この物語の主人公である門万里子は、一度の失敗でつかみかけていた大きな夢を失ってしまう。失意の中、直前に読んだ本の「忘れられた島」を思い出し、思いつきではあるが行くことを決める。東京暮らしの生活になれてしまっている万里子は、離島での生活の厳しさを知っていく。

 

黒島ではうば捨てのような習慣があり、弱っていく親を子供たちは助けない。そしてそれが当然のこととなっている。また、4日に一度しか船がなく、自給自足も難しい。そんな島が日本にあるとは知らなかった。作中で万里子が言っていたが、同じ言語を話しているからこそそれがやりきれなくさせる。確かに、その島の人たちが外国語を話していれば、全く違う世界の話として認識していたかもしれない。話す言語が同じというだけで、黒島の生活の厳しさがどれほどのものか、同じ日本でもどれほど生活に差が出ているのかを理解することになる。

 

この本を読んで、黒島の生活の厳しさを知るとともに、いかに自分たちの生活が恵まれているかを知った。食べ物が当たり前のように手に入り、弱っていく親を助けることができる環境は、望んで手に入るものではないものだったのだと思った。

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「あ・うん」を読んで

仙吉、仙吉の妻たみ、仙吉の親友でありたみに思いを寄せる門倉。そこだけで考えるとどろどろした三角関係の話のように思えるが、門倉がたみに思いを寄せていることを知りながらも門倉を信頼し子供まであげようとする仙吉や、たみに思いを寄せながらも仙吉との友情も大切にしている門倉たちからは、醜い嫉妬などは感じられない。

作中でも言っていたが、周りからするとおかしな形でも、おかしな形なりにうまく均衡がとれている。誰かが何かを変えようとすればその均衡が崩れてしまい、その人たちの部分だけでなくその人たちの周りをも巻き込んで崩壊していく。それがわかっているからみんなさまざまな気持ちを隠して今の均衡を保っていたのだろう。

 

物語は若干中途半端なところで終わったように思うが、区切りのよいところで終わったようにも思える。仙吉と門倉はもとの関係に戻ったが、さと子と召集令状が届いた義彦の結末は描かれていない。今後のことはたみの予想で締めくくられている。実際にはどんな結末を迎えるのか、彼らの最後までを読みたいと思える作品だった。

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下巻は、長州藩が各戦線で勝利するところから始まる。数では幕軍のほうが圧倒的に有利だが、戦略は蔵六のほうが上だった。それほどまでの偉業をなし遂げたのだが、そのことを周りに言わないため、蔵六の故郷の人たちですらその事実を知らない。

蔵六は周りの雰囲気には流されない男だと思っていたが、「ひとびとの需要のためにのみ村田蔵六という男は存在している」とあるように、蔵六自身の意思で何かをしたいと思ったことはなく、人びとが蔵六に望むことを淡々とこなすように生きていると思えた。何事も機械的にこなしていく過程には蔵六自身の意思や考えがあるが、それらは目的を果たすための手段でしかないのではないか。

 

物語は蔵六が襲われその後死去したところで終わっている。本来ならもっと後世に名をとどめていてもおかしくはないのだが、ともに激動する時代を生き抜いたほかの人たちに比べるとその知名度は低いように思える。少々変わった人物であるが、その生き方には見習うべき点が多々あると思った。

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中巻は、村田蔵六が籍を置く長州藩の人間が放火事件を起こすなど過激化しているところから始まる。藩が過激化していく中でも、蔵六は議論にも加わらず周りの雰囲気に流されることはなかった。

この巻で筆者は、周りから狂人と称されている長州藩の攘夷主義とエネルギーが明治維新を成立させたと述べている。明治維新を成立させることはできなかったであろう福沢諭吉が現在でも使用されるお札として世界中に名を残し、成立させた者たちは歴史の教科書にその名が出てくるくらいである。

 

もともとは技術者である蔵六が長州の軍事司令官として名をはせることになる。一見無関係そうに見えるが、幕軍を疾患と例え、外科医としての知識を軍の指揮に活用する考え方には驚いた。1つの知識や固定観念に捉われず、自分が持っているさまざまな知識を合わせて最良の判断を下すことの大切さを知った。

 

中巻は幕軍を撃退するところまでが描かれている。下巻ではどのような終わり方を迎えるのか楽しみである。

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  話は「適塾」についてと、筆者が物語の主人公である村田蔵六(大村益次郎)に興味を持ったきっかけから始まる。適塾は緒方洪庵が開いた蘭学の私塾であり、福沢諭吉や橋本佐内など、後世に名をとどめる者たちの名前が門人帳に載っている。村田蔵六もその一人である。蔵六の家系は祖父の代から医者であり、長男である蔵六も村医者の後を継いで村医者になるという生涯が決まっていた。最初の師である梅田幽斎の勧めで緒方洪庵の適塾に入ることになる。

塾での生活は自治制となっており、一人の居住区が畳一枚分である。その狭い範囲に物品や夜具、机を置かなければならず、昼はろうそくをともして書見する。学業成績のよしあしによって、生活する畳の位置が変わるのが適塾の特徴であるようだった。成績が自分の生活にかかわるとなれば、勉強する意欲が湧き、向上心や競争心、塾全体の学力も向上する。ただ漠然と学ぶよりもはるかに効果的であると思う。

 

この上巻では、シーボルトの娘であるイネとの出会い、宇和島での生活、緒方洪庵の死などが描かれている。上・中・下の上であるが、中ではどこまでが描かれるのか、気になる終わり方である。

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