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今日、紹介する判例(最判平成20年7月4日)は 「被害者側の過失」に関するものです。 ご存知のように、 過失相殺の際に、被害者以外の者でも 被害者と身分上・生活上、一体の関係 にある場合には、その者の過失を 「被害者側の過失」として考慮できます。 本件は、バイクの暴走行為を2人乗りで 行っていたところ、 暴走行為を取り締まるため バイクの前方の車線にて、車線をふさぐ形で 警官がパトカーを止めたところ、 バイクを運転している方が 別のパトカーに気を取られ、わき見したために 車線をふさぐパトカーに正面衝突し、 同乗者が死亡してしまった という事案です。 死亡した同乗者の両親が、 パトカーの運行供用者(自賠法の概念)である 県を被告として、損害賠償を求めた事案です。 パトカーを車線をふさぐ形で停車した行為は 危険性が高いとされたものの、 過失割合としては、 暴走行為をした運転手が6割、 警察官(県)が2割、 死亡した同乗者(被害者)の過失が残りの2割、 という認定でした。 ここで原審(広島高判岡山支部平成19年6月15日)は、 運転手は死亡した被害者と 身分上・生活上、一体の関係にあるとはいえず、 運転手の6割の過失を斟酌することはできないので、 損害額の8割を賠償するよう県への請求を認めました。 しかし、上告審は、 以下のように述べて、運転手の過失を 同乗者側の過失として考慮し、 県に対する損害賠償額を認定すべき、 との判断を示し、原審を破棄して差し戻しました。 本件のような事案は、 暴走行為における同乗者被害型という 類型化が可能です。 そして、同乗者が自動車の所有者であった場合や、 同乗者の指示で運転を替わっていた、又は ときどき交替しながら運転していた場合には、 従来からも、下級審では 同乗者からの損害賠償請求訴訟において、 運転手の過失を「被害者側の過失」として 斟酌していました。 したがって、 「被害者側の過失」を認定する基準として、 被害者と身分上・生活上、 一体の関係にあることを用いるのは、 被害者が幼児で、 事理弁識能力(過失相殺能力)に欠ける場合に その保護者の過失を斟酌するため、であって 同乗者被害型においては、 別の基準を用いるべき、ということになります。 具体的には 損害を発生させた危険な活動に 同乗者が運転手と共に 積極的に参加していた場合に 「被害者側の過失」として 運転手の過失を斟酌するのです。 このように、
「被害者側の過失」の判断基準が 事案によって異なることを 明らかにした点に 本判決の意義があります。 |
判例紹介
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突然ですが、クイズです。 暴行・脅迫によって 被害者が反抗できない状態 (縛ったり、気絶させたり)に して、無理やりセックス等した場合と、 暴行・脅迫によって 被害者が反抗できない状態にして 財布を盗んだ場合とで 日本の刑法は、どちらを重く処罰している でしょうか。 答えは…… 財布を盗んだ方 です。 強盗罪が5年以上(20年以下)の懲役刑で、 強姦罪が3年以上(20年以下)の懲役刑なので、 法律上(法定刑)は、暴行・脅迫によって 財産を強取する方が、 女性を犯す行為よりも重いのです。 もちろん、判決としては、 20年以下で期間を定めることができるので、 1万円が入った財布を盗んだ行為よりも、 強姦犯の方が重い刑罰(長い懲役刑)となります。 さて、東京高判平成20年3月19日は、 強姦罪の途中で財物奪取を行った者を どうやって強盗罪認定して 重く処罰するか、という理論構成に 苦心した裁判例です。 姦淫目的で女性宅へ侵入し、 被害女性の顔面を殴打し、目隠しして、 両手首を後ろ手に縛った上、 わいせつ行為を行い、その途中で 鳴り出した携帯電話をポケットに入れ、 被害者宅から逃走する際に見つけた 下着を持ち去った という事案です。 鬼畜のような行為ですが、 弁護人としては当然に主張しなければ ならない論点があります。 