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判例分野で、今年、印象に残ったのは
裁判員裁判において
死刑が求刑された事件でした。
鹿児島地裁では、
状況証拠しか存在しない
強盗殺人事件について
無罪が言い渡されました。
押尾学被告人の事件でも
保護責任者遺棄「致死」の訴因に対し、
遺棄行為と死亡結果との
相当因果関係が否定され、
保護責任者遺棄罪どまり、の判決でした。
その一方で、死刑判決が下された事件も
ありました。
裁判官が、判決言い渡しの最後に、
控訴を勧めた、という点でも
話題となり、このブログでも紹介しました。
来年は、裁判員裁判の判決に対する
控訴審の判決が、
このような注目を集めた事件について
続々と下されることになるので、
その点に注目です。
他にも、来年には
1票の価値の不平等について
全国で提起されている選挙無効訴訟が
いよいよ最高裁で判決が下されます。
政治的に、参議院の位置づけが
議論される年でもあるでしょうから、
参議院議員選挙でも、1対2を超える格差は違憲、
といった画期的な判断が下されないものか、と
期待をしている今日この頃です。
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判例紹介
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久しぶりに「判例紹介」のカテゴリーです。
以前(といっても、2年以上前の記事でしたが)、
「私的録音録画小委員会」というタイトルで、
補償金制度について説明をしていましたが
(⇒記事はこちら)、
この補償金支払をめぐって、
私的録画補償金管理協会が
東芝を訴えていた事件の判決が昨日、
東京地方裁判所で下されました。
補償金制度そのものの説明は、
以前の記事を読んでもらうことにして、
今回の判決の解説をします。
判決は、デジタルDVDレコーダーが
「著作権法施行令が定める
補償金徴収の対象機器に当たる」
と認定したにもかかわらず、
私的録画補償金管理協会の支払請求は
退けています。
著作権法104条の5が、
前条第一項の規定により指定管理団体が
私的録音録画補償金の支払を請求する場合には、
特定機器又は特定記録媒体の製造又は輸入
を業とする者(次条第三項において「製造業者等」という。)
は、当該私的録音録画補償金の支払の請求
及びその受領に関し協力しなければならない。
と定めているうちの「協力」という文言を解釈し、
強制力(裁判に訴えて債務名義を得て、強制執行する)は
無い、という結論を採りました。
そもそも、映像なり音楽なりには
全て著作権が発生しているので、
複製することは出来ないはずです。
しかし、実際問題として、音楽やTV放送の
複製(古くはカセットやビデオテープ。
最近はiPodやMP3、HDやDVD)は
広く行なわれている行為であり、
単に禁止をしてみても実効性が無いですし、
誰も守らないルールを定めておくことは、
法の権威を損なうことにもなるため、
「個人的に又は家庭内その他これに準ずる
限られた範囲内において使用すること
(以下「私的使用」という。)を目的とするとき」は
複製を作ってもよい、と定めています。
これが30条1項です。
そして、続く2項では、
私的使用を目的として、
デジタル方式の録音・録画の行なう機器
(政令で定めるのの)によって、
デジタルの記録媒体に録音・録画を行なった場合には、
「相当な額の補償金」を著作権者へ
支払わなければならない
という義務が定められています。
この条文をしっかりと読むと、
補償金を著作権者へ支払うべき人は、
製造メーカーではなく、複製を行なう個々の消費者である、
ということが分かります。
しかし、酒税やタバコ税の徴収を、
最終消費者から1人ずつ行なうことが
現実的に不可能であるのと同様に、
DVDレコーダーを日々使っている人から、
その利用頻度に応じて
補償金を徴収することは実際には不可能です。
そもそも、著作権者(作曲家・作詞家、
TV番組のプロダクション)1人1人がお金を
集めることも無理なので、
私的録画補償金管理協会が権利者の代わりに
補償金の徴収業務を請け負っています。
これは、著作権法104条の2が定めています。
問題は、この後の条文であり、
録画機器を購入した消費者から
補償金を徴収する役割を担うのは、
本来的に管理協会であって、
製造業者に、製品価格へ補償金を上乗せして
