わたしが、もし子供ならば、自ら花など求めもしなかったろう。
まして、派手なわりに地味な椿なんか、
なんの興味もなかった筈だ。
時は過ぎ、わたしはオジサンになった。
相変わらず、空想は容易い(笑)
今日はまた、来客がある。
さて、空想は便利だ、意地悪く、子供の頃の自分に、
『おこずかいをあげるから、山に行って椿を採って来てくんないかな』って、
頼んでみた。
返事の代わりに、コックリ頷き、右手を差し出す様は、なんとも可愛げがなく、少しがっかりしが、
財布から千円札を出して渡すと、ニヤッと笑っただけで、礼も言わずすっ飛んで行く。
あんなに走ることも無いだろうに、そう思うとまた、…とほほ、少しあきれてもしまった。
オジサンが、自分の何十年後だと知らない、子供の頃の自分は、
時折ズボンのポケットに突っ込んだ、千円札を確かめながら、一目散に走っている。
走っていながら、グルグル考えもしている。
『オジサンは、どこんち(どこのお家)のオジサンかな?
千円だから、きっと沢山欲しいんだろうな。
今すぐに欲しいんだろうな。…でもなんで欲しいんだろう。』
椿の林に着くと、辺りを見渡しながら、息を整えた。
地べたに散らかる、赤い花を知らず識らず踏みながら、
どんどん木と樹の間を縫って、奥に分け入る。
どんなのなら喜ぶんだろうと、一本二本、左手が塞がり、そのうちかいなも塞がった。
そろそろ帰ろうと思う反面、もっと分け入ると…と思い、右往左往が止まらない。
『こんだけあると、きっと喜ぶぞ!』
抱えきらないほどの手折った椿で、ついには両の手が、塞がってしまった時、
それまで摘んだ椿とは、なんだか様子が違う花に出くわしてしまった。
『なんか地味だけど、見方によっちゃ派手だな〜!』
子供の頃の自分は、しばらく思案しているのか、頭を心持ち右に傾げていたが、
『なんまいだ〜!』溢れかえる胸の椿を、惜しげもなく、思いっきりあたりに放ったらかした。
そしてバサッと音をたて広がる枝えだを避け、ゆっくり近づくと、その椿の樹を仰ぎ見た。
ドリフとV3、そしてクラスの○○ちゃん以外興味が乏しいとはいえ、さすがに見事だと思った。
林の中は、更に薄暗く、もう時間も相当経っている。
目星をつけ、綺麗に咲ききった枝を、3・4本手折ると、
あっけなく踵を返し、林を抜け、山を駆け下りた。
わたしは、息を弾ませ、汗ばんだ手から渡された、椿に一瞬がっかりしたが、
大人気ないと気を取り直し、ちょっと間を置いて言った。
『ありがとう、花びらが散っちゃってるけど、…大変だったね』
子供の頃の自分は、その間が気になり、恐る恐る尋ねた。
『だめなら、また行ってくるけど…、沢山採ったんだけど、持てないから捨ててきたんだ』
『折ってから、捨てたの?』
咎められたと、感じたのか、ポケットから何か掴んで、渡そうとする。
『いいんだよ、蕾みもあるし、これで充分だよ』
人は少しずつでも変わるんですよね。
そうするとあわせて、嗜好も変わるんだと思います。
飾った瓶は、その日の来客の目を、楽しませてあげられなかったけど、
今開ききった、この大振りの花を見ているとどうだろう、妙に綺麗に見えて、ひきつけられる。
昨日までは、もっとすぼんだ椿が好きで、
ほんとはその椿を、望んでいた筈なのに。