すなわち、 被告人は当初、わいせつ行為の目的しか 有しておらず、 財物奪取意思を生じたのは、 被害者は目隠し・縛られた後であって、 財物奪取意思に基づく新たな暴行・脅迫 があった、とは言えず、 強盗罪は成立しない、という主張です。 この論点は、学説上、盛んに 議論されていますが、 最高裁の判断は出ていません。 昭和19年に、大審院が 自己が作出した被害者の 畏怖状態を利用して財物を取得する 行為は、強盗罪に当たるとして 不要説を採用したものがありますが、 下級審の多くは、現在では、 財物奪取意思が生じた後に、 その意思に基づく暴行・脅迫があって初めて 強盗罪が成立する、 という必要説の立場に立っています。 学説上、必要説内部で細かい争いがあります。 財物奪取意思が生じた後の暴行・脅迫は 程度が軽いものでよく、 それ自体で反抗抑圧できる程度でなくても、 すでに存在している反抗抑圧状態を 継続できる程度でよい、という見解が 通説です。 これに対し、この見解からすると、 強姦罪のように被害者の意思抑圧が 大きい場合、犯人がその場にいるだけで 無言の脅迫になる、として ほぼ不要説と同じ結論となる、 という問題点があります。 そこで、町野先生などは、 反抗抑圧状態を維持するだけでなく、 それを強め、又はその解消を阻止する 暴行・脅迫が必要である、との 見解に立っています。 この見解からは、本件では窃盗罪 にとどまることになります。 さて、東京高裁は、 一般人の感覚に合うものです。 曰く、 ・緊縛された状態にある被害者は、 一切の抵抗ができず、被告人の なすがままにまかせるほかなく、 被告人が財物奪取意思を生じて財物を 奪取しても、なすすべが全くない状態は 変わりがないのだから、窃盗にすぎない という結論は不当である。 ・被告人が被害者に対して 「これを寄越せ」等と言って財物を取得した 場合に強盗罪が成立するのであれば、 緊縛され問答無用の状態にある被害者から 財物を奪った行為が強盗罪でない、 というのは到底納得できない といった「実質論」の理由付けの下、 強盗罪を認定しました。 この裁判例は、一般人の感覚には合いますが、 刑法が強盗罪を強姦罪よりも 重く処罰していることの理由と 整合するのか、という疑問があります。 刑法が、強盗罪の方を重く処罰しているのは、 女性を犯そうとする動機よりも、 他人の財産を奪おうという動機の方が、 一般的で、かつ犯罪への誘惑が強いので、 刑法をもって禁圧する必要性が高いから と説明されます。 このような説明からは、 まさに「財物奪取」を目的とした 暴行・脅迫が行われるからこそ 強盗罪を重く処罰することを 正当化できることになります。 以上のような観点から見ると、 東京高裁が、 強盗罪を認めなければ性犯罪等の 被害者が可哀想である、という 一般人感覚を重視したことは、 結局、 財産犯に当たらない限り、 重く処罰できないという 現行刑法の「問題点」を そのまま現状維持し、その上で、 目の前の事案に妥当な結論を出そうとしたもの と言えます。 裁判所は、基本的に 民主的なコントロールが及ばないので、 立法に関わることは避けるべき、 と言われます。 しかし、個人的意見としては、 今回の判決の中で、 強姦罪や強制わいせつ罪の 法定刑の下限が3年となっていて、 強盗罪よりも軽い法定刑となっていることの 問題点を正面から問題視した上で、 窃盗罪にとどまる、との判決を下していたら、 刑法改正へ一石を投じる結果となったのでは、 と思います。 明日は、民法の最判平成20年7月4日です。
過失相殺における「被害者側の過失」に 関する判例を紹介しましょう。 |