徴収してもらって、それを管理協会が受け取る、
というルートはあくまで例外、となっています。
104条の4が、管理協会自身の徴収権を定めている一方で、
104条の5は、あくまで協力義務となっています。
管理協会側は控訴する、との方針が
報道されていますが、著作権法を改正しない限り、
裁判所としては「協力義務」に過ぎない、
との判断しか下すことはできないと思います。
CDが売れなくなって、
企業は広告宣伝費を削り、
TV局はCMスポンサーが減って、
プロダクションは更なる経費削減を要求されている中、
電機業界からの補償金徴収が見込めない、
となると、従来の仕組みは
早晩、機能しなくなっていくことでしょう。
一握りの才能あるアーティストは、
プロダクションが企画を考え、
宣伝活動を行なって、
コンサートやグッズ販売などで稼ぐ、
という従来型のやり方ができるものの、
多くのミュージシャン、番組制作会社は、
消費者と直接のつながりを作って、
中抜きをされない形で、
制作に見合うだけのお金をもらっていく、
という仕組みへ移行せざるを得ないのではないか、
と思います。
消費者とのやり取りを積極的に
楽しむことができる才能を持つ人でないと、
この新しい仕組みには乗っていけないと思うので、
ますます「コンテンツからコミュニケーションへ」の動きが
加速しそうな、そういう象徴としての判例だな、と感じました。
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諫早湾の干拓事業について、
月曜(6日)に高等裁判所の判決が
下されました。
この干拓事業は、
最初の計画が作られたのが
1950年代、とのことですので、
お役所で計画を作った人も、
決定をした政治家も、現役としては
誰も生き残っていないでしょう。
ただ、実際に工事が着工されたのは
1989年で、問題となっている「堤防の閉め切り」は
1997年から、そして、
干拓地への入植は2008年から、
ということなので、今でも多くの利害関係者が
存在しています。
堤防の閉め切りによって、
干潟が消失し、潮の満ち引きが小さくなったことで、
赤潮の発生が促進され、
生態系に悪影響が生じるのではないか、
という懸念は、工事着工当初から
言われていたそうです。
今回、高等裁判所においても、
3年間の猶予期間を経た後、
堤防の常時開門(干潟の生態系を元に戻し、
かつ、堤防閉め切りと漁業被害との
因果関係を調査するための期間として、
5年間)を継続することを
命じる判決が下されました。
民主党も、以前は、開門を強く主張していたはずです。
今回、上告をすると、最高裁での判決が出るだけでも
1年くらいは経ってしまうでしょうし、
もしかしたら、差戻しがされて、
さらに、1年くらいかかって、結局、
猶予期間が2年短くなって、
「1年後には開門せよ」という判決が出るかもしれません。
裁判所も、そして、国の訴訟担当の官僚も、
税金で運営されているのですから、
地裁と高裁のいずれも、住民側の主張が通った
裁判については、よほどの事情が無い限り、
最高裁へ上告することはせず、
判決の趣旨に沿って、排水設備の改善や、
開門後の防災機能の維持などに
早急に取り組んで、開門時期を早めるようにした方がよいな、
と感じます。
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今日、足利事件の再審で無罪判決がありました。
菅谷さんが自白に追い込まれた原因の1つは、
DNA鑑定で、犯人のものと思われる体液と、
菅谷さんのDNAが一致した、という結果を
捜査官から伝えられたことで、
否定しても無駄だ、と感じてしまった、と言われています。
司法研修所時代に、科警研に見学に行って、
DNA鑑定の仕組みを教えてもらったことがありました。
その当時の記憶もたどりつつ、
生物の教科書&下級審裁判例から、
DNA鑑定の仕組みを解説してみます。
そもそもDNAは、
G・C・A・Tと略記される
塩基が約30億(文字)
組み合わさって作られています。
30億もの情報をすべて解読することは 時間的に不可能です。
膨大な情報の中から、特定の部分を浮かび上がらせて、
個人差を識別する必要があります。
そこで、PCRと呼ばれる方法が
用いられているそうです。
プライマーと呼ばれる20文字程度の
短い人工のDNAを用意します。
このプライマーを使って、試験管内でDNAを増幅させます。
プライマーは特定の遺伝子部分とだけ合成し、
その合成反応でその部分だけが2倍になるので、
