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町は師走の空気一色です。どこともなく、急ぎ足の風が背中を押しているような気がする、そんな毎日です。
町の店頭では、クリスマス、おせちの予約、そして、年賀状のお知らせの広告も、目立つようになりました。年賀状の広告の横を通り過ぎた時、ふと、ある年賀状の思い出が、よみがえりました。
学校に行っていた頃のことでした。何か月かに一回の席替えのくじびきが終わった後、横をみると、そこには、先生には反抗がちで、髪を染めて、変形した制服を着たクラスメイトが座っていました。最初は、正直、ちょっとこわいなぁ・・・って思いました。
ある日、学校に、全員提出しなければならない用紙がありました。授業中、その用紙を書き終えて横を見ると、筆記用具で、紙をたたいているその子の姿が目に映りました。「書きたくないことがあるのかな?」と思いましたが、よく見ると、どうやら消しゴムを忘れているようでした。
予備の消しゴムをひとつ持っていたので、渡してあげようかと随分迷いました。「余計なことするなよ!」って怒らせたら悪いかもとか・・・。でも、書かないと困る用紙だし・・・だとか・・・。私は、思い切って「あのぉ・・・」と声をかけました。その子は「何っ!」っていいましたが、「消しゴム・・・」っていったら、「あぁ!」って言って受け取ってくれました。
外はたしか冬でした。十二月の冬でした。あの時の窓の外の景色のことも、教室の中の温度のことも、ほとんどど覚えていません。でもたしかに十二月の冬だと覚えていました。それからの何週間後かに、とてもかわいい、晴れ着姿の女の子のイラストの入った一枚の年賀状が、私の家に送られてきたからです。差出人は、消しゴムを渡したその子からでした。どうやら、人を通じて私のアドレスを調べ、寒い中、わざわざ投函してくれたようです。
勇気を出してよかったと思いました。小さな消しゴムがきっかけで、まさかこんな気持ちに出会えるなんて、予想もしませんでした。あまり学校に顔を出すこともなかったクラスメイトだったのですが、こんな、何の面白味もない私に、とっても優しくしてくれて、ありがとうって思いました。こんな小さなことでよろこんでくれる、その子の優しいお人柄に出会えることができて、心から嬉しい気持ちになりました。
今年も十二月になりました。町の店頭のあちこちで、年賀状販売のお知らせの旗が風に揺れています。いろんな人が、その横を通り過ぎてゆきます。小さな勇気がきっかけで、人の優しさに触れることのできる嬉しさを、教えてくれたクラスメイトのことを、ふと、思い出しました。
あれから、小さな勇気のおかげで、人の素顔の優しさに出会えたことが、何回かありました。あの日の出来事は、小さな出来事ではありますが、私にとっては、おろしたてのマフラーのように、あたたかい心の思い出です。
Photo by SSA
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