ウトゥディールものがたり

本を読む時間、なくなってしまうのは悲しい

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肉体の冠

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ある大工がレストランでレイモンという旧友に出会う。レイモンはやくざ仲間と女たちと同席しており、大工を彼らに紹介する。大工はマリーという女と恋におち、ダンスを踊る。マリーの男はそれを快く思わず、大工の座ろうとした椅子を引いて大工を転ばしたり、なんだかんだといちゃもんをつけたりする。大工は怒り、間髪をいれず彼の顎をアッパーカットする。数日後、大工はマリーと酒場で再び相まみえ、居合わせたやくざのボスに「マリーをもらいにきた」と宣言する。ボスは、マリーの男と大工を一騎打ちにさせる。大工はマリーの男を刺し殺し彼女をものにするが、通報を受けた警察に追われる身となってしまう。しかし逃げおおせた二人は川岸のおばあさんの家で、束の間愛をはぐくむこととなる。一方、マリーを自分の女にしたかったボスは姦計を図り、大工の旧友レイモンを殺害の犯人に仕立て上げてしまう。知らせを受けた大工は旧友を救うため、警察に自供してしまう。護送馬車のなかでレイモンは、大工に「マリーを自分のものにしたいがために、俺に無実の罪をかぶせたのはボスだ」と告げる。二人は駆け付けたマリーの助けで護送車から逃げ出すが、警察の発砲によりレイモンは命を落とす。復讐心に燃えた大工はボスを探す。ボスの家に殴りこんだ彼は、ベッドの床にマリーの室内履きを見つける。怒りたけり家を飛び出した矢先ボスと相まみえた大工は、警察署に逃げ込むボスを追いかけ自らも署に飛び込み、そこにあった警官用の銃で、ボスをめった撃ちにする。1発、2発、3発、4発、5発、6発。すべての弾を撃ち込まれたボスはあえなく絶命し、大工は逮捕され、ギロチンで処刑される。
 おかしな映画だ。ひとを殺すときとか愛してやまない女を寝取られたと知ったときとかに、普通の人間が表すであろう感情表現が、大工には完全に欠如している。マリーの男を刺し殺す時も、ボスに銃弾を撃ち込む時も、彼は眉ひとつ動かさず所業を遂行するだけである。躊躇いがないのである。マリーと恋に落ちるにしても、長年世話になった大工の店を後にするにしてもあまりにあっけなく、自分の追い込まれた状況に不安がる様子もない。最期にギロチンにかけられるとき、ぐちゃぐちゃになった服をだらしなく着て引っ立てられている折にすら、彼の表情には恐怖も後悔も、あるいは諦観すら認められない。マリーにしてもそうである。憎んでいたにしろ、自分の男を殺されてその次の瞬間にはその殺した相手の男と手を取り合い出奔するなど、少し考えられない情の薄さだ。なにかおぞましい、恐ろしい思いを残す映画である。ところどころ、ルノワールを彷彿とさせる美しい自然の情景が折りこまれるのが、よけいに人間の行為の尋常でないのを浮だたせる。エンドロールが流れるあいだ、後ろで大工とマリーのくるくると踊るのも、おかしい、おかしい、あまりにも早すぎる。それはもはや楽しみのダンスではなく、神経症的で強迫観念めいた一個体の回転としか見られない。大工の非人間的な衝動性、冷血さについて、私たちはレイモンの言葉から「感化院で長年を過ごした」という手がかりしか得ることができないけれど、生い立ちなど関係なく、ただ、その姿は常軌を逸していて、おぞましい。それでいて全編を眺めると美しさの際立つのは、まったくもって解せないところではある。


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