反応を20回ほど繰り返せば、
2の20乗でおよそ100万倍に増幅されます。
この増幅される特定部分のパターン
(バンド・パターン、と呼ばれるそうです)に
個人差があり、現在の技術であれば、
同じパターンを示すのは、
何兆人に1人、という精度であるそうです。
しかし、足利事件の鑑定がされた1991年当時では、
上記のPCR法が確立されていなかったようで、
「千人に1人」程度、と精度が低く、
DNA鑑定はあくまで参考証拠の1つとして考えるべき性質の
ものであったのに、当時の捜査機関・裁判所は
ともに「科学的証拠」を偏重してしまったのです。
なお、最近の刑事事件では、
DNA鑑定の結果について信用性に欠ける、との
意見が弁護側から出されることもあり、
裁判所としては、DNA鑑定の証拠能力を判定する際に
以下の2つの基準を用いています。
1 認知・分析の基礎原理に科学的根拠があること
2 その手段、方法が妥当で、定型的に信頼性のあること
PCR法で増幅の標的となる部分は、
ヒトの第一染色体のMCT118部位 に位置します。
この部位では、特定の塩基配列が反復しており、
その反復回数が人により様々に異なっています。
その反復回数の違いを判定するために、
以下のような手法が採られます。
検査資料の細胞から蛋白質等を除去してDNAを抽出
↓
これを加熱してDNAの二本の鎖を解離させる
↓
特定の塩基配列を持ったプライマーを
MCT118部位に結合させて
同部位を探し出し、その部位を複製して増幅
↓
増幅生成物をゲル上で電気泳動にかける
↓
短い(反復回数の少ない)DNAほど
ゲルの網目をすり抜けて早く動き、
長い(反復回数の多い)ものほど遅くなる。
↓
反復回数の多いものから少ないものへ、
順に縦に一列に並び、帯状のバンドパターン
が生ずる
↓
これを画像解析装置で分析し、
特定塩基配列の反覆回数を算出
染色体は父母それぞれに由来するので、
この鑑定によって、
一個人につき二つのDNA型が読み取られます。 例えば、反覆回数16回と26回の遺伝子対
を持つ個人のDNA型は、16―26型と表示されるそうです。
以上のような手順を確認した上で、裁判例は、
MCT118法による型判定の検査試薬キットが
市販されていて、大学などの専門機関が右キットを購入し、
分子生物学、遺伝生化学などを修学した者が
マニュアルにしたがって作業をすれば、
同方式による型検出ができる段階にまでなっていること
を根拠として、
MCT118法によるDNA型鑑定は、 一定の信頼性があるとして、専門家に受容された手法である
としています。
を担当した者の経歴から見て、
多数のDNA型判定を経験し、
また、
同判定に関する論文も著すなど、
DNA型判定に必要な専門的知識、技術と
豊富な経験を持っていることが認められ、
かつ、
本件の鑑定作業に特段の遺漏
があった事跡は窺われない
として証拠能力を肯定する流れが一般的です。
長々と説明しましたが、
こういう科学的証拠を文字で説明するのは
非常に難しいので、
今後の刑事裁判では、文字以外で、
ヴィジュアル的に証拠能力を説明していくことが
求められるのではないか、と思った次第です。
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最高裁が、 市有地を神社に無償で提供することは 政教分離原則に違反する、 との判断を示しました。 当然過ぎる内容なので、 試験で出題される可能性は低いと思いますが、 公有地上に宗教施設がある例は 全国的に多いようなので、 今後、各自治体で対応が必要となります。 なお、住民側(原告)は、 政教分離原則違反の主張とともに、 神社の撤去を命じる判決も求めていました。 しかし、撤去を強制すると、 氏子らの信教の自由が侵害される、 と判示したので、 政教分離原則違反の解消は、 ・利用料を払ってもらう 有償提供の形へ変えるか ・地元のコミュニティ的団体 (町内会など)に土地を譲渡し、 市有地でないようにするか いずれの方法が示唆されています。 後者については、同日、 砂川市が市内の「富平神社」の敷地を 地元の町内会に無償で譲渡したことの是非 についても判決が言い渡され、 こちらは ・もともと、この敷地が町内会所有で、 町内会から寄付されたものであり、 ・譲渡によって違憲状態が解消される という点から、合憲と判示されました。 そこで、違憲状態の解消方法として
土地の譲渡、という手段が 示唆されていることになります。 |
