科学専門領域でのフォークやカーブを打てる打者が何人いるのか、この文理格差は大きい。
まだ67人しか読んでいないが、それでも気になった本が多数あった。とりあえず中間報告をします。続きは、また後日。※ 〜線以下は、回答者の寸評。<>内が、回答者名とその専門です。 ・太田好信「亡霊としての歴史―痕跡と驚きから文化人類学を考える」(人文書院) ・アントワーヌ・ベルマン「他者という試練―ロマン主義ドイツの文化と翻訳」(みすず書房)〜自国語の成立には「異なるものの試練」が不可欠であることを初めて意識したのはドイツ・ロマン派であったという理解に立って書かれた、注目すべき翻訳論。<上村忠男・思想史> ・「遠くまで行くんだ…」(白順社)〜1968年から74年までの雑誌の復刻版。大学闘争時代に関心のある若い世代に読まれることを期待したい。<鈴木博之・建築史> ・中井亜佐子「他者の自伝―ポストコロニアル文学を読む」(研究社)〜著者は、ポストコロニアル文学は、作者の人生というテクストの外部を参照することなしには解読不可能であり…「自伝性そのものに対する痛切な批評意識を内蔵するテクスト」であるという。ラシュディ、ナイポール、サイード、クッツェーに言及(川口喬一・イギリス文学) ・「伊東俊太郎著作集」(麗澤大学出版会)〜伊東、村上、廣松、大森の諸先生がおられた頃の東大科哲は本当に凄かった。<金森修・科学思想史> ・大橋毅彦ほか編著「上海1944−1945 武田泰淳『上海の螢』注釈」〜「堀田善衛上海日記」と併せ読むと、戦後日本文学の原点の一つが上海であると確信できよう。<藤井省三・中国文学> ・ニール・シュービン「ヒトのなかの魚、魚のなかのヒトー最新科学が明らかにする人体進化35億年の旅」(早川書房)〜今年(08年)出版の科学書では群を抜いた出来。<川那部浩哉・生態学> ・A・ソーカル、J・ブリクモン「『知』の欺瞞―ポストモダン思想における科学の濫用」(岩波書店)〜今を時めく現代思想の旗手たちが、自然科学の術語や概念をいかに安易に援用し、論理の厳密性をそこねているかをテクストに即して明快に示し、根本から批判した痛快な本。<岡部牧夫・環境論> ・今福龍太「群島―世界論」(岩波書店)〜著者のカヌー(今福の自在な思考方法―風船子注)の後部座席から見ると、景色がどれも新しくて、快感の連続だった。<栩木伸明・アイルランド文学> ・The Fall of the House of Bush by Craig Unger, Scribner(ブッシュ家の崩壊) 〜ブッシュ政権をめぐっては、すでに多くの本が出版されているが、本書は取材の幅と深さで抜群。 ・吉井譲「論争する宇宙」(集英社新書)<松永太郎・翻訳家> ・松本昌次「わたしの出版戦後史」(トランスビュー)〜文句なく2008年の筆頭にあげたい書物である。<道場親信・日本社会科学史> ・ジョシュア・キー「イラクー米軍脱走兵、真実の告発」(合同出版)〜もともとNHKのテレビ番組だったものを本にしたとのこと。NHKにもジャーナリスト魂を持った人がいたのだと感心した。 ・レヴィ=ストロース、今福龍太「サンパウロへのサウダージ」(みすず書房)〜人類学者でしか書けない映像論 < 鈴木布美子・映画史> ・鵜飼哲「主権のかなたで」(岩波書店)〜主権のかなたから到来するものたちへの、困難極まる歓待の可能性を予示していこうとしている。<新城郁夫・沖縄・日本文学) ・上坂昇「神の国アメリカの論理―宗教右派によるイスラエル支援、中絶・同性結婚の否認」(明石書店)〜(米国社会の宗教性において)働いているのは集団性というよりむしろ「集団性の喪失への危機感」なのだということがよくわかる。 <生井英考・映像論> ・笙野頼子「だいにっほん、おんたこめいわく史」(講談社)〜おおげさに聞こえるかもしれないが、このような作品が書かれ出版されるということは、日本の文学、ひいては、日本もまだ捨てたものではないという希望を与えてくれる。<飯田隆・哲学> ・石川逸子「オサヒト覚え書きー亡霊が語る明治維新の影」(一葉社)〜この本は、実験作かもしれないが、見事に「天皇制の虚妄」と「近代の不実」を抉り出した。<鈴木裕子・女性史研究> ・陶山幾朗編集・構成「内村剛介ロングインタビュー 生き急ぎ、感じせく」(恵雅堂出版)〜独立的知識人の全身像を刻むべく、1997年から始められたインタヴューは7年半の長きにわたっている。<阿部日奈子・詩人> ※内村氏は先日、亡くなった。(風船子注) ・見田宗介「宮沢賢治―存在の祭りの中へ」(岩波書店)〜無数にある賢治論の中でも白眉 <三原弟平・ドイツ文学> ・計見一雄「戦争する脳―破局への病理」(平凡社新書)〜「ほとんど観念の身によって出来上がったイデオロギー体系」である20世紀精神医学も「肉体を軽んじ精神を高みに置く」ことで広まった。精神科救急というジャンルをわが国に立ち上げたリアリストたる精神科医計見は患者にまず「メシを食ってるか?便秘していないか?よく寝てるか?」と絶対に訊くという。戦争に関する膨大な文献を用いて精神科医の視点で日常と戦争を連続させて見せた力業の書。<佐々木正人・生態心理学> ・「情況」2008年6月号「緊急特集―『実録・連合赤軍』をめぐって」(情況出版)〜京谷明子氏と青砥幹夫宇治へのインタビューが圧巻。<小松美彦・科学史> ・栗原裕一郎「<盗作>の文学史―市場・メディア・著作権」(新曜社)〜ポストモダン思想が軽やかなエスプリに支えられていたことを思い起こさせる <増田聡・音楽学> ・ポール・ボウルズ「雨は降るがままにせよ」(飯田隆昭訳、思潮社)〜異邦暮らしのやるせなさが見事な日本語で再現されている。昨今の、とりわけ英語圏小説の気の抜けた邦訳にはうんざりさせられていたので、本書の日本語の美しさ、真率さには陶然とさせられる。<加藤幹郎・映画学> ふう、疲れた。
実際に読んでみると失望する本もあるとは思うが、それにしても、読みたい気にさせる本の多さよ。これに加えて、東西の古典も、きちんと読んだのはほんのわずかだけ。
「読めずに死ぬしかない無念」を感じると同時に、同時代の日本人の力作、労作を知ると、「みんな、結構、がんばってるな」と少しうれしい気分にもなる。 |

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