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昼下がりの出来事でした。丁度、駐車場から会社の裏手の階段に向かって歩いていた時、階段の入り口の奥の方から「しんどいっ!しんどいっ!」って大きく息を乱した声が聞こえてきました。驚いて、こわごわと近くまで来てみると、それは運送業者さんでした。
頭に白いタオルを巻いて、汗が流れてくるのを止め、真夏と同じ仕様の白いノースリーブ。そして両手には、軍手をはめていました。もしかしたら、このお仕事につかれてから間もないのかもしれません。
フーフーと激しく息を切らしながら車からの大量の荷物を下ろし、台車に積み替えていた途中でした。こんな時間帯に、こんな裏手の階段を利用する人はいないと思ったのかもしれません。その方は、誰もいないと思って、しんどいと声をあげていたのです。「しまったな・・・。」と、見てはいけないような場面をみてしまった私はちょっと目線をそらしそうになりました。
運送業者さんの方にとって、この裏手の階段は大変な場所です。表の緩やかな階段からいくには、関係者以外立ち入り禁止の場所を通過しなくてはならないため、使用できないのです。ですからみんな運送業者さんは、この裏手の階段を利用し、搬送受付の場所にいくことになるのです。
何よりもこの階段は急斜面。慣れた方でも、車から重い荷物を持ち上げ、階段の上り口まで何度も台車に乗せては運び、そしていったん降ろして、階段まで一つ一つ荷物を持ち上げ、用意している上の台車に積み直しては搬送受付に持っていくという作業になりますから、息も切れそうになるくらい、汗だくになってしまいます。
誰もいないと思って「しんどいっ!しんどいっ!」って大きな叫んでいた時、私の姿を目にしたその方は、少し伏し目がちに「ありがとうございます。」と頭をさげた私に、声を出すのも辛そうに頭をさげてくれました。そして「すみません。」と階段ののぼり口にピタリとくっけていた台車を下げてくれました。
そして、その瞬間・・・。
暑かったからだと思うのですが、偶然だと思うのですが、その方は、くたびれた片方の軍手をはずし、その素手を「どうぞ・・・。」と階段の方に向かって指し示してくれたのです。
息も切れがちなその時、しんどくてままならない時、さりげなくこんな行為ができるなんて、この方は何て礼儀正しく、優しい人なんだろうと思いました。なんだか、階段をのぼるのが申し訳ないと思うくらい、恐縮してしまいました。
「お先です。ありがとうございます。」とできる限り、頭を深々と下げたつもりなのですが・・・。どうか、ありがとうという気持ちが伝わっていますように・・・。
声にならなくても伝わる優しさに出会えてよかったと思いました。手を指し示すだけで伝わってくる人の優しさを、間近に感じることができてとても嬉しかったです。あたたかい一瞬をどうもありがとう・・・。
Photo by SSA
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