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「もののけ姫」の洞窟前でのモロの君とアシタカの対話は、このアニメでもっとも心に残ったシーンの一つだった。生存権を奪われつつあったモロの言い分は説得力がある。彼女にパレスチナ・ゲリラやアルカイダが自分には重なって見えた。必死で和解を説くアシタカは反戦運動家? 自分だったのだろうか。結局、森の神は首を奪われ、その首が戻っても再生することはなかった。神は死んだ。アシタカの説く和解は理想にすぎなかったのか。 自分は優れた作品には製作者の意図を越えた社会性・政治性が宿ってしまうことがしばしばあると思う。PLUTOも同様の作品である。「世界のリーダーを自負する」トラキア合衆国は明らかにアメリカ合衆国である。国連を通じ「大量破壊ロボット製造禁止条約」を呼びかけたというその姿は、今のブッシュ政権そのものだ。 「大量破壊ロボット」を隠している、と批判された「ペルシア王国」はもちろんイラク。国連は調査団を派遣するが、その兵器を見つけ出すことができなかった。国王ダリウス14世は圧倒的な軍事力で周辺の国々を侵略(まさにフセインである)。そして戦争が始まる。 その戦争で投入されたロボット達、モンブランも、ノース2号も、ヘラクレスもブランドも大量に敵のロボットを破壊した(殺した)ことで心にトラウマを背負ってしまう。今のイラク戦争でもPTSD(心的外傷後ストレス障害 )を負った兵士が増えている。こんな背景でPLUTOは進んでいく。 原作の手塚治虫の作品を貫くのは一言で言えばヒューマニズム。と書くと、すぐ偽善者とか抜かす奴が出てくる。手塚のヒューマニズムはそんなに甘い人間主義ではない。君は、「ジャングル大帝」レオや、アトムの最後を知っているのか? 手塚の作品でもっとも印象深いのは「アドルフに告ぐ」だ。アドルフ・ヒットラーと、ユダヤ人、アーリア人の3人のアドルフの生涯を描いた傑作である。一見快活そうなアトムやレオにもこの重苦しい作品と共通の空気がどこかに流れているのが手塚作品だ。彼の作品は悲劇で終わる例の方が多いのだ。 浦沢は多分、現実の世界にそのアトムを昇華させて、手塚を超えようとしていこうとしているのではないか。少なくとも2巻を読む限り、彼の試みは成功していると思う。今後の展開を見守りたい。
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本の紹介・書評
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メーデーから帰ってみるとアマゾンに頼んでいた「PLUTO」が届いていた。前から気になっていた作品だったが、一気に読む。傑作である。単行本はまだたったの2冊だ。この案配だと大長編になるのではないか。 浦沢直樹というと「YAWARA!」なんかが有名だが、今まで何かを読み込んだことはなかった。手塚治虫の「地上最大のロボット」というアトムの中でも最高傑作と言える作品のリメイクなのだが、ただのリメイクではない。さらにテーマを掘り下げ、絵も完全に浦沢のものになっている。 時代は未来だが、明らかに米国やイラクを想像させる設定が物語にある。「大量破壊兵器」は「大量破壊ロボット」という具合だ。戦争と平和、生と死を人生・ロボット生(?)の対比を通しながら描いていく。全体は推理もの仕立ての大河ドラマになっている。 アトムがかわいい。全く人間の子供のようだ。ウランも登場。確か原作でも重要な役割を果たすのだが、このリメイク版ではどうなるのか。 久しぶりにこの先の展開をわくわくしながら待てるアニメ作品に出会った気がする。
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その昨夜明石書店から「立川反戦ビラ入れ事件」が届いた。内容盛りだくさんの救援会公式記録集。オフィシャルガイドブックなのである。資料も豊富で、この事件はだいたいこれ一冊持ってれば概要がわかる? 買って下さいね。
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だいぶ準備に時間がかかりましたが、連休の頃に明石書店より「立川反戦ビラ入れ事件」という本が出ます。すでにこの関連では2冊の書籍の紹介を行っていますが、今回は事件の法的な問題点も詳しく指摘し、反戦運動にとっての意味などについても2つの対談を織り込んでおり、なかなかの力作になっています。買ってね!
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右派は北朝鮮の人権問題に「平和団体」などが言及しないという主張をしばしば行う。イラク戦争支持であったり、クルド人難民、ミャンマーやパレスチナ、東チモールでの人権抑圧などにまともに言及しようとしない立場(あるいはそういう抑圧を容認する立場)なら真面目にお相手する必要もないと思っている。 しかし、この問題には明確なスタンスは確かに必要である。前にうちなんちゅの怒りとともに!三多摩市民の会の機関紙に掲載したものだが、書評の形で自分なりの考えを述べたいと思う。 辛淑玉著 定価1800円 解放出版社 四六判 288頁 ISBN 4-7592-6217-2 前半は辛淑玉の半生記。後半は石丸次郎氏に勧められて行った中国・北朝鮮国境付近での脱北者への聞き取り調査の記録である。 後半部について言うなら、石丸次郎氏の「北朝鮮難民」「北のサラムたち」などの脱北者の聞き取り調査をベースにした著作を読んだ人なら内容は重なる。そう新しい話もないだろう。だが、もしその種の本を読んでない人にはかなりショッキングな内容だと思う。 前半に話をうつそう。1965年、北朝鮮に渡った彼女の叔父から毎年届き続けた手紙。助けを求め続けるその手紙に彼女は「もうやめてくれ!私に何ができるというの?」と無視し続ける。その叔父が死んだとき「嬉しかった」「これで何でも語れる」と思ったという。その半生の記録がこれである。 在日朝鮮人・韓国人への差別については社会運動を行うものにとっては広く知られているし、いろいろな差別撤廃のための運動もある。だが、朝鮮学校生への日本人の差別行為について反対しても、その学校の中で北朝鮮のミニ国家が形成され、本国のミニ版のような抑圧もあったことに想いをはせた人がいただろうか。数年前の映画「GO」の中でも、朝鮮学校で日本語を使っただけで生徒が殴られるシーンがあったが、それは別に特別な話ではなかったようだ。 辛淑玉は、ジーパンをはいてきただけで「アメリカのものだから」と言う理由で糾弾され、他の生徒から暴行を加えられた。そして一回目の椎間板ヘルニアになる。 彼女は、日本人からも相当の差別や嫌がらせを彼女は受けている。抵抗し続けるうちにものすごくケンカには強くなったらしい。小学校時代に転校を繰り返すが、新しい学校に行くとクラスで一番えらそうにしている、つまり番長と思われる奴の前に行きいきなり上履きでそいつの頭をたたく。「よろしくな」。この一言で空気が凍り、番長が転校生の女にやられた、と大騒ぎになる。これでしばらくはイジメが来ないそうだ。 さて、2回目の椎間板ヘルニアは革命キャンプというカリキュラムに「バカじゃないか」と口答えし、拒否したことが発端。個人談話室の中で教師数名に、交互に殴られたためである。いい加減日本で暮らすことがいやになった辛淑玉も何回か北朝鮮行きの決意を固めたことがあった。様々な偶然がそれを阻んだ。 日本という国が、在日の社会をミニ国家たらしめる差別・抑圧を行ってきたことを考える上で、あるいは北朝鮮問題を考えるためにも、刺激的な半生記だ。是非とも多くの人に読んでもらいたい本である。(テント村 大洞俊之)
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