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予告どおり、最判平成20年3月6日を 解説しましょう。 この判決の事案は、 住民基本台帳ネットワークに 本人確認情報 (氏名、生年月日、性別、住所、 住民票コード、変更情報)が 蓄積されることによって、 「プライバシーにかかる法的利益」 が侵害されると主張し、 「自己情報コントロール権」に基づいて 住基ネットから自己の住民票コードを 削除するよう請求した事案です。 原審(大阪高判平成18年11月30日)は、 行政機関が、住民票コードを用いて データ・マッチングや名寄せを行う 具体的な危険性がある、として 住民票コードの削除請求を 認容しました。 これに対して、最高裁は、 以下のように述べて、 原審を破棄するとともに、 請求を棄却しました。 ・住基ネットによる本人確認情報 の管理・利用は、正当な行政目的の範囲内で 行われている ・本人確認情報の目的外利用や 秘密の漏洩は、懲戒処分や刑罰をもって 禁止されている ・本人確認情報が正当な行政目的を 逸脱して第三者に開示又は公表される 具体的な危険が生じているとはいえない 以上の理由から、 住基ネットに本人確認情報を 蓄積する行為は、 個人に関する情報をみだりに 第三者に開示又は公表するもの ということはできず、 当該個人がこれに同意していないとしても、 憲法13条に反するものではない との結論を導いています。 最高裁と大阪高裁とで決定的に違うのは、 統一的なコードを住民へ付与することに 伴う具体的危険性を、 誰が立証すべきなのか、という点です。 大阪高裁では、 行政の側で、「具体的危険がないこと」を 立証すべき、との見解であるのに対し、 最高裁は、 「具体的危険の存在」を住民側で積極的に 立証すべき、という見解です。 確かに、通常の不法行為の発想で考えれば、 権利侵害を主張する者が、 損害(危険性)を立証すべき、 ということになります。 ただ、実際にどのように 情報が管理されているか、 は外部からは窺い知れないのであって、 立証責任を住民側に負担させてよいのか 疑問ですし、そもそも、 住民票コード削除を認めた場合の 行政が負うコストと、 当該住民が得る利益を比べると、 後者が大きいのではないか、と思います 行政機関が負担するコストは、 デジタルでの管理ができずに、 アナログ的な管理しかできなくなること です。 これに対して、 当該住民は漠然とした不安感を 抱いているのであり、 この不安感を解消できる利益は、 当該住民の内心を基準とする限り、 かなり大きいのでしょう。 そして、不安感解消のためには、 住民票コードを削除する手法が 最も手っ取り早いのであって、 認めてあげても良かったのに、と思います。 もちろん、1人に削除を認めると、 俺も、私も、という形で 削除を求める人が増えてしまって、 住基ネットが機能しなくなる、 という恐れもありますが、 削除の申請手続きをそれなりに面倒かつ、 アナログ管理しなければならないコストの一部を 手数料として、毎年徴収するようにすれば、 実際に削除を申請する住民は ごく少数になるでしょう。 電子行政の推進も大事ですが、 デジタル化には加入したくない、 アナログ管理でいい、という自由 を認めてあげてもよいのに、 と思う今日この頃です。 さて、明日は、
暴行後に領得意思が生じた場合の 強盗罪の成否に関する、 高裁の裁判例を紹介します。 |
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今年と来年で、旧司法試験が 終わってしまいます。 2011年から、予備試験が始まるとはいえ、 新司法試験は受験回数制限があるので、 ロングランで弁護士へ 挑戦し続ける、ということができるのは、 来年まで、ということになります。 まず、第一関門である択一試験が 5月10日に行われます。 あと10日ですので、 憲法・民法・刑法の3科目について、 今日から10日間連続で、 重要そうな判例の解説をしていきます。 まずは、民法です。 平成20年度の重要判例解説 の1番目に掲載されていますが、 誤振込みされた金銭についての 口座名義人(受取人)による 預金の払戻請求が権利濫用に該当するか否か (最判平成20年10月10日) です。 ご存知のように、 誤振込みされた金銭について、 振込みの原因となる法律関係が不存在であっても 受取人と銀行との間には、 振込金相当額の普通預金契約が成立します。 (平成8年の最高裁判決) その結果、 受取人に対する債権者が、 誤って振り込まれた分を差し押さえても、 誤振込みをした者はその差押えに対して 第三者異議の訴えを提起することはできません。 