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Soul Cinema
たかが映画、されど映画。映画あればこその我が人生。

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現役の映画監督たちに「影響を受けた作品」について尋ねれば、必ずや誰かがその名前を挙げ、フィルム・ノワールの傑作として今尚語り継がれるチャールズ・ロートン監督の「狩人の夜(THE NIGHT OF THE HUNTER)」を観た。

『ある死刑囚から、銀行を襲って手に入れた1万ドルを子供たちに託した事を聴いたハリーは、出所するや福音伝道師を装って未亡人と子供たちの住む町へ向かう。そして言葉巧みに未亡人に取り入り、結婚してしまう。彼の凶暴な正体を知り、母までも殺された幼い兄妹はふたりだけで逃亡を企てる。小舟に乗って川を下る兄妹はやがて身寄りのない子供たちの面倒を見ているクーパー夫人の家にたどり着くが、そこにもハリーは迫っていた……。』(Yahoo!映画のあらすじ紹介より)

夜なかなか眠ろうとしない幼児に「早く寝ないと怖いおじさんが来るよ」と親あるいは祖父母が少々おどかすのは古今東西問わないのではないだろうか。この「狩人の夜」はまさしくそのような類の話なのだが、信頼すべき伝道師が連続殺人鬼であり、子供が隠す大金欲しさにその命をつけ狙う(しかも賛美歌を口ずさみながら!)という内容は、恐らくキリスト教圏の人たちにとっては我々が想像する以上に背筋が凍るものに違いない。

この作品は旧約聖書、新約聖書が土台で、図式としては聖なる者VS悪魔になろうか。ロバート・ミッチャム扮するハリーが寝室で金目当てに結婚した妻(子供たちの母親)を刺殺する場面では壁に影が全く映らず、彼が悪魔であることを如実に物語っている。ハリーの右手の拳には「LOVE(愛)」、左手の拳には「HATE(憎悪)」と刻まれているが、検索してみると聖書においては"右手は神様、左手は私"というような解釈があるらしく、これはつまりハリー自身の邪悪さを示しているとも言えそうだ。

その悪魔と対峙するのが偶然子供たちを保護した厳格なクリスチャンのクーパー夫人(演じるのがリリアン・ギッシュ)なのだが、これも製作当時としてはかなり進歩的に思える。タフな母性像という点では後の「グロリア」や「ターミネーター」に先駆ける存在に当たるのではないだろうか。

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追ってくるハリーから逃れて兄ジョンと妹パールが小舟で川を下るところは、劇中で言及される、幼い救世主の命を奪おうと企むファラオから遠ざけようとモーセがナイル川に流された話がモチーフになっていると考えられるが、セットで作られた川に星明かりが反射し、岸辺に色々な動物(蛙と羊は聖書からで、亀と兎はイソップ寓話からか?)が佇むこのシーンはまるで人形劇か絵本のように幻想的で美しい。

「狩人の夜」の中でハリーの甘い囁きに全く騙されなかったのはジョンとクーパー夫人の2人だけだが(胡散臭く思う人は他にいたが)、私にはジョンがイエスで、クーパー夫人が聖母マリアであるようにも感じられた。物語の終盤、倒れこんだジョンを夫人が抱き上げる姿は十字架から降ろされたイエスを抱く母マリアの姿とも重なって見えたのである。

私は未見だが現在公開中のフランス映画「ジュリアン」の新聞評には、主人公の父親の狂気の萌芽が本作のロバート・ミッチャムの眼差しに重なると書かれていた。機会があれば「ジュリアン」も観てみたい。

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    こんばんは。
    これは怖い映画でしたね。川下りのシーンは幻想的で絵画的でした。
    カエルやウサギやフクロウが印象に残りました。ただ私はこの映画に
    善良であれ邪悪であれ、信仰の持つ狂気を感じました。

    [ hisa24 ]

    2019/2/11(月) 午後 10:15

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    > hisa24さん
    早速のコメントありがとうございます。

    終盤ハリーとクーパー夫人双方が讃美歌を口ずさむ場面で、彼は「リーンミー(私に頼れ)」彼女は「リーンオン・ジーザス(イエスに頼れ)」と歌いますが、これは善悪が表裏一体であることを示しているとも考えられ、それはhisa24さんが感じられた信仰の持つ狂気にも繋がってくるように思います。

    話は違いますが、最後ハリーが民衆から「青ひげ!」と糾弾されていましたが、検索してみたら「青ひげ」とはグリム童話の中の残酷な主人公のことだったんですね。

    「狩人の夜」は細かなディテールを知ると、より理解が深まる作品と言えそうです。

    [ The caged panther ]

    2019/2/11(月) 午後 11:30

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  • 検索してみましたらハリーとクーパー夫人は全く同じ歌詞を口ずさんでいるようです。

    「lean me」ではなく「leaning」でした。
    誤ったことをコメントしてしまい、すみませんでした。


    それとハリーは性的不能者であるらしいのですが、映画を観ている限りでは私はそれに気づきませんでした。ハリーが女性ばかりを殺めたのは、彼にとって女性は「悪」だったからなのでしょうね。

    [ The caged panther ]

    2019/2/12(火) 午後 7:23

    返信する
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    こんばんは。
    私もよく勘違いでレビューやコメントをしますのでノープロブレムです。
    同じ歌でしたか。ハリーとクーパー夫人は信仰を軸にして右と左に
    分かれているのかもしれませんね。どちらにも狂気を感じました。

    [ hisa24 ]

    2019/2/13(水) 午後 9:52

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    初めまして。

    川を下るシーンにはそんな寓意が込められてるんですね。
    時間の流れが無視されたようなカットの連続で
    私ではうまく理解、消化できず悶々としてました(笑)

    今後ともよろしくお願いします m(_ _)m

    あるふぃすた

    2019/2/18(月) 午後 2:27

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    > あるふぃすたさん
    初めまして。

    コメントありがとうございます。

    「狩人の夜」は細部までこだわって作られた映画かもしれませんね。

    コーエン兄弟が監督した「トゥルー・グリット」には「狩人の夜」から引用した場面があるらしいので、機会があれば観てみたいと思っています。

    [ The caged panther ]

    2019/2/18(月) 午後 9:21

    返信する

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