風船子、迷想記

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 中東政治研究者の池内恵が、エジプト情勢について見解を述べていた。いずれも執筆時点では、現在進行中のモルシ支持派デモと弾圧事件はまだ起きておらず、見解は七月はじめのクーデターによるモルシ政権転覆を受けたものだ。しかし、今後の情勢を考えるうえでも有益なヒントが含まれているので、要約して引用する。

 「中央公論」(2013年9月号)掲載の「エジプトの『革命』と『反革命』」
から。

・クーデター後の暫定政権で、最高権力者はマンスール暫定大統領ではなく、筆頭副首相のスィースィー国防相である。

・「軍が出てくれば安定する」という日本の「自称エジプト通」の議論は、根拠がない。軍の介入は対立をさらに激化させ、紛争解決の制度を崩壊させ、混乱を深める要因となっている。

・エジプト軍は1952年のクーデターで、国王を追放し、地位と膨大な資産を手に入れ、「支配階級」になった。しかし、これは「統治者」としての責任を負い、能力を蓄積してきたわけではない。将校たちは高い地位と経済的特権を享受して自足し「支配すれども統治せず」というのが軍の政治的立場。特権が損なわれる事態になると政治に介入するが、全面的に統治の責任を負うことは避けて背後に引くという特有の習性がある。


 次は「公研」(2013年8月号)

・2年半前からエジプトで起こっていることは、「革命」である。今回のクーデターは、旧体制が権力の座に戻ってくるために起こした、必ずしも悪い意味ではなく中立的な意味での「反革命」がかなり成功したのが今回のクーデターである。
 
・エジプトは欧米諸国からの軍事的、経済的援助に依存し、欧米諸国は援助による影響力を行使することでエジプトを安定させ、利益を確保していた。その意味で、欧米諸国には政策の実際面からいえば今回の事件をクーデターと呼びたくない事情がある。

・エジプトでは1割未満のキリスト教徒を除いて、民族や宗派に違いはない。しかし、ムスリム同胞団を支持するタイプとそうでない国民との間に、ほとんど別の国民であるかのような違いがある。
 トルコは、オスマン帝国崩壊後の欧州諸国の干渉をはねのけた強力で有能な軍と、西洋的モデルを急速に受け入れて近代国家機構を構築した司法を中心にした国家官僚層がいて、彼らが世俗主義・政教分離を推進してきた。
 それに対して、エジプトは、イスラム教徒の9割はイスラム主義の主張に親和的だ。筋金入りのリベラル派、世俗主義派は1割ぐらいしかおらず、多数派形成は無理。民族主義と国家主義を重視する軍は、同胞団による権力奪取を強く忌避するという意味ではイスラム主義に敵対的だが、世俗主義を唱導しているわけではない。リベラル派が軍の力を借りて、人口比率よりも大きな政治的権力を一時的に持つようになったというのが13年7月の現象だ。世俗国家を作るというのは、欧米向けの正当化にすぎない。

・ムスリム同胞団が政治的な新興勢力として台頭し、既得権益を脅かされた軍と警察が再結集し、リベラル派が隠れ蓑として利用され、新興勢力が排除されたとの構図。その際に、一時的に欧米向けイデオロギーとして世俗主義が打ち出された。

・今回、エジプトの西洋化した知識人は、直接民主主義の方が間接民主主義より上だと主張した。背景には、〔噂阿琉媚廚鉾紳个任ない軍が怖い7海楼貳峩畭綸なメリトクラシ―を持っているーなどがある。

・民主主義の原則が、軍の裁量によっていくらでも変化するという状況に引き戻されてしまった。結局、エジプトの大衆とインテリが手を取り合って軍に全権を委ねて間接民主主義を崩壊させた。
 
・背景にアメリカの覇権的な地域運営が困難になっている点がある。米国はイラク、アフガニスタンへの介入で多大な犠牲を払ったため、シリア、エジプトについては口先介入だけになっている。

・アメリカは、間接的民主主義のなかにイスラム主義者を包摂すれば彼らが穏健になり、テロもなくなるという構図を描いて、現実を追認してきた。しかし、現実は、イスラム主義勢力が常に多数派を選挙で占め、穏健化するかどうかもわからない状況だ。さらに民主主義の制度外での反乱が恒常化し、軍のような超法規的な手段を持つ勢力が介入することにより、旧体制の諸勢力が一気に復権する展開になった。

・ムバラク政権期まで米国と密接な関係にあった旧体制派が、反米・侮米で気勢を上げながら復権してくる、という米側から見れば困惑するしかない状況だ。
アメリカの覇権後退で、現地の事情で物事が動くようになり、それをアメリカが結局、すべて追認する。今後、数年先までは、こうした関わりが続きそうだ。


 池内によると、今、エジプトで起こっているのは価値中立的な意味での「革命」と「反革命」との激しいせめぎ合いということだ。池内の見立てについては、価値中立的に、もうしばらく判断を留保したい。

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