これが択一知識です。 この知識を前提に、上記平成20年の最判を解説します。 まず、事案は、 原告Xの夫Zが1100万円の定期預金を 有していたところ、 Z及びXの両方の通帳や印鑑を盗んだ者が、 Zの定期預金を解約し、 1100万円をXの普通預金口座へ振込み、 その後、Xの通帳等を用いて 1100万円を引き出した、というケースです。 第1審は、この1100万円の引き出しについて 478条(債権の準占有者に対する弁済)を適用し、 盗人へ支払った銀行側に過失があるとして 免責を否定しました。 第1審は、Xの銀行に対する1100万円の請求を認めたのです。 しかし、第2審は、 Xの銀行に対する払戻し請求は、 X固有の利益に基づくものではなく、 権利濫用に該当する、として Xの請求を退けました。 この結果は、一般的な感覚からすると 奇異に感じます。 ・XとZは別人格だから、Xが銀行から交付を受けても、 Zへ1100万円が支払われる法的な保障がない ・誤振込みの解消はZの口座への組戻し によって行うべきだから、 XがZに対して負担する不当利得返還義務 の履行手段としてXの請求を正当化できない といった第2審の根拠は、 「頭の体操」としては 面白いかもしれませんが、 現実的な事案の解決からは、採り得ないでしょう。 その意味で、この最高裁判決は、 第2審が無理に採用した権利濫用論を否定したに すぎず、それほどの意義はないとも思えます。 ただ、仮に、 本件でXとZの夫婦関係が破綻していて、 Xが盗人と共謀し、 Zの定期預金から1100万円を盗み出そうとした、 といった事案である場合には、 Xが預金の払戻しを銀行へ請求すること自体を 否定する必要性が生じます。 そのような観点からは、本判決が、 振込依頼人と受取人との間の原因関係が 存在しない場合において、 受取人が、預金の払戻しを請求することについて、 払戻しを受けることが当該振込みに係る金員を 不正に取得するための行為であって、 詐欺罪等の犯行の一環をなす場合である等、 これを認めることが著しく正義に反するような 特段の事情がある場合には、権利の濫用に該当する とした部分には、一定の意義があると思います。 択一試験との関係では、平成8年判決の結論を 押さえておいてください。 明日は、住民基本台帳ネットワークシステム
(いわゆる「住基ネット」)と プライバシー権(自己情報コントロール権)との 関係に関する、最高裁判例を紹介します。 |
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以前、このブログでも紹介しましたが、 貸金業法改正によって 今年から国家資格となった 「貸金業務取扱主任者」の第1回試験が 8月30日(日)に実施する予定であることが 発表されました。 日本貸金業協会は、 指定試験機関として内閣総理大臣の指定を 受けるために、現在、準備を進めている最中であり、 あくまで「予定」ではありますが、 他に実施機関の候補はありませんし、 初年度である今年は、複数回の実施を予定しているので、 8月実施というのはギリギリのタイミングです。 最終的には、5〜6万人規模の 受験者になると予想されています。 どんなに早くても 試験実施から発表までは1ヶ月程度 かかりますし、 複数回実施する狙いは、 初回試験で不合格だった人に 再チャレンジの機会を与え、 主任者の人数を確保する点にあるので、 発表から出願までの期間がある程度は必要ですし、 何より、現在の盛り上がりを見ていると、 8月の初回よりも、 2回目以降の方が「切羽詰った」受験生が 駆け込みで受験するはずなので、 出願を締め切った後、 受験会場を確保する時間が必要になります。 以上を勘案すると、 9月中に合格発表、 10月中旬には第2回の出願開始、 10月末には締め切って、 年末年始のどこかで第2回の試験実施 というスケジュールが最速だと思います。 試験合格者の主任者を 1営業所に最低1名、 来年6月以降は必置が義務付けられるので、 合格者数の状況によっては 来年4、5月に第3回実施があり得る とも思えます。 今年1番ホットな試験の本命、
と見ています